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第一章「未知なる異世界」~八人の転移者~
第十八話 「スクラップ・アンド・ビルド その二」トモ(久世朋定)
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翌日、仕事が終わってから急いで食事を済ませ、俺はゴブリン街へと向かった。
そこから少し中心部へ行った路地裏に鍛冶屋があったことを思い出したのだ。
あそこは人間の鍛冶師であったがまだ若く――、と言っても自分たちよりは年上だが――独立したて、といった感じの小さな店であった。
剣の修理について、ダメモトで話を聞くだけでもと思ったのだ。
店の中には仕事の順番を待つ農機具やナタ、材料になるであろう鉄片が並んでいた。
「ちょっといいですか?」
「うん?」
若い店主は作業の手を止めてこちらを向いた。顔の汗を拭い、陶器のカップから水を飲んで息を付く。
断られるかな、と思いつつ俺は事情を説明した。
「これを剣に?」
「はい、どうですかねえ?」
「うーん……、面白いことを考えるね」
俺が渡した剣をかざして折れた先を眺める。
「これはルーサム爺さんの所で買ったのかい?」
「ルーサム爺さん?」
「ああ、西の山側にあるスクラップ屋さ」
「そうです」
「そうか、俺も時々素材探しに行くよ」
店主はそう言って笑う。仕事柄二人は知り合いなのだ。
「たくさん廃剣がありました。何で剣を修理して使わないんですかね?」
「あそこの剣はほとんど軍用だったからね。人を切っているから冒険者は敬遠するんだ。魔力が使えないと思っている」
「魔力?」
「迷信なんだけどね」
「俺は迷信なんて信じないけどな……」
中世のようなこの世界では、そんなものなのかもしれない。ただ魔力の意味がよく分からない。
「この剣が折れたってことは、前の持ち主は死んだと思うよ。気味が悪くない?」
この剣で必死に豪剣を受け、ポッキリと折れたときの絶望感、いや、あるいはそんなことを考える間もなく、かつての持ち主は絶命したかもしれない。
「いえ、お金がないので贅沢は言えません。剣は新しい持ち主が現れて喜んでいるかも」
「ははっ、きっとその通りだよ」
店主は嬉しそうに笑った。
「どうですか?」
「お安い御用さ、先を少し打ち直せばいいんだから」
「そうですか!」
「ただこんな剣では戦えないよ。短剣よりも長くて中途半端だね」
この世界には脇差しのような長さの概念はないらしい。たぶん二刀流の考え自体がないのだ。
「まあ、お金がないので廃品利用です。いくらぐらいかかりますかね? 研ぎは自分でやりますから」
「そうだね……、百五十ギットかな」
直感的に安いと思った。これで中途半端でも武器が一つ手に入るなら安い物だ。
「お願いします」
「よし、すぐやってしまおうか」
折れた剣の先が赤く燃える木炭の中に差し込まれ、鍛冶師はフイゴを動かす。
真っ赤に焼けた先をハンマーで叩くと、赤い火花が散り、先が鋭角に切り取られた。次に別のハンマーで叩くと鋭く形が整えられていく。あっという間だった。
水が音をたて小さな水蒸気が上がった。濡れている剣を布で拭い切っ先を眺める。
更に数種類の鉄ヤスリをかけて、もう一度刃を確認した。
「これでどうかな?」
「十分です」
俺は革袋から銀貨を出して料金を支払う。
「あの~。またお願いしてもいいですかね?」
「もちろんさ、こっちは儲かるんだから」
若いからなのか人外に抵抗がないのか、もしくは純粋に鍛冶が好きなのか、彼はそう言って笑った。
できあがったのは脇差しと言うより、ナタとも違う大型の軍用ナイフのような顔だった。
俺は鍛冶仕事には詳しくはなかったが、この世界の鍛冶は現実世界の技術に驚くほど似ているように思う。
大昔、この世界に転移した人間が技術を伝えたのかもしれなかった。
俺たちがこれからやることも、もしかするとこの世界に何らかの影響を与えるのかもしれない。
帰りに鞘の修理に使う、革紐と竹製の太い針をマーケットで手に入れた。
そこから少し中心部へ行った路地裏に鍛冶屋があったことを思い出したのだ。
あそこは人間の鍛冶師であったがまだ若く――、と言っても自分たちよりは年上だが――独立したて、といった感じの小さな店であった。
剣の修理について、ダメモトで話を聞くだけでもと思ったのだ。
店の中には仕事の順番を待つ農機具やナタ、材料になるであろう鉄片が並んでいた。
「ちょっといいですか?」
「うん?」
若い店主は作業の手を止めてこちらを向いた。顔の汗を拭い、陶器のカップから水を飲んで息を付く。
断られるかな、と思いつつ俺は事情を説明した。
「これを剣に?」
「はい、どうですかねえ?」
「うーん……、面白いことを考えるね」
俺が渡した剣をかざして折れた先を眺める。
「これはルーサム爺さんの所で買ったのかい?」
「ルーサム爺さん?」
「ああ、西の山側にあるスクラップ屋さ」
「そうです」
「そうか、俺も時々素材探しに行くよ」
店主はそう言って笑う。仕事柄二人は知り合いなのだ。
「たくさん廃剣がありました。何で剣を修理して使わないんですかね?」
「あそこの剣はほとんど軍用だったからね。人を切っているから冒険者は敬遠するんだ。魔力が使えないと思っている」
「魔力?」
「迷信なんだけどね」
「俺は迷信なんて信じないけどな……」
中世のようなこの世界では、そんなものなのかもしれない。ただ魔力の意味がよく分からない。
「この剣が折れたってことは、前の持ち主は死んだと思うよ。気味が悪くない?」
この剣で必死に豪剣を受け、ポッキリと折れたときの絶望感、いや、あるいはそんなことを考える間もなく、かつての持ち主は絶命したかもしれない。
「いえ、お金がないので贅沢は言えません。剣は新しい持ち主が現れて喜んでいるかも」
「ははっ、きっとその通りだよ」
店主は嬉しそうに笑った。
「どうですか?」
「お安い御用さ、先を少し打ち直せばいいんだから」
「そうですか!」
「ただこんな剣では戦えないよ。短剣よりも長くて中途半端だね」
この世界には脇差しのような長さの概念はないらしい。たぶん二刀流の考え自体がないのだ。
「まあ、お金がないので廃品利用です。いくらぐらいかかりますかね? 研ぎは自分でやりますから」
「そうだね……、百五十ギットかな」
直感的に安いと思った。これで中途半端でも武器が一つ手に入るなら安い物だ。
「お願いします」
「よし、すぐやってしまおうか」
折れた剣の先が赤く燃える木炭の中に差し込まれ、鍛冶師はフイゴを動かす。
真っ赤に焼けた先をハンマーで叩くと、赤い火花が散り、先が鋭角に切り取られた。次に別のハンマーで叩くと鋭く形が整えられていく。あっという間だった。
水が音をたて小さな水蒸気が上がった。濡れている剣を布で拭い切っ先を眺める。
更に数種類の鉄ヤスリをかけて、もう一度刃を確認した。
「これでどうかな?」
「十分です」
俺は革袋から銀貨を出して料金を支払う。
「あの~。またお願いしてもいいですかね?」
「もちろんさ、こっちは儲かるんだから」
若いからなのか人外に抵抗がないのか、もしくは純粋に鍛冶が好きなのか、彼はそう言って笑った。
できあがったのは脇差しと言うより、ナタとも違う大型の軍用ナイフのような顔だった。
俺は鍛冶仕事には詳しくはなかったが、この世界の鍛冶は現実世界の技術に驚くほど似ているように思う。
大昔、この世界に転移した人間が技術を伝えたのかもしれなかった。
俺たちがこれからやることも、もしかするとこの世界に何らかの影響を与えるのかもしれない。
帰りに鞘の修理に使う、革紐と竹製の太い針をマーケットで手に入れた。
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