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ゴリラ・漁師・《モエ・エ・シャンドン》
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船が次々に港から出ていく。太陽も顔を見せていない時間だ。漁船から放たれる光は段々と離れていくのを複雑な気持ちで見送ることしか出来ない。不思議な気持ちだった。母はこうやって父を見送っていたのだろう。まさかその役目を自分が引き継ぐだなんて思いもしない。
ほんとなら今頃、都会でモエ・エ・シャンドンでも飲んでいたはずなのにな。
ほんとこの数日で色々あった。母がいなくなって、父は落ち込み過ぎて魂が抜けたみたいになったしまった。うんとかすんとかしか言わない。このままボケてしまってすぐにでも父まで失ってしまいそうだった。うんとかすんしか言わないのであれば、仕事でもしてもらっていたほうが本人の気も紛れるだろうと思って、半ば同意なく送り出した。
うん。とだけ言っていたが大丈夫だろうか。
なんだかんだで仕事一筋だった父には母が必要だったということだろう。それが今回のことでよく分かった。あんなに会話しているのをみたことがなかったのに、外からは分からないことがあるものだ。それがたとえ子どもだったとしてもだ。
ゴリラみたいな父親が苦手だった。仕事は頑張るけれど、家では一言もしゃべらないしどころかしゃべれば母と私が睨まれた。仕方なく大人しくしていたし、家にいる時間も成長するにつれ少なくなっていった。それが当然の結果だと思うし、後悔もしていない。家族の時間を大切になんて道徳的なことを言われたって先に自分のほうが限界が来てしまっただろうということは間違いない。
だからこれで良かったのだと。思っているのだけれど。
なんかもっと出来ることがあったんじゃないか。三人でしかできないことはたくさんあったはずなのだ。でも、それを叶えるためには誰かが壊れる必要があった。それをみんな嫌がった。その結果が今だ。
正解なんて分かりやしない。母は笑って最後を迎えた。それだけでもよかったのだと思うしか無い。私も今週中には都会へ戻らなくてはならない。
ひとりになった父はどうするのだろう。ひとりで仕事に向かってくれるだろうか。母の代わりになって毎日見送らなくてはならないのか。それも悪くないが、なんだか違う気がする。
これまでとなにかを変えることもない。母がいなくなった穴をふたりが自分自身で埋めていくことしか出来ないのだ。そこを無理やり他の方法で埋めようとすればきっとどこかが壊れてしまう。それは母が望んだものではないような気がした。
だからこれが最後だからね。そう父親が見えなくなるまで目を離さなかった。
ほんとなら今頃、都会でモエ・エ・シャンドンでも飲んでいたはずなのにな。
ほんとこの数日で色々あった。母がいなくなって、父は落ち込み過ぎて魂が抜けたみたいになったしまった。うんとかすんとかしか言わない。このままボケてしまってすぐにでも父まで失ってしまいそうだった。うんとかすんしか言わないのであれば、仕事でもしてもらっていたほうが本人の気も紛れるだろうと思って、半ば同意なく送り出した。
うん。とだけ言っていたが大丈夫だろうか。
なんだかんだで仕事一筋だった父には母が必要だったということだろう。それが今回のことでよく分かった。あんなに会話しているのをみたことがなかったのに、外からは分からないことがあるものだ。それがたとえ子どもだったとしてもだ。
ゴリラみたいな父親が苦手だった。仕事は頑張るけれど、家では一言もしゃべらないしどころかしゃべれば母と私が睨まれた。仕方なく大人しくしていたし、家にいる時間も成長するにつれ少なくなっていった。それが当然の結果だと思うし、後悔もしていない。家族の時間を大切になんて道徳的なことを言われたって先に自分のほうが限界が来てしまっただろうということは間違いない。
だからこれで良かったのだと。思っているのだけれど。
なんかもっと出来ることがあったんじゃないか。三人でしかできないことはたくさんあったはずなのだ。でも、それを叶えるためには誰かが壊れる必要があった。それをみんな嫌がった。その結果が今だ。
正解なんて分かりやしない。母は笑って最後を迎えた。それだけでもよかったのだと思うしか無い。私も今週中には都会へ戻らなくてはならない。
ひとりになった父はどうするのだろう。ひとりで仕事に向かってくれるだろうか。母の代わりになって毎日見送らなくてはならないのか。それも悪くないが、なんだか違う気がする。
これまでとなにかを変えることもない。母がいなくなった穴をふたりが自分自身で埋めていくことしか出来ないのだ。そこを無理やり他の方法で埋めようとすればきっとどこかが壊れてしまう。それは母が望んだものではないような気がした。
だからこれが最後だからね。そう父親が見えなくなるまで目を離さなかった。
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