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高架下・バター・新月

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 高架下に行ってはいけないよ。そう初めて言われたのはいつだったか。あまりにも事あるごとに言われすぎて覚えていない。高架下には川が流れ、ジメジメして暗い。そんな場所に近寄ってほしくなくて言っているのだとずっと思っていた。

 でもどうやら違ったらしい。

 本当に近寄っては行けなかったのだ。近寄ることでナニカが始まる。そのことを知っていて忠告していたのだ。だから、たとえ自分の意志では無いにしても、高架下に来てしまったことは少なからず罪なのだ。

「なぁ。こんなところに何があるんだよ。随分と抵抗してくれちゃってさ。逆らった分だけのものがあるんだよな?」

 ここに連れてきた本人は不満そうに探している。何もありはしないさ。それに、さっきから聞こえてくるノイズみたいな音も聴こえていないみたいで、ゾッとする。

「おいっ。聞いてるのかよ。さっきからボーっとしやがってさ。せっかく特ダネを撮ってやろうって言うのにさ」

 彼はスマホで動画を撮影している。要は自分のチャンネルに動画をアップして再生数を稼ぎたいだけだ。そのために利用されたし、それなりに撮れ高のあるネタを強要された。それで耐えられなくなって小さい頃から忠告されていた高架下の場所を教えてしまった。それで助かると思っていたのにやっぱり忠告は忠告。意味があったのだ。スマホのカメラがこちらに向けられる。きっと、ネタを提供できなかったと逆ギレして制裁を加えるところを面白く撮るつもりなのだろう。

 そんなこと出来るはずもないのに。つい表情が緩む。

「おい。なに笑ってるんだよ」

 何って、まだ気づいていないのか。新月の日で、明かりが少ないのも影響しているのだろうな。それとも、ヤツが見えているのは自分だけなのだろうか。黒いモヤが少しずつ彼に近づいていっている。スマホのカメラにそのモヤがかかって初めて異常に気がついたみたいだ。

「おいっ。なんだこれっ。お前がなにかしたんじゃないのかっ」
「なんのことだか分からないね。キミが勝手にやったことだろ」

 きっと原因はずっと昔にあるのだろうし、絶対にキミのせいじゃないのだけれど。ここに連れてきた原因はキミなのだから自業自得だとも言える。仕方ないよね。ここに案内させたのはキミなんだ。

 バターみたいにスマホがスパッと切れる。何が起きたのか分かっていないのかキミが呆けた顔をしている。まあボクも一緒だ。そんなことが出来るなんて聞いてない。

 黒いモヤは次のターゲットを探しているのか漂っている。

「お、おいっ。お前は何をしたんだ」

 さっきと同じセリフなのに圧がまったくない。それを証明するかのようにその場を逃げようと駆け出す。黒いモヤはそれに反応するかのようにすぐに追いついてキミもスマホと同じ運命を辿るのだろう。その後はボクも……。

 ごめんなさい。忠告は聞いておくべきだったね。
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