三題噺を毎日投稿 3rd Season

レコード・ロメインレタス・コピー用紙

　押し入れから引っ張り出したレコードを流し始める。知らない洋楽だ。こんな趣味があっただなんて知らなかった。あんまり趣味とか、好きなものとかそういった内に秘めたものを外に出すことはしない人だった。だからこんなレコードの存在も知らなかった。

　そう考えると、母のことを半分も知らなかったなと思う。どんな家で育ち、どんな幼少期を過ごして、どこで父と出会って、どんな気持ちで私を産んだのか。今となってはここにある物を見ながら想像することしか出来ない。

　大量のレコード。何冊ものまとめられたアルバム。その他にも思い出の品と呼ばれるものがたくさんしまってあった。それらを眺めながら懐かしむ時間もこれから作っていった方がいいのだろう。それがせめてもの供養だ。

　家出るの早すぎたのかな。大学への進学と同時に一人暮らしを始めて家を出たっきり。碌に家にも帰ってこなかった。大学時代は遊ぶのに夢中だったし、大学を卒業してからは仕事に追われて休みすらも無かった。それを何年も繰り返している内に自分の生活がすっかり定着してしまって実家に帰るという発想からどんどん遠ざかっていた。

　もちろん連絡もたくさん来たし、仕送り代わりに食料をたくさん送ってもらった。お米だったり、フルーツだったり、ロメインレタスだったり。不思議とロメインレタスが毎回のように送られてきたのは私の好物だとでも思っていたのだろうか。普通のレタスに比べて固いし入れやすかったのもあるだろうけれど。ずっと気になってことなにな。聞きそびれてしまったよ。

　ふと、大量に積まれたコピー用紙が気になった。すべて未使用らしく白紙のままキレイに包装されたまま。

　実家に家庭用プリンタなんてあったっけ？　パソコンは調べ物をするって言って買っていたみたいだけれど、プリンタまでは知らない。あったとしても過程で印刷するにはあまりに多い量。一般家庭で見ない量の紙束。一体どんな理由で？

　それすら聞けないんだもんな。父なら分かるだろうか。父なら母の子どものころの話やふたりの出逢い。私への想いなんて言うのも聞いてたりするのだろうか。

　でも、その父もどこにいるのか分からない人に頼ることも出来ない。生きているかも不明だ。

　まったく嫌になっちゃうよ。自分が生まれ育った家のことがなにも分からない。

　ほんと嫌になっちゃう。