三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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白雪姫・電波塔・魚眼レンズ

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 電波塔に登った。それだけ言うと認識に齟齬が生じる。もっと正確に言えば東京都墨田区にある東京スカイツリーに2700円のチケットを購入して地上450メートルの天望回廊までエレベーターで昇ったのだ。

 最初は昇るだけでそんなに金額を取られるのかと乗り気じゃなかったがいざ上空へ行ってみるとその開けた景色に胸が打たれた。せこいことを考えてお金をケチって昇らないことを選択しなくて本当に良かったと思った。それくらい遠くまで見渡せる。

 東京都だけじゃない、神奈川、栃木、千葉。関東平野を見渡せる場所。そんなのが東京に立っているのだ。知識として知っていたのに実際に見た感触はこうも違うものか。

 すごいなぁ。と感心してしまう。

 自分でも陳腐な表現だと思う。工夫も何もない感想でしかない。でもそれだけで十分にも思えた。人間が本当に驚いたときには単純なものしかでてこないのだ。

 すご過ぎて自分がちっぽけな存在に思えてくる。

 そんなつもりじゃなかったのにな。まるで魚眼レンズで見た世界の景色で、自分が魚ほど小さくなった。そう思えてしまう。

 これまでのことを思い返すけれどそう思ってしまう理由にはたどり着けない。ほんとなんとなくだ。がむしゃらに生きてきてそれなりの地位にも就けた。しかし、このままでいいのかと言う疑問がつきまとう。

 がむしゃらだっただけに自分を顧みることは少なく、急に落ち着いた今、なんとなくの不安に包まれるのだ。それがここに来てどうしてだか思い起こされてしまった。

 まるで白雪姫が王子様にキスされて起こされたみたいにだ。その比喩表現には齟齬が生まれそうだ。でもそれくらいの衝撃だったということだ。

 もうちょっとこれえからのこと。自分自身のこと。見つめ直す必要があるような気がして。スカイツリーから見える景色を目に焼き付けようとジッと遠くをひたすらに見続けた。
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