三題噺を毎日投稿 3rd Season

海面・アイヌ・ガラケー

　アイヌがいると言う噂はすぐに広まった。いや、ほんものではないそくっりさん。それも漫画の登場人物のってことで広まった。とんだ災難だ。物事が流行るとどうしてだかその影響を受ける人が極端に増えるタイミングがある。

　この漫画もそうだ。連載が始まってから追いかけていたし、途中で出てきたその登場人物に自分がよく似ていることは自覚していた。けれど、そのことをだれも指摘してこなかったし自分から風聴したりしなかった。当然だ。その漫画を知っている人が周りにいなかったのだから話す気にもならない。それもみなが今やガラケーと呼ばれる携帯電話を持っていた頃から連載している漫画だ。知らない人も当然多かった。

　それが当然、今になってアニメ化。それにより流行。ちらっと横目でこちらを確認する人が増えた。こっちにしてみればたまったもんじゃない。密かな喜びが辱めに変わった瞬間だった。

　そっからは顔をなるべく隠しながら生きてきた。たとえ自意識過剰と言われても、妙な視線を感じながら過ごすよりかはずっとマシだった。

　そんな生活も飽きた時、水面に浮かんでいる例の漫画を見つけた。流行ればこういう機会に巡り合うことも増える。それはなんだか悲しい気持ちにもさせる。流行る前はこんなことになることもなかっただろう。多くの人数の手に渡ればこういう扱いをする人の手に渡ることだってある。

　流行るまでは流行れとずっと思っていた。でも実際流行ってみたら望んでないことばかりが起こる。自分が願ったからなんてのはおこがましいのは分かっている。けれど、応援していなかったらこうも気分が沈むことがなかったのだろうと思うと、なんだかなぁと思う。
　
　自分の働きでことが動いたことでない事柄に対しては余計にそう感じる。

　びしょ濡れになった漫画を拾った。ページなんとかめくれるが今にも破れてしまいそうなくらいに脆くなっている。

　自分とよく似た顔がいるページにたどり着く。その瞬間、顔の部分が破れた。何かを示唆しているようなその出来事にどうしていいか分からず漫画を元の水の中へと戻してしまう。まるで自分が破れてしまったような感覚に襲われる。

　ほんと、どうしてこんなことになってしまったのだろう。それはいくら考えても分かりっこないことだ。