三題噺を毎日投稿 3rd Season

ママさんバレー・ふたご座・ウェブサイト

　ママさんバレーなんてものに関わる日が来るなんて思ってもいなかった。バレーボールは初心者だし、そもそも俺は男だ。ママさんバレーでできることなんてない。

　それなのに。

「今日からよろしくお願いします。コーチ」

　なぜか今日からコーチをお願いされてしまったのだ。これは大問題だ。

　運動自体が苦手ってわけじゃない。それなりに経験はしてきたつもりだ。バレーボールなんて体育の授業で遊んだことがあるくらいだ。それ以上の経験はない。そんな俺にどうしてコーチの話が来たかと言えば……。

「ほんと助かりました。他に頼れる人もいなくて」

　それはほんとうのこと。本来のコーチは怪我をして来られなくなってしまった。偶然その場に居合わせて病院へと運ぶ手配をしただけなのに、まさか彼の代わりを頼まれるなんてだれも思いやしない。

　今週のふたご座の占いを信じて行動してたらこれだ。ちっともいいことなんておきやしない。『だれかに助けを求められたら新しいことの始まり。それがあなたの今後の希望へと繋がります』

　助けを求められたのは確かだし、新しいことは始まった。けれど、これが今後の希望へと繋がる可能性を考えてもちっとも思い当たらない。

「いえ。元をたどれば俺にも原因があるので……」

　引き受けた理由のひとつに占いはあるけれど、やっぱり怪我をさせてしまったことが大きい。結局は後ろめたさだ。

　けれど、大体は相手が悪い。急にスマホを操作しながら電動キックボードで飛び出してきたのはあちらだ。まったく警戒していなかったわけじゃない。それどころか始めから危ないと思って気をつけていたのにこちらの自転車の前に飛び出してきたのだ。

　救急車を呼ぶまでもなかったのだけれど、簡単には動けないということで助けが来るまで一緒にまった。警察にも連絡をして状況説明もした。そうしている内にバレーボールのユニフォームを着込んだおばさんたちが集まってきた。

　怪我をした彼がコーチと呼ばれているのを見てなんとなく察しはついたのだけれど。次の言葉の予測はできなかった。

『あなたがぶつかったのだから私の代わりにコーチをお願いできますよね？』

　今日が大会。それもコーチが必須。自分はいけないので代わりに言ってくれとそういうことだった。

　今日だけはということで引き受けた。けれど、もう次のことを見据えて行動はとっている。ウェブサイトを通じて次のコーチの募集を始めておいた。ママさんバレーのコーチを引き受けるなんて物好きは少ないと思うがそこは拡散力に自信があるインフルエンサーとしての自分が役に立つ。

「ええ。今日だけですがよろしくお願いしますね」

　今日だけ。その部分を強めて彼女たちにそう伝えた。