三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

文字の大きさ
上 下
23 / 145

エレベーター・コレステロール・戦車

しおりを挟む
 コレステロール値が高いと言われて何から始めたらいいのか悩んでしまった。運動は苦手だ。食事は好きだ。でも、何かを行わなければこのままいろいろな不具合が身体に起こり始めるのだろう。それも嫌だ。

 思えば全部嫌だの積み重ねな気もする。

 子どものころから、両親にいろいろ制限され続けてきた。言うことを聞くことがすべてだったし、その通りにしていけばいいのだと思って生きてみた。でも、自覚はないものの結局ストレスには勝てなかったのだろう。家を出てしばらくしたら自制の聞かない生活へと変化していった。

 その結果が今回のコレステロール値に間違いなくつながっている。そして、そのことに対して自分の中でどう自制をしていき、折り合いをつけていけばいいのか皆目見当もつかないのだ。

 ふと、エレベーターホールに移動してしまっていることに気が付く。これもやっぱり習慣なので仕方のないことなのだけれど、地上16階の病院からはできるだけ階段で降りた方がいいのだろうか。そうすれば少しくらいはマシになったりもするのだろうか。

 考えるからダメなんだ。まずは一歩を踏み出してみようじゃないか。

 しかし、そのことを早速後悔し始める。

 長い。地上が遠い。汗が出てくるのが分かる。

 降りるだけだと思って舐めてかかっていた。久しぶり過ぎる階段にその感覚を忘れていたのに、相まって増えすぎた体重が乗っていく。これが自制の効かなくなった身に降り注ぐ苦難なのだ。

 普段から運動していればこんな苦難にぶち当たることもないのだろう。普段から食事制限をしていれば、そもそも病院に再検査なんてしに来なくてもよかったのだろう。

 すべて自分が蒔いた種。

 後悔だけが積み重なっていく。誰かのせいでもないのも余計に自分を苦しめる。

 はぁ。思わずため息をつきながら足が止まる。

 ここは果たして何階なのだろう。いや、今10階なのは知っている。そうじゃなくて上り続けてしまった自堕落な階段の話だ。戦車が歩いているなんて言われ始めてから随分と経つし、どれほどの時間の無駄にしてきたかも覚えていない。

 あと、どれくらい降り続けるために苦難を乗り越えればいいのだろう。

 結局。自分が積み重ねてきたものに押しつぶされるのだ。そう思うと、なんだか、むなしくて、どうしていいのか、どうしたいのか、よく分からなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...