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一騎当千・お香・電波

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 はるか昔、一騎当千と呼ばえる人たちがいた。文字通り一騎。つまりひとりで千人に値する力の持ち主ってことだ。現代にとってそんなことになる状況は考えられないと思っていた。

 しかし、今見ている光景はまさに現代の一騎当千なのだろう。凄まじい勢いで敵を圧倒している……ように見える。正直良く分からないのだ。けれど彼の指が止まらない限り彼が生き残り続けているのは確かだ。多人数の対戦型オンラインゲーム。目の間に座ってひたすらにキーボードとマウスの操作を続けている彼が遊んでいるゲームの総称だ。

 ゲームの名前も最初に聞いたのだけれど、長くて、カタカナばかり。とてもじゃないが一度聞いただけじゃ覚えられなかった。

 バトルロイヤル形式のゲームはランダムに落とされたマップで出会ったプレイヤーとの闘いを繰り返しながら進んでいく。その途中で武器や魔法を入手しながらゲームごとの成長を繰り返していく。そうして最後のひとりになるまで闘いを繰り返していくのだ。

 でも、ルールは分かっていても何が起きているのかは理解できない。ひたすらに動き続ける画面を見てるだけで酔いそうになる。それに加えて理解できないのだ。正直見ていて面白いとは思えなかった。

『これからの会社のイチオシのタイトルだから。しっかり勉強するように』

 そう言われて仕方なく見ているものの、なぜ押さなくてはらないのか、なぜ勉強しなければいけないのかも理解していない。それも全部、妙なお香のせいだ。匂いを嗅いでいれば仕事能率が上がると言う怪しげなそれを会社全体に取り入れたのは社長の一存だ。それは確かに仕事能率を上げた。様々な業種を取り込みあっという間に事業は巨大化。莫大な売上を動かし始めた。

 でも、急激な成長はひずみを産んだ。今の状況だってそのひずみの影響でしかない。自分がその一部になっている自覚のないまま進んでしまっている状況はよくないと思っているが。思っているだけ。この仕事だってきっと誰かがなんとかして、先に進む。

「このお香。すごいっすね。いつもと全然、動きが違うや。なんか怪しいものでも入ってるのかと疑っちゃうくらい」

 目の前の彼は余裕そうに軽口を叩いている。画面を見ればビクトリーの文字。いつの間にか勝負に勝ったみたいだ。

「ええ。それはすごいんです。それがあれば人類は何処へだって行ける」

 それが会社のスローガンだ。いつの間にか、何も考えなくても口にするようになっていた。

「はは。なんか電波じみてますけど。嘘じゃないって感じします。では、これからもよろしくお願いしますね」

 全部このお香を広めるため。会社なんてそのカモフラージュに過ぎないのだと、気がついていても、永遠に気づかないふりをしなくちゃいけない。

 ……きっとそれが正しいことなのだ。
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