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サスペンダー・エチゼンクラゲ・エレベーターピッチ
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「いい話があるんですよ」
上着の隙間からサスペンダーがやたらと目立つ男性が話しかけてくる。そうふたりきりになった瞬間に切り出してきたのは、一緒に仕事をしたことがあるだけの知人。仲がいいとか悪いとか言う話、以前の関係性だ。お互い仕事が出来る優秀な人材ということは認識しているものの積極的に関わらないほうがいいと思っていた。
どうしてかって。極端な話。優秀な人間は良くない人が多いのだ。これは自分を参考にしているのだから間違いない。悪意を積極的に周りに撒き散らしたいわけではない。どちらかと言えば悪意なんて人に向けるものではないと思っている。
「へえ。どんなのです?」
だからとりあえず、無難な返しをしておく。興味が無いわけではないですよ。あなたの話も聞きますよ。のスタンス。けれど、中身を信じる気はなかった。そもそも優秀な人からのいい話なんてだいたいが嘘に決まっている。
「いえね。僕の地元が福井の方なんですけど。最近エチゼンクラゲがよく見られるらしくて。それがやっぱ神秘的だって言うんですよ。それこそ広大な海に壮大なクラゲが漂っている姿はそれはもう自分がいかにちっぽけかって物を思い知らされるみたいで。ちょうど今週末見頃って言うんで、良かったら一緒に行きません? あっ。返事は仕事終わりの頃にもう一度声かけますんでその時までに考えてくれればいいです」
まるでエレベーターピッチだ。短い時間でこちらの心を揺さぶって去っていった。
それに意図がつかめない。まるで誘われた理由に見当がつかないのだ。メリットもない。お互い独身で無趣味。仕事が生きがい。なんて情報は広まっているから予定がないのは予め想像出来るとしてもだ。流石に一度も遊んだこと無い相手を誘う意味が分からない。
結局、その日一日、彼に振り回される結果になった。頭の片隅に常にエチゼンクラゲのことがよぎって仕方ないのだ。確かにそれは魅力的な光景に思えた。海上から見るにしても海中に入るにしてもその姿は尊厳で偉大に思えるだろう。
どんな様子なのだろうと想像するだけで胸が昂ぶる。そりゃ仕事にならないはずだ。
サスペンダーにうまいこと乗せられたな。そう思いながらも彼への返事は決まっていた。
上着の隙間からサスペンダーがやたらと目立つ男性が話しかけてくる。そうふたりきりになった瞬間に切り出してきたのは、一緒に仕事をしたことがあるだけの知人。仲がいいとか悪いとか言う話、以前の関係性だ。お互い仕事が出来る優秀な人材ということは認識しているものの積極的に関わらないほうがいいと思っていた。
どうしてかって。極端な話。優秀な人間は良くない人が多いのだ。これは自分を参考にしているのだから間違いない。悪意を積極的に周りに撒き散らしたいわけではない。どちらかと言えば悪意なんて人に向けるものではないと思っている。
「へえ。どんなのです?」
だからとりあえず、無難な返しをしておく。興味が無いわけではないですよ。あなたの話も聞きますよ。のスタンス。けれど、中身を信じる気はなかった。そもそも優秀な人からのいい話なんてだいたいが嘘に決まっている。
「いえね。僕の地元が福井の方なんですけど。最近エチゼンクラゲがよく見られるらしくて。それがやっぱ神秘的だって言うんですよ。それこそ広大な海に壮大なクラゲが漂っている姿はそれはもう自分がいかにちっぽけかって物を思い知らされるみたいで。ちょうど今週末見頃って言うんで、良かったら一緒に行きません? あっ。返事は仕事終わりの頃にもう一度声かけますんでその時までに考えてくれればいいです」
まるでエレベーターピッチだ。短い時間でこちらの心を揺さぶって去っていった。
それに意図がつかめない。まるで誘われた理由に見当がつかないのだ。メリットもない。お互い独身で無趣味。仕事が生きがい。なんて情報は広まっているから予定がないのは予め想像出来るとしてもだ。流石に一度も遊んだこと無い相手を誘う意味が分からない。
結局、その日一日、彼に振り回される結果になった。頭の片隅に常にエチゼンクラゲのことがよぎって仕方ないのだ。確かにそれは魅力的な光景に思えた。海上から見るにしても海中に入るにしてもその姿は尊厳で偉大に思えるだろう。
どんな様子なのだろうと想像するだけで胸が昂ぶる。そりゃ仕事にならないはずだ。
サスペンダーにうまいこと乗せられたな。そう思いながらも彼への返事は決まっていた。
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