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金賞受賞・たぬき・ししおどし
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ししおどしの音が静かな部屋に響きわたった。神経が研ぎ澄まされた状態というのはこういうことを言うのだろうと、ひとり蚊帳の外の自分はそう思う。研ぎ澄まして今にもお互いに斬りかからんとしているのはふたりの高校生だ。
ふたりが対峙している理由はひとつ。畳返しをするタイミングを見計らっているからだ。
畳返し選手権。その決勝戦だ。ルールは単純。一畳の畳をどちらが正確にひっくり返すことが出来るのかというそれだけ。勝負は一瞬。けれど、その一瞬は互いにタイミングを測り続けなかなかやってくるのはいつになるかは分からない。
先に動いたほうが負ける。そんな言葉があるくらいには畳を返す瞬間というの隙が大きい。返した瞬間に浮かび上がった畳を返すことが容易であることからカウンターが優勢であるというのが定石だ。しかし、相手の集中の隙間を縫って先手で返すことも不可能ではない。だからこそ、集中が切れるその一瞬を互いに狙いすませ続けなくてはならないのだ。
そしてその戦いを続ける高校生は互いに特徴的な顔の骨格をしていた。いっぽうはきつね。いっぽうはたぬきだ。きつね顔は”神速”。たぬき顔は”幻術師”とよばれている。きつね顔は先手で返すことを得意としており、たぬき顔はカウンターを得意としている。この決勝までは互いに時間をかけることなく決着がついていたのだが、実力者どうしの戦いとなるとそうもいかないらしい。睨み合いが続いている。
審判としてここに立っているのも神経を使う。いつ勝敗が決まるかわからない戦いだ。故に終わりも見えない。終わりが見えない中で集中し続けるというのは大変だったりする。始まってしまえば一瞬で決着がついてしまうがゆえに審判とあれど集中を切らすわけにはいかない。
そしてその瞬間は突然に訪れる。
さきに動いたのは当然のようにきつね顔。けれど、動かしたのはたぬき顔だ。一瞬だけ気が抜けたように視線が動いた。それを見逃すきつね顔じゃない。けれど、たぬき顔はさも当然の様にカウンターを決めてみせた。狙ったのだ。わざと視線を動かしてきつね顔を動かしたのだ。その技術こそが幻術師の由来。惑わされたかのように誘われてしまうのだ。
畳が帰った瞬間にたぬき顔は動き返ってきた畳の縁に指を引っ掛けると器用に再び返した。きつね顔の上を通過して後方へと落下。それが決着の合図だった。
両者、金賞受賞で間違いない。
不思議なのだが決勝戦をやっているのに順位と言う概念がない競技なのだ。金賞、銀賞、銅賞に分かれるだけ。ただ、きつね顔とたぬき顔が強すぎてふたり以外に金賞は久しく存在していない。それくらいふたりは歴代選手の中でも飛び抜けた逸材だ。
両者とも教え子ながら鼻が高い。そう思いながら会場をあとにした。
ふたりが対峙している理由はひとつ。畳返しをするタイミングを見計らっているからだ。
畳返し選手権。その決勝戦だ。ルールは単純。一畳の畳をどちらが正確にひっくり返すことが出来るのかというそれだけ。勝負は一瞬。けれど、その一瞬は互いにタイミングを測り続けなかなかやってくるのはいつになるかは分からない。
先に動いたほうが負ける。そんな言葉があるくらいには畳を返す瞬間というの隙が大きい。返した瞬間に浮かび上がった畳を返すことが容易であることからカウンターが優勢であるというのが定石だ。しかし、相手の集中の隙間を縫って先手で返すことも不可能ではない。だからこそ、集中が切れるその一瞬を互いに狙いすませ続けなくてはならないのだ。
そしてその戦いを続ける高校生は互いに特徴的な顔の骨格をしていた。いっぽうはきつね。いっぽうはたぬきだ。きつね顔は”神速”。たぬき顔は”幻術師”とよばれている。きつね顔は先手で返すことを得意としており、たぬき顔はカウンターを得意としている。この決勝までは互いに時間をかけることなく決着がついていたのだが、実力者どうしの戦いとなるとそうもいかないらしい。睨み合いが続いている。
審判としてここに立っているのも神経を使う。いつ勝敗が決まるかわからない戦いだ。故に終わりも見えない。終わりが見えない中で集中し続けるというのは大変だったりする。始まってしまえば一瞬で決着がついてしまうがゆえに審判とあれど集中を切らすわけにはいかない。
そしてその瞬間は突然に訪れる。
さきに動いたのは当然のようにきつね顔。けれど、動かしたのはたぬき顔だ。一瞬だけ気が抜けたように視線が動いた。それを見逃すきつね顔じゃない。けれど、たぬき顔はさも当然の様にカウンターを決めてみせた。狙ったのだ。わざと視線を動かしてきつね顔を動かしたのだ。その技術こそが幻術師の由来。惑わされたかのように誘われてしまうのだ。
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