三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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マチュピチュ・魔法陣・純米酒

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「ねえ。マチュピチュ行きたいんだけど」

 彼女からいきなりの提案に驚きを隠せない。一度だって海外旅行へ行ったことがないふたりだ。それがいきなり天空都市と呼ばれるマチュピチュだなんて難易度が高すぎる。名前は知っているけど、どこからどうやって行けばいいかすら分からないのだ。南米とかだよな、確か。

「なんでだよ。急に妙なこと言い出して。どこまで本気なんだ」
「本気も本気よ。パスポートを取りに行く予定を入れたくらいには」

 本気かどうか分かりにくい気合の入れ方だけれど。こちらにそんな予定を聞いてきたことはない。いや、待てよ。

「この前の次の休み空けといてってそれのことか?」
「そう。ほんとは行ってから話そうと思ったんだけど、なんだか急に自信なくなっちゃって」
「なんの自信?」
「マチュピチュ行きを断られるんじゃないかって」
「さっきまでは断られないと思ってたってこと?」

 こくりとうなずく彼女はとても小さく見えた。怯えているようにも見える。思わず抱きしめたくなってしまう。

「いいよ。行こう。でも、とりあえずは費用と日程の見積もりをしたからだけどな」
「やった! ありがとう。今日は日本酒でお祝いだね」

 美味しい純米酒があるんだよと、嬉しそうに台所へと向かう。

「それにしてもなんでマチュピチュなんだ?」

 台所へ向かって声を飛ばす。彼女はえーっ、と声を返してくる。

「なんでって行ってみたいからだよ」

 日本酒の瓶を豪快に持ってきた彼女はあっけらかんとそう返してくる。

「それだけ?」
「うん。それだけ。っていうかそれ以上の理由なんていらなくない?」

 確かにそうなきもするのだけれど、もっとなんか理由があったりしないのか。

「なんかみたいものがあるんじゃないの?」
「あっ。それなら魔法陣みたい!」
「へ? マチュピチュに魔法陣なんてあるのか?」
「えっ。ないの?」

 いったいどこからの情報なのだろう。調べても出てきやしない。

「ないみたいだけど、マチュピチュに魔法陣」
「えっ。ないの? じゃあいいや」
「えっ。いいの?」

 うん。とうなずくと途端に興味がなさそうにし始めた。嘘だろ。とお思うが本当みたいだ。勝手に盛り上がって、勝手に盛り下がることはよくある。それもなれてしまったな。

「とりえず予定は空けちゃったからパスポートだけでもとりに行って魔法陣のことはそれから考えようかね」
「えっ。いいの! ありがと!」

 それもいつものこと。それが日常。とりあえず魔法陣とやらがどこで観られるのか調べることにした。
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