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第3章 サマースクール 編
第2話 センスと修帝学園代表
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――ヒースネス 商業エリア――
「ここが商業エリア! 洋服がたくさん! ほらあそこのブランド、かわいい服で有名なの!」
「お、おう。そうなのか。」
興奮しているユリとは裏腹に、俺は人の数に圧倒されていた。人の数、いくら何でも多すぎるだろ! テレビで見た浅草の雷門前ぐらいいるぞ!?
実は生まれも育ちも東京ではあるのだが、どちらかと言うと横浜との県境辺りに住んでいたのだ。都心に出たことは数えれば片手で足りるほどしかない。
そんな俺がこんな人混みに来ることになるなんて、既に酔いそうだ。
「……リョーヤ、顔色悪い。」
「え? ホントだ。あんまりこういう人混みは慣れていないの?」
「わ、悪いな。」
「無理しなくていいよ? ショッピングも別の日にすればいいだけの話だから。」
「いや、大丈夫。すぐに慣れると思うから。
ほら、入りたい店とかあるんだろ? 遠慮せずに行っていいからな?」
ユリは「分かった」と言うと、リンシンの手を引いて近くの洋服店に入って行った。
「ねぇ見てリョーヤ! これ、かわいいと思わない?」
店に入るなり、早速ユリがノースリーブの白いワンピースを見せてきた。白いワンピースか、入学初日を思い出すな……。
「かわいいと思うけど、ユリって白多くないか?
他の色は着ないのか?」
「うーん、あんまり考えたことないなー。リョーヤだったら何色が似合うと思う?」
「そうだな……」
俺もファッションに疎いわけではないので、色の組み合わせには自信がある。ユリの髪の色は栗毛……となればここは―――
「薄桃色とかどうだ? かわいいって印象あると思うぞ?」
「なるほど。」
「……リョーヤ、これは?」
今度はリンシンが何かを……って―――
「ご、ゴスロリメイド服!? いやいやいや、それは無い!
リンシンはもっと……動きやすそうな服装の方が似合うよ!」
「……そう?」
リンシンはそう言うと、ゴスロリのメイド服をあっさり戻して行った。ポーカーフェイスのメイドなんて、コアなメイド服ファンにしかウケないだろう。引き下がってくれてよかった……。
「……じゃあこれは?」
間髪入れずに別の服を見せてきた。今度のはシンプルな薄緑のTシャツだ。これなら色々な服に合わせられるだろう。
「組み合わせ方にもよるだろうけど……例えば―――」
茶色……でも濃いと主張しすぎるだろうから……これか。近くの棚にあったスカパンを手に取って渡す。
「この薄いベージュとかどうだ?」
「……なるほど。」
「へぇー、意外とリョーヤもそういうことちゃんと考えるんだ?」
「いやいや、さすがにこういうのは――って、いつの間に!?」
「ん? あぁこれね、似合うでしょ?」
ユリがいつの間にか服の試着をしていた。さっきアドバイスした薄桃色の夏用カーディガンと、白いワンピースの組み合わせだ。腰にはベルトが巻いてあって、いいアクセントになっている。
「うん、なかなか似合っていると思うぞ?」
「ホントに!? やった! じゃあこの一式買っちゃおっと!」
「……私もこれにしよう。」
「2人ともそんなすぐに決めていいのか? もっと色々見てからでもいいんじゃ―――」
とその時、俺の空腹を告げる腹の虫が、店内に響き渡るほど大きな鳴き声をあげた。恥ずかしさのあまり耳まで火照ってしまった。
「ほら、お腹空いたでしょ? 周辺ぶらぶらしながら、何か良さげなレストランでも探そう?」
「そ、そうだな。」
その後も洋服店だけでなく、旅行ガイドを探しに本屋に行ったり、ついでにジャージの下に着るTシャツを探しにスポーツ用品店にも行った。リンシンが実はカナヅチだってことは、その店で初めて知った。
そして大体19時を回った頃に、このステーキハウスに入った。ここはボリュームのあるアメリカ牛のステーキが食べられることで有名らしく、ヒースネスで人気のレストランの1つだという。ちなみに、煌華学園と修帝学園の生徒は半額らしい。
「この肉、そんなに硬くなくて食べやすいな。それに大根おろしのソースがすごく合ってて……最高だ!
ユリは何のソースで頼んだんだ?」
「私は玉ねぎベースのソースにしたわ。これが一番無難で、しかもお気に入りなの。
リンシンちゃんは?」
「……ガーリックテイスト。でも使ってない。」
ど、どうやらリンシンは、ワイルドに肉汁だけで楽しんでいるようだ。まぁ、楽しみ方は人それぞれだからな。マナーに反していなければいいだろう。
黙々と食べていると、隣のテーブルに座っている大人たちの会話が聞こえてきた。
「おいおい聞いたか? 修帝の代表が決まったってよ。」
「マジか、またあの四天王なのか? 正直あのメンツ強すぎて誰も勝てないと思うぜ?」
「それがどっこい、今年は新生四天王って感じらしいぞ。」
「新生四天王? なんだそりゃ?」
「話によると、それまでの四天王の一角が倒されたらしいんだよ。んで負けた生徒が勝った1年生の女子生徒と交代したらしいぞ。」
「マジかよ。
煌華の坂宮といいその新人といい、今年の1年生はどっちも強いな。2年前の修帝ほどではないけど。」
修帝学園の《煌帝剣戟》代表者の話か? 四天王なんて呼ばれる生徒がいるのか。
「……四天王は強い。」
「強いって……どれくらい?」
「……煌華の校内ランキング1位か2位レベル。」
1位か2位レベルだと!? それが4人もいるのか!
「中でもトップに君臨する3年の直枝 巧真って人は、アッシュさんより強いって有名よ。
でも誰もその実力を知らないんだけどね。」
「それはどういう?」
「修帝はこの2年間本戦で3連勝してて、一番強い直枝って人が試合に出る前に決着がついちゃうの。」
それって他3人が煌華学園の代表生徒よりも十分に強いって事じゃないか! しかもその一角が新入生に崩されたようだし……俺たちで勝てるのか……?
と、不意に店内がざわつき始めた。出入口を見ると、上下とも黒い学ランの生徒が2人入って来ていた。2人とも学ランだが、片方は女子だ。煌華学園のものではない、つまりあの制服は……修帝学園のものだ。
「……赤羽 澪孔とフレッド・ウィスコンシア。」
「っ! リンシンちゃん、それって!」
「……うん。修帝の四天王。」
2人の生徒――赤羽澪孔とフレッド・ウィスコンシアは空いている席に座ると、すぐに店員を呼んで注文し始めた。どうやら俺達の存在には気づいていないらしい。
「ユリとリンシンは、あの2人の能力って何だか知ってたりするのか?」
「フレッド・ウィスコンシアの方は雷を操る能力らしいけど、赤羽澪孔の方は―――」
「あぁん? ビールがもうねーだと? そりゃどういうことだよ。」
ふと近くの席から怒声が聞こえてきた。見ると酔っ払ったスーツ姿の男性グループが、なにやら女性店員に文句を言っているようだった。そのテーブルには複数の空のジョッキが置かれている。
「で、ですからお客様方に先ほどお出ししたビールで在庫を切らしてしまいまして……。」
「なら買ってこいよ? 客が注文しているのが聞こえないのか?」
「部長、こうなりゃ俺たちが買ってくればいいんすよ。僕、ここで席守ってるんで。」
「そりゃいい、んじゃちょっくら買ってくるわ。」
部長と呼ばれた男が立ち上がると、女性店員が慌てて制止する。
「こ、困ります! この店は店外からの飲食物の持ち込みと飲食は禁止しておりまして―――」
「つべこべうるせぇなこのアマ!」
かなり酔っているのか、おぼつかない足取りでその男は女性店員に近づき突き飛ばした。これ以上は見ていられない!
「ユリ、ちょっと俺行って―――」
「ハーイ、おじさんたちー! 喧嘩はそこまで!」
「あぁ?」
声のした方を見ると、さっきの修帝学園の生徒――赤羽澪孔が立ち上がっていた。
「いくら酔っていても、女性に手を出すのは行けないと思うなぁー? ここはあたしに免じて落ち着いてくれるかな?」
赤羽澪孔はそう言うと、胸を強調するようなポージングを取る。色仕掛けでもする気なのだろうか。男は舐めまわすように赤羽澪孔を見ると―――
「その制服、修帝の生徒か?
お嬢ちゃん、これは大人の問題だ。子供が割り込んじゃいけないことだよ?」
「大人の問題……ね。あたしにはただの『お酒欲しい! 誰か持ってきて!』って駄々をこねる大きな子供に、大人のお姉さんが手を焼いているようにしか見えないんだけどー?」
「だ、誰が子供だって?」
あの赤羽澪孔って人、酔っ払いを完全に怒らせてしまったようだ。平常心を持っていない人の怒りほどめんどくさいものは無いのに……。
「え? 決まってるじゃん、おじさんのことだよ?」
「っ! ナマ言ってんじゃねぇぞガキの分際で!」
男はかなりの大声で怒鳴り散らすと、拳をかかげて走ってきた。ここは助太刀した方が―――
「煌華のキミ、手出し無用だよ。」
「え?」
赤羽澪孔はそう言うと、拳が当たる刹那に姿を消した。
「ちっ、やっぱり《超越者》か。
どこに隠れてやがる! 姿を―――ブホォ!?」
突然男が変な声と同時にうずくまり、さらに床を転げ回り始めた。何かに悶絶しているのか?
「おじさんダメだって、女の子に手を出しちゃ? お嫁に行けなくなっちゃうじゃない。
って、痛みで聞こえてないか。」
「ぶ、部長! 大丈夫ですか!?」
すぐさま残りの男性グループのメンツが、悶絶する男性の元へと駆け寄る。
「こんな店、二度と来てやるもんか!」
悶絶していた男性はそう言うと他の男性の肩を借り、キチンと現金をレジに置いて出ていった。
男性グループの全員が出て行くと、再び赤羽澪孔が姿を現した。
「お姉さん、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「あ、ありがとうございます。お客様の手を煩わせてしまい、申し訳ございません。」
「いいのいいの、気にしないで?」
赤羽澪孔はそう言うと、自分のテーブルへと戻って行った。
「リンシン……赤羽澪孔の能力は?」
「……光と影を操る、いわゆる特異型。」
「そして彼女はこう呼ばれているわ、《誘惑の堕天使》って。」
これが俺たちと修帝学園の四天王との出会いとなった。
「ここが商業エリア! 洋服がたくさん! ほらあそこのブランド、かわいい服で有名なの!」
「お、おう。そうなのか。」
興奮しているユリとは裏腹に、俺は人の数に圧倒されていた。人の数、いくら何でも多すぎるだろ! テレビで見た浅草の雷門前ぐらいいるぞ!?
実は生まれも育ちも東京ではあるのだが、どちらかと言うと横浜との県境辺りに住んでいたのだ。都心に出たことは数えれば片手で足りるほどしかない。
そんな俺がこんな人混みに来ることになるなんて、既に酔いそうだ。
「……リョーヤ、顔色悪い。」
「え? ホントだ。あんまりこういう人混みは慣れていないの?」
「わ、悪いな。」
「無理しなくていいよ? ショッピングも別の日にすればいいだけの話だから。」
「いや、大丈夫。すぐに慣れると思うから。
ほら、入りたい店とかあるんだろ? 遠慮せずに行っていいからな?」
ユリは「分かった」と言うと、リンシンの手を引いて近くの洋服店に入って行った。
「ねぇ見てリョーヤ! これ、かわいいと思わない?」
店に入るなり、早速ユリがノースリーブの白いワンピースを見せてきた。白いワンピースか、入学初日を思い出すな……。
「かわいいと思うけど、ユリって白多くないか?
他の色は着ないのか?」
「うーん、あんまり考えたことないなー。リョーヤだったら何色が似合うと思う?」
「そうだな……」
俺もファッションに疎いわけではないので、色の組み合わせには自信がある。ユリの髪の色は栗毛……となればここは―――
「薄桃色とかどうだ? かわいいって印象あると思うぞ?」
「なるほど。」
「……リョーヤ、これは?」
今度はリンシンが何かを……って―――
「ご、ゴスロリメイド服!? いやいやいや、それは無い!
リンシンはもっと……動きやすそうな服装の方が似合うよ!」
「……そう?」
リンシンはそう言うと、ゴスロリのメイド服をあっさり戻して行った。ポーカーフェイスのメイドなんて、コアなメイド服ファンにしかウケないだろう。引き下がってくれてよかった……。
「……じゃあこれは?」
間髪入れずに別の服を見せてきた。今度のはシンプルな薄緑のTシャツだ。これなら色々な服に合わせられるだろう。
「組み合わせ方にもよるだろうけど……例えば―――」
茶色……でも濃いと主張しすぎるだろうから……これか。近くの棚にあったスカパンを手に取って渡す。
「この薄いベージュとかどうだ?」
「……なるほど。」
「へぇー、意外とリョーヤもそういうことちゃんと考えるんだ?」
「いやいや、さすがにこういうのは――って、いつの間に!?」
「ん? あぁこれね、似合うでしょ?」
ユリがいつの間にか服の試着をしていた。さっきアドバイスした薄桃色の夏用カーディガンと、白いワンピースの組み合わせだ。腰にはベルトが巻いてあって、いいアクセントになっている。
「うん、なかなか似合っていると思うぞ?」
「ホントに!? やった! じゃあこの一式買っちゃおっと!」
「……私もこれにしよう。」
「2人ともそんなすぐに決めていいのか? もっと色々見てからでもいいんじゃ―――」
とその時、俺の空腹を告げる腹の虫が、店内に響き渡るほど大きな鳴き声をあげた。恥ずかしさのあまり耳まで火照ってしまった。
「ほら、お腹空いたでしょ? 周辺ぶらぶらしながら、何か良さげなレストランでも探そう?」
「そ、そうだな。」
その後も洋服店だけでなく、旅行ガイドを探しに本屋に行ったり、ついでにジャージの下に着るTシャツを探しにスポーツ用品店にも行った。リンシンが実はカナヅチだってことは、その店で初めて知った。
そして大体19時を回った頃に、このステーキハウスに入った。ここはボリュームのあるアメリカ牛のステーキが食べられることで有名らしく、ヒースネスで人気のレストランの1つだという。ちなみに、煌華学園と修帝学園の生徒は半額らしい。
「この肉、そんなに硬くなくて食べやすいな。それに大根おろしのソースがすごく合ってて……最高だ!
ユリは何のソースで頼んだんだ?」
「私は玉ねぎベースのソースにしたわ。これが一番無難で、しかもお気に入りなの。
リンシンちゃんは?」
「……ガーリックテイスト。でも使ってない。」
ど、どうやらリンシンは、ワイルドに肉汁だけで楽しんでいるようだ。まぁ、楽しみ方は人それぞれだからな。マナーに反していなければいいだろう。
黙々と食べていると、隣のテーブルに座っている大人たちの会話が聞こえてきた。
「おいおい聞いたか? 修帝の代表が決まったってよ。」
「マジか、またあの四天王なのか? 正直あのメンツ強すぎて誰も勝てないと思うぜ?」
「それがどっこい、今年は新生四天王って感じらしいぞ。」
「新生四天王? なんだそりゃ?」
「話によると、それまでの四天王の一角が倒されたらしいんだよ。んで負けた生徒が勝った1年生の女子生徒と交代したらしいぞ。」
「マジかよ。
煌華の坂宮といいその新人といい、今年の1年生はどっちも強いな。2年前の修帝ほどではないけど。」
修帝学園の《煌帝剣戟》代表者の話か? 四天王なんて呼ばれる生徒がいるのか。
「……四天王は強い。」
「強いって……どれくらい?」
「……煌華の校内ランキング1位か2位レベル。」
1位か2位レベルだと!? それが4人もいるのか!
「中でもトップに君臨する3年の直枝 巧真って人は、アッシュさんより強いって有名よ。
でも誰もその実力を知らないんだけどね。」
「それはどういう?」
「修帝はこの2年間本戦で3連勝してて、一番強い直枝って人が試合に出る前に決着がついちゃうの。」
それって他3人が煌華学園の代表生徒よりも十分に強いって事じゃないか! しかもその一角が新入生に崩されたようだし……俺たちで勝てるのか……?
と、不意に店内がざわつき始めた。出入口を見ると、上下とも黒い学ランの生徒が2人入って来ていた。2人とも学ランだが、片方は女子だ。煌華学園のものではない、つまりあの制服は……修帝学園のものだ。
「……赤羽 澪孔とフレッド・ウィスコンシア。」
「っ! リンシンちゃん、それって!」
「……うん。修帝の四天王。」
2人の生徒――赤羽澪孔とフレッド・ウィスコンシアは空いている席に座ると、すぐに店員を呼んで注文し始めた。どうやら俺達の存在には気づいていないらしい。
「ユリとリンシンは、あの2人の能力って何だか知ってたりするのか?」
「フレッド・ウィスコンシアの方は雷を操る能力らしいけど、赤羽澪孔の方は―――」
「あぁん? ビールがもうねーだと? そりゃどういうことだよ。」
ふと近くの席から怒声が聞こえてきた。見ると酔っ払ったスーツ姿の男性グループが、なにやら女性店員に文句を言っているようだった。そのテーブルには複数の空のジョッキが置かれている。
「で、ですからお客様方に先ほどお出ししたビールで在庫を切らしてしまいまして……。」
「なら買ってこいよ? 客が注文しているのが聞こえないのか?」
「部長、こうなりゃ俺たちが買ってくればいいんすよ。僕、ここで席守ってるんで。」
「そりゃいい、んじゃちょっくら買ってくるわ。」
部長と呼ばれた男が立ち上がると、女性店員が慌てて制止する。
「こ、困ります! この店は店外からの飲食物の持ち込みと飲食は禁止しておりまして―――」
「つべこべうるせぇなこのアマ!」
かなり酔っているのか、おぼつかない足取りでその男は女性店員に近づき突き飛ばした。これ以上は見ていられない!
「ユリ、ちょっと俺行って―――」
「ハーイ、おじさんたちー! 喧嘩はそこまで!」
「あぁ?」
声のした方を見ると、さっきの修帝学園の生徒――赤羽澪孔が立ち上がっていた。
「いくら酔っていても、女性に手を出すのは行けないと思うなぁー? ここはあたしに免じて落ち着いてくれるかな?」
赤羽澪孔はそう言うと、胸を強調するようなポージングを取る。色仕掛けでもする気なのだろうか。男は舐めまわすように赤羽澪孔を見ると―――
「その制服、修帝の生徒か?
お嬢ちゃん、これは大人の問題だ。子供が割り込んじゃいけないことだよ?」
「大人の問題……ね。あたしにはただの『お酒欲しい! 誰か持ってきて!』って駄々をこねる大きな子供に、大人のお姉さんが手を焼いているようにしか見えないんだけどー?」
「だ、誰が子供だって?」
あの赤羽澪孔って人、酔っ払いを完全に怒らせてしまったようだ。平常心を持っていない人の怒りほどめんどくさいものは無いのに……。
「え? 決まってるじゃん、おじさんのことだよ?」
「っ! ナマ言ってんじゃねぇぞガキの分際で!」
男はかなりの大声で怒鳴り散らすと、拳をかかげて走ってきた。ここは助太刀した方が―――
「煌華のキミ、手出し無用だよ。」
「え?」
赤羽澪孔はそう言うと、拳が当たる刹那に姿を消した。
「ちっ、やっぱり《超越者》か。
どこに隠れてやがる! 姿を―――ブホォ!?」
突然男が変な声と同時にうずくまり、さらに床を転げ回り始めた。何かに悶絶しているのか?
「おじさんダメだって、女の子に手を出しちゃ? お嫁に行けなくなっちゃうじゃない。
って、痛みで聞こえてないか。」
「ぶ、部長! 大丈夫ですか!?」
すぐさま残りの男性グループのメンツが、悶絶する男性の元へと駆け寄る。
「こんな店、二度と来てやるもんか!」
悶絶していた男性はそう言うと他の男性の肩を借り、キチンと現金をレジに置いて出ていった。
男性グループの全員が出て行くと、再び赤羽澪孔が姿を現した。
「お姉さん、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「あ、ありがとうございます。お客様の手を煩わせてしまい、申し訳ございません。」
「いいのいいの、気にしないで?」
赤羽澪孔はそう言うと、自分のテーブルへと戻って行った。
「リンシン……赤羽澪孔の能力は?」
「……光と影を操る、いわゆる特異型。」
「そして彼女はこう呼ばれているわ、《誘惑の堕天使》って。」
これが俺たちと修帝学園の四天王との出会いとなった。
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