三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

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ハニワ・トング・スズラン

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 部屋の中にズラッと並んだハニワがこちらを見ている。壁に沿って作られた棚。その棚は数段用意されておりそこに丁寧にハニワが並べられているのだ。そこには隙間なく並べられていて、それは不気味に見えた。

「す、そごい数ですね……」

 案内されたはいいのだけれどそれくらいしか言えなくてなんとも言えない空気が流れる。

「ええ。ええ。それはもう必死に集め回りましたからね。そうでしょうとも」

 その空気感をハニワの持ち主は察していないようで、自慢そうに鼻をふくらませている。

 上司に言われて取材に来たはいいものの、ハニワの良さも分からなかれば逆に恐怖すら覚えているのだ。興味がわかない。くり抜かれた目と口の奥に見える闇は一層、自分を不安にさせるには十分な見た目をしている。明るいところでひとつだけ見れば可愛いと思えたのかもしれないが、こんな暗くて狭い部屋で大量に見せられなんてしたらそりゃ感じ方も変わってくる。

 ふと、ひとつ空いている場所を見つけてそれがやたらと気になった。ぎっしり詰まっているところにひとつちょうどハニワがひとつ置ける場所があるのだ。そりゃ気になりもする。

「あの。ここってハニワ置かないんですか?」

 気づいたことが嬉しいのかハニワの持ち主はとびっきりの笑顔になる。

「そうなんですよ。ちょどいいハニワが見つからなくてですね。ずっと探しているんですがね。なかなかお目にかかれなくて困ったいたのですよ」

 笑顔が少し歪んだものへと変化した気がした。それと同時に入ってきた扉が閉まる。部屋の明かりだけでは暗くて怖くなる。

「ど、どうしたんですかっ?」

 慌てるけれど、狭い空間で身動きは取れない。閉まった扉を開けようとするけれど、鍵が掛けられているのか開きそうもない。

「いやね。これも運命だと思いましたよ。初めてあなたを見たときには驚きました。まるでスズランのように純粋な方だなぁと。私のコレクションに足りなかったのはその純粋さなのです。ハニワたちは色々なものを背負ってしまっている。何も背負っていない人が必要だったのですよ」

 この人は何を言っているのだろう。恐怖が込み上げてきて身体がうまく動かせない。

「な、なにを……」
「ありがとう。これで私のコレクションは完成です。心より感謝します」

 それが最後だった。暗かった景色が真っ暗に変わる。

「このトングを手に入れられたことが私の人生の全てでした」

 おかしい、ハニワの持ち主が大きく見えるし、少し遠ざかっている。そして位置的にとなりにいるはずの私の姿が見えない。

「このトングに触れた物はハニワになってしまうのですよ。これからずっとここで贅沢な暮らしをさせてあげますからね。それはもう幸せな人生……いやハニワ生になるはずですよ」

 そう笑う声だけ響きわったった。
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