70 / 145
幽霊・親知らず・感謝状
しおりを挟む
そのアパートに幽霊が出ると聞いたのは偶然だった。信憑性があるなと思ったのはそこが廃墟でもなければ汚くもない、むしろ小綺麗なデザイナーズマンションに近い雰囲気を醸し出していたからだ。
とても幽霊が出るようには見えない。けれどその噂ひとつで家賃が格安と言うのだから飛びついた。引っ越しを考えていたのだからちょうどよかったのだ。たとえそれにたとえ幽霊を現れても霊感がないのだから見えようがない。となればちょっとおしゃれな格安アパートでしかない。
大家さんとの交渉もなんの支障もなく進み、順調にことが進んだ。大家さんから幽霊が出ても解約は出来たいと口頭で念を押されたのだけが少々気になった。そう言うってことはやっぱり出るってことだと再確認したがそこで引くことも出来ずに了承した。念を押されると心が揺らぐのはなんでだろう。
そしてその契約を交わしているときに親知らずが痛みだしたっていうのも不安にさせた要素のひとつだ。確かに怪しい感じはしていたけれど、このタイミングで急に痛みだすなんてこれからのことの予兆かなんだろうかと勘ぐってしまう。この契約はやっぱり危険だったのかと後悔し始める。勢いでここまで来てしまったのが行けなかったか。
いつもこうだ。思いついたら一直線。考えがまとまる前に走り出してしまって後悔する。でも、幽霊なんて見えないんだから問題なよな。そう言い聞かせる。この助走は間違っていない。そのはず。
「お客さん?」
黙ってしまったので大家さんが不安そうに聞いてきた。
「あ、いえ大丈夫です。進めて下さい」
「いやね。この建物も色々変な噂があるんですが、元々は街から感謝状が出るくらいにはこのあたりの名物として建てられたものでしてね。人気も絶大。入居待ちって、珍しい物件なんです」
急に押しが強くなってきた大家さんに不安が増す。様々なことが重なり過ぎている。嫌な予感しか無い。
「あっ。あの!」
「なにか? どうかしました? 疑問があれば今のうちに」
余計なことを言うんじゃない。そんな空気が大家さんから漏れ出している。自分でもどうして話を遮ったのか分からない。なにか嫌な予感がする。それだけだ。
「い、今からもう一度考え直すってことは……」
「それはもう無理ですね。契約は交わしてしまいましたので。次の契約更新まで住んでいただきます」
「えっ。それは強制ですか?」
「そうですね。その契約書にそう書いてあるはずですが」
確かにそう書いてあるのを確認して絶望が訪れる。やっぱりこのアパートにはナニかあるのだ。
「は、はい。分かりました」
自分で決めたことだ。それ以上はなにも言えなかった。
これから待っているであろう幽霊との共同生活を想像して、考えるのをやめた。
とても幽霊が出るようには見えない。けれどその噂ひとつで家賃が格安と言うのだから飛びついた。引っ越しを考えていたのだからちょうどよかったのだ。たとえそれにたとえ幽霊を現れても霊感がないのだから見えようがない。となればちょっとおしゃれな格安アパートでしかない。
大家さんとの交渉もなんの支障もなく進み、順調にことが進んだ。大家さんから幽霊が出ても解約は出来たいと口頭で念を押されたのだけが少々気になった。そう言うってことはやっぱり出るってことだと再確認したがそこで引くことも出来ずに了承した。念を押されると心が揺らぐのはなんでだろう。
そしてその契約を交わしているときに親知らずが痛みだしたっていうのも不安にさせた要素のひとつだ。確かに怪しい感じはしていたけれど、このタイミングで急に痛みだすなんてこれからのことの予兆かなんだろうかと勘ぐってしまう。この契約はやっぱり危険だったのかと後悔し始める。勢いでここまで来てしまったのが行けなかったか。
いつもこうだ。思いついたら一直線。考えがまとまる前に走り出してしまって後悔する。でも、幽霊なんて見えないんだから問題なよな。そう言い聞かせる。この助走は間違っていない。そのはず。
「お客さん?」
黙ってしまったので大家さんが不安そうに聞いてきた。
「あ、いえ大丈夫です。進めて下さい」
「いやね。この建物も色々変な噂があるんですが、元々は街から感謝状が出るくらいにはこのあたりの名物として建てられたものでしてね。人気も絶大。入居待ちって、珍しい物件なんです」
急に押しが強くなってきた大家さんに不安が増す。様々なことが重なり過ぎている。嫌な予感しか無い。
「あっ。あの!」
「なにか? どうかしました? 疑問があれば今のうちに」
余計なことを言うんじゃない。そんな空気が大家さんから漏れ出している。自分でもどうして話を遮ったのか分からない。なにか嫌な予感がする。それだけだ。
「い、今からもう一度考え直すってことは……」
「それはもう無理ですね。契約は交わしてしまいましたので。次の契約更新まで住んでいただきます」
「えっ。それは強制ですか?」
「そうですね。その契約書にそう書いてあるはずですが」
確かにそう書いてあるのを確認して絶望が訪れる。やっぱりこのアパートにはナニかあるのだ。
「は、はい。分かりました」
自分で決めたことだ。それ以上はなにも言えなかった。
これから待っているであろう幽霊との共同生活を想像して、考えるのをやめた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる