三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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第三者・ザッハトルテ・奥義

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 第三者から見てその家は異様な光景だった。外観の話ではない中身の話だ。そして中がいようと言うことは当然のように住んでいる人も異様に見える。よそ者がとやかく言う話でもないことも理解している。それでも、そのワンルームの賃貸は異様だった。

 そもそも足を踏み入れた経緯からしてよろしくない。先入観が付きまとう。匂いがすごいから調べてくれ。だ。そんなことを言われたら身構えるし、管理している身として逃げられない問題だ。

 部屋に入った時の第一印象は甘ったるい匂いだ。比較的マシないおいであるが、異様なにおいであることは間違いない。なにゆえ毎日のようにこのような匂いを漂わせることができるのか自体が謎だ。

「えっと。それで、なんのようでしょうか?」

 玄関の扉を開けた入口から見える景色は積み上げられた段ボール。出てきた家主はエプロンをしていて、料理中。それは奥に見える火のついたコンロからも判断できた。そしてどうやらその甘い甘い匂いはそこから漂っているようにも思う。

「えっと。住民たちからこの部屋からの匂いについて苦情がありまして。それで、なにをしているのかを確認に……」
「えっ。それってこのチョコレートの匂いですか?」
「ええ。どうやらそうみたいです」

 積み上げられた段ボールには確かにチョコレートの文字が並んでいる。種類はたくさんあるようだし、箱の形も様々だ。

「すみません。チョコレート菓子の練習をしなくちゃいけなくて、毎日のように溶かしてたからですよね。でも、どうしましょう。私もこれをやめるわけにはいかないですし、とてもじゃないですが、引っ越す資金なんて……」

 とりあえず困っているのは分かった。ただ苦情は苦情だ。どうにかしてもらわなくてはほかの住民に示しが付かない。

「そこをなんとか。匂いを出さないようにするだけでいいので」
「そんなことを言われましても……あっ。管理人さんも食べます? ザッハトルテ作ってたんですけど、上出来なのが完成したんです」

 そういって、台所から丸くて黒いケーキを持ち出してきた。いい匂いがする。これを毎日のように嗅がされていたら確かにおかしくなってしまうかも。

「あれ? もしかして、毎日これ食べてるんですか?」
「え、ええ。お恥ずかしながら。でも、最近は作りすぎちゃってちょっと大変で……」

 もしかして。と、お腹がすいてきた自分の腹を撫でて少しの時間考える。

「あの、提案があるんですが」

 その提案を受け言えてくれたチョコレート菓子作りの卵は、その日から毎日のように住民にチョコレート菓子を配り続けた。結局それだけで苦情もおさまり、めでたしめでたし。

 最初っからいい匂いで食べたくなるのを我慢するのに耐えかねていただけなのだ。

 これぞ。奥義、ご近所付き合い。
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