三題噺を毎日投稿 3rd Season

霜月かつろう

文字の大きさ
上 下
15 / 145

Wi-Fi・曇り空・ゴルフ場

しおりを挟む
 ゴルフ。社会人になってからは縁のないスポーツだと思っていた。商談に参加するような会社でもなく、趣味として行うにはお金がかかり過ぎる。そんなところからゴルフは自分からは遠い存在になった。

 でも、今はゴルフ場に向かっている。ただし自らの意志ではなく連れられてだ。

 それは突然の一言から始まった。

『なぁ。ゴルフって面白いのかな』

 友人のその一言はなんとなく飛び出したはずだ。でも、その返事がきっと友人に火をつけた。

『やるぞ。ゴルフ』

 なんでかは全く分からない。友人の中で何かが灯っていた。ゴルフに向かうと決まったのはその日のうち。行くのは今週末。

 あまりに急な展開に断ることも忘れて気付けば今日を迎えていた。おとなしく車の乗ってここまで来てしまっているので、自分もまったく興味がないわけじゃないらしい。

 あいにくの曇り空。そこだけが懸念点だ。随分寒くなった気候も相まってクラブを握る手がかじかんでしまいそうだ。

「なあ。それにしてもゴルフのやり方って知ってるのかよ」

 初心者ふたりでゴルフ場に行くのはいくらなんでも無謀だ。友人は多少なりとも練習してきたのだろうか。

「知るわけないだろう。行って聞いてみるさ。それでもだめならネットで調べればいい。それで楽しめないなら、ゴルフを楽しむ才能がなかったってことで諦めるさ」

 まったくもって訳が分からない超理論だ。

「そんなのに俺は付き合わされているのか」

 会社人になって数年。友人と呼べるのは隣で車を運転している奴だけ。決して付き合いが悪いとかそういうのではない。入った会社があまりコミュニケーションをとらなくてもいいようなところだったのだ。プライベートには介入しない。飲み会なんてもってのほか。趣味の時間を有意義に楽しみたまえ。そういう会社だった。

 でもそれは無趣味な人にとっては苦痛でもある。

 毎日のようにプライベートをどうやって過ごすか悩む日々。そんな会社だったから友人なんて増えるはずもなくて、同じような無趣味同士が一緒に居るだけの関係。

 だからこういう無鉄砲な計画も初めてではない。タピオカを作りたいとか言い出したこともあればスカイダイビングに挑戦したこともある。

「まあまあ。いつもの事だろ。文句言うなよ。それに不安ならもう調べ始めてもいいんだぞ。ゴルフのスイングってのは難しいらしいからな」

 調べてどうにかなるような物か。そこで気付く。

「おい。ここ電波届いてないぞ。どうすんだよ」
「それは不味い。ゴルフ場にWi-Fiが完備されていることを祈るしかないじゃないか」

 いや。ゴルフ場に完備されていたってホールを周っている間はきっと圏外だ。そんなんで楽しめるのだろうか。

「って。おい、みろよ」

 流石に焦る。白い粒が空から落ちてきているのだ。標高が高いところに来ているとはいえ、驚きだ。

「雪かよ。この車、スタッドレスじゃないんだが……帰るか?」

 突然の提案。確かにつもりでもしたらゴルフ場に缶詰め状態になる。それは遠慮したいところだ。そもそも乗り気でなかった身としてはありがたい提案。

「練習場にでも行こう。ホールを周るのはまた今度ってことで」
「ああ。そうしよう」

 なにせ天気も調べられない状況だ。それが賢明な判断だと言えた。

「あっ。でもゴルフ場のキャンセル料は貰うからな」

 友人が引き戻そうとするハンドルを押さえた。

「いや、やっぱり雪だろうが何だろうがゴルフするぞ」

 毎回のように行っている弾丸チャレンジにはひとつのルールがある。勝敗を決めて勝ったほうが負けた方の料金をおごると言うもの。ただしキャンセルの場合はお互い払うことになる。

 今月は負け続けで実のところお財布の中身はすっからかんだ。ここはどうしても勝っておきたい。

「ははん。やっぱりゴルフは自信があったんだな。知ってるんだぞ。インターハイ全国出場選手だってことくらい。まあ、そんなに言うなら付き合ってやろう」

 結局、圧勝したのだけれど。なんだか腑に落ちない結果だ。そのことを問い詰める気にもなれず、缶詰め状態になったゴルフ場でのんびりしていると友人が近づいてきた。

「まっ。たまにはこうやって返しておかないとな。唯一の友人が付き合い悪くなっちまう」

 なんだその超理論は。そんなことなら最初から賭け事にしなければいいのだ。そう口にするのも野暮だと思い。寒さを紛らわせるためにあったいコーヒーを口に流しこんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...