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人工衛星・万葉集・三兄弟
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「ねえ。なんで万葉集なんて読んでんの?」
自室にいて一緒にいるのにずっと黙りこくって本ばかりに目を落としている彼女に我慢できなくなって、つい声を掛けてしまった。
「あんたの態度が悪いから」
態度が悪いのはどっちだよと思わないでもないが、今日だけはなにも言えずにぐっと堪える。
付き合ってちょうど一年の今日という日付を祝わなかった。きっとそれだけだったらこんなことにはなってない。忘れてしまっていたことを指摘されて感情の昂ぶりを素直に出してしまったのがいけない。
『えっ。それって重要?』
半分くらい本心で半分以上は勢いだ。祝うなんてことまでは発想に至ってなかったかれど、ちゃんと日付は覚えていた。ひとこと言えばいいかなと思っていたのだけれど、言う前に彼女の方から指摘された。ちゃんと祝う準備をしておけばよかったのだと。今思えばそれだけのことでしかないのだけれど。一旦上がってしまった熱が覚めるのは時間がかかる。そのための万葉集なのかもしれないのに、こちらから声を掛けてしまったら全てが水の泡。
「ごめんなさい」
三兄弟の真ん中で育った身だ。こういうことはさっさと謝って終わらせるに限る。そうのはずだったので、謝ったのだけれど。
「いいの。謝らないで」
おお。分かってくれた。
「結局その程度の関係だったってだけよ」
そんなわけなかった。より機嫌をそこねたみたいだ。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ」
「はっ。そんなの自分で考えれば?」
一蹴された。たしかにそうなのだけれど、どうすればいいっていうんだ。今、読んでいる万葉集でも参考にしろっていうメッセージだったりするのか。しかし非常に残念なことに万葉集の知識なんて全くと言っていいほどに持っていない。もっと真面目に授業を受けておけばよかった。いや、それくらいでどうにかなる問題でもないか?
いくら自分で考えても分からないそうだったので。スマホにたよることにした。
『万葉集 喧嘩 仲直り』
それっぽいのは出てこない。ワードを変えようかとも思ったけれど、思いつきもしない。
なんだか全部面倒くさくなってしまった。ヤケクソ気味にベッドに横になると。なんとなくスマホを眺める。
「あっ」
そう言えばそうだった。
「今日、この街の上を人工衛星が通るんだよ。見に行こぜ」
「はぁ。人工衛星じゃない。宇宙ステーション」
違うのか。
「でもそれはいいアイデア。行くわ。さっさと準備して」
「えっ。もう行くのか? 夜だぜこれ」
「よく見える丘の上まで行くの。それなりに時間かかるのよ。さ。ほら」
急にスイッチが入った彼女に戸惑いつつも、ま。いいかと仕方無しに準備を始めた。
「分かったよ」
女心はホントに分からない。ちょっとだけでも万葉集でも勉強しようかなと思った。そんな簡単のことじゃないけど。
自室にいて一緒にいるのにずっと黙りこくって本ばかりに目を落としている彼女に我慢できなくなって、つい声を掛けてしまった。
「あんたの態度が悪いから」
態度が悪いのはどっちだよと思わないでもないが、今日だけはなにも言えずにぐっと堪える。
付き合ってちょうど一年の今日という日付を祝わなかった。きっとそれだけだったらこんなことにはなってない。忘れてしまっていたことを指摘されて感情の昂ぶりを素直に出してしまったのがいけない。
『えっ。それって重要?』
半分くらい本心で半分以上は勢いだ。祝うなんてことまでは発想に至ってなかったかれど、ちゃんと日付は覚えていた。ひとこと言えばいいかなと思っていたのだけれど、言う前に彼女の方から指摘された。ちゃんと祝う準備をしておけばよかったのだと。今思えばそれだけのことでしかないのだけれど。一旦上がってしまった熱が覚めるのは時間がかかる。そのための万葉集なのかもしれないのに、こちらから声を掛けてしまったら全てが水の泡。
「ごめんなさい」
三兄弟の真ん中で育った身だ。こういうことはさっさと謝って終わらせるに限る。そうのはずだったので、謝ったのだけれど。
「いいの。謝らないで」
おお。分かってくれた。
「結局その程度の関係だったってだけよ」
そんなわけなかった。より機嫌をそこねたみたいだ。
「じゃあ、どうしろって言うんだよ」
「はっ。そんなの自分で考えれば?」
一蹴された。たしかにそうなのだけれど、どうすればいいっていうんだ。今、読んでいる万葉集でも参考にしろっていうメッセージだったりするのか。しかし非常に残念なことに万葉集の知識なんて全くと言っていいほどに持っていない。もっと真面目に授業を受けておけばよかった。いや、それくらいでどうにかなる問題でもないか?
いくら自分で考えても分からないそうだったので。スマホにたよることにした。
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それっぽいのは出てこない。ワードを変えようかとも思ったけれど、思いつきもしない。
なんだか全部面倒くさくなってしまった。ヤケクソ気味にベッドに横になると。なんとなくスマホを眺める。
「あっ」
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違うのか。
「でもそれはいいアイデア。行くわ。さっさと準備して」
「えっ。もう行くのか? 夜だぜこれ」
「よく見える丘の上まで行くの。それなりに時間かかるのよ。さ。ほら」
急にスイッチが入った彼女に戸惑いつつも、ま。いいかと仕方無しに準備を始めた。
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