三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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かんざし・缶蹴り・カンガルー

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 お土産屋さんでかんざしを見かけて思わず手に取ってしまった。先っぽにとんぼ玉がくっついている。説明書きに線香花火と書かれている。言われてみれば濃い藍色は夜に見えるし、その中心に金色の線が入っているのが花火なのだろう。

「それ、欲しいのか?」

 肩越しに顔をのぞかせる夫に即座に返事もできない。すっかり買ってもらうなんてことを忘れてしまった。聞いてくれたってことは。なんて淡い期待が生まれる。

「そうじゃないなら次行こうぜ。ここ飽きた」

 期待と違ったことに肩を落としながら、小さくうなずいてから彼についていく。観光地の道は混雑していて自由に歩き回れる余裕はない。きっと戻ってこられないよな。

 後ろ髪を引かれながらもお土産屋さんを後にする。

「なあ、明日缶蹴りしようぜって来てるんだけど」

 共通の友人の名前を出しながらスマホの画面を見せてくる。確かに、缶蹴りをしようぜ。と書いてあるし、缶を蹴っているパンダのスタンプも添付されている。そんなスタンプあるんだ。ちょっとだけ気になる。いやそうじゃない。

「缶蹴りって昔はたくさんやったけど、今になってやるもの?」
「だよなぁ? 何言ってるんだろこいつ。なんかあったんかな。彼女にフラれでもしたか?」

 彼女の顔は思い浮かばない。会うたびに違う人の名前を言っているし、いつもあっけらかんとしている。そんな人がフラれたくらいで缶蹴りをしたがるだろうか。そもそもどんな状況になったらいい歳して缶蹴りをしたくなると言うのか。

「そういえば昔はよく缶蹴りしたよなぁ。あの公園なんだっけ。もう無いんだよなぁ」
「カンガルー公園って呼んでたけど。もうないね。あのカンガルーが危なかったって話だよ」

 カンガルーの形をしたすべり台があったのだ。缶蹴りのときにはよくその下の空間に隠れていたものだ。

「なあ。久しぶりに缶蹴りやろうぜ。なんだか懐かしくなってきた」

 私も彼と一緒だ。思い出している内にやりたくなってくる。きっとすぐに疲れて飽きてしまうだろうけれど、集まってやろうと言う気持ちになるだけで意味があるハズだ。

「うん。いいよ」
「それで逃げ切ったら、賞品をやるよ」

 賞品? 珍しいことを言うものだ。いつも最初に見つかる私のことをバカにしているのだろうか。

「いいよ。私は何を用意しようかな」

 賞品にふさわしいもの。見当がつかない。最近なにを欲しがってたっけな。

「そっちからはいいよ。お前が逃げ切ったときだけ」
「なによそれ」
「いいから」

 彼は結局その理由を教えてくれなかった。でも、缶けりの後。髪の毛に線香花火のとんぼ玉がついた。きっとそういうことだと思うことにしている。
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