三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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被験体・のり弁・土下座

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 お弁当がテーブルの上に並べられていた。好きなものを選んで良いと言われたけれど選択肢は多くない。

 唐揚げ、鮭、のりの三種。

 のり弁だけボリュームが頭ひとつ低い。それが故に自分から他の弁当に手を伸ばすのが少々気が引けた。

「どったの? 選ばないの?」

 初対面でありながら随分と馴れ馴れしい彼女の名前は知らない。名乗る必要もないと一蹴された。彼女にはではない。この施設の管理者……この治験の責任者にだ。

 被験体として集まったメンバーは年齢、性別、国籍、様々だった。これだけの人を集めて何をするのかは教えられていない。治験の内容を教えられていないのはそれが治験に必要だから、としか説明を受けていない。

「あ、ああ。最後でいいかなって」
「最後でいいの? 唐揚げ弁当とか人気ですぐになくなっちゃうよ」

 彼女はまっさきに唐揚げ弁当を手にとって自分のテーブルへと移動していった。

「おー。弁当の種類これだけかよ。さっさと選ぼうぜー」

 どんどんと弁当の山が低くなっていく。のり弁以外の山がだけど。

 ようやく弁当を受け取る気になったのは受け取る人が少なくなったころだ。大人しくのり弁を取り、ひとりゆっくりと食べた。

 それが何日も毎食、続いた。そして、それ以外、なにもなかった。

 施設はそれなりに充実しているが、外へ出ることは不可能。中での生活は好きにして良いと言う話だ。

 そうしているうちに、被検体の間にも序列が生まれた。それは自然のことであるようにも思える。上に立つものが生まれそれに従うものが増え、そこに入れないものは虐げられた。

 土下座をしている姿なんかも毎日のように目にするようにもなる。悪化していく環境の中でどういう行動を取るかをきっと観察しているのだ。そう思うことでここでの生活を耐えようとしていた。

 そうしてあるときに、気がつくのだ。初日にのり弁をすすんで手に取った者が虐げられている場合が多いと。

 あそこからもう決まっていたのだ。そう思うと、救いようもない場所だなと思った。
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