上 下
13 / 50
第一章「未知なる異世界」~八人の転移者~

第十三話「軍事行動」/キョウ(伊集院京介)

しおりを挟む
 翌日、俺とトモは午前の仕事を先にあがる。食堂の混雑を避ける為に時間差を作っているようだ。この世界の人間もなかなか考えている。

 昼食を済ませ港に戻ると中型の帆船が入港していて、明らかに軍人と思われる集団が下船中だった。

 数十人全員が、軍服らしき姿で帯剣し整列を始めた。士官らしき男が三名、馬の手綱を握り降りて来る。

「あれはこの世界の軍だよ。船で移動もするのか……」
「この辺は物騒なのかな?」

「分からない。訓練かもしれないけど、わざわざ陸兵を船で移動させるなんて……」

 兵士たちは皆、緊張した面持ちをしている。指揮官らしき男は何事か檄を飛ばしているが、ゴブリンの聴覚を持ってしても、この距離ではよく聞き取れない。

「どうやら実戦みたいだね……」
「行ってみよう!」
「うん」

 近くに寄って眺めていると、俺たちはまだ若い指揮官に声を掛けられる。

「おいっ、そこのゴブリン! 荷を運んでくれんか」
「「はいっ」」

 やぶ蛇だったが、こちらが野次馬根性を出してしまったのでしょうがない。

 港の監督官が飛んできて軍人たちと何やら話をしている。

 船からの荷下ろしが終わるころ、待機していた馬車が三台、武装した軍とは違う数人の男たちに囲まれ船の前に並んだ。

 今度は監督官に指示され木箱を荷台に積み込む。

「食料等の御指定の物資は昨夜の内に手に入れ、本日早朝にギルドを先発しております」

 その武装民間人のリーダーらしき壮年の男性が、軍の指揮官らしき男に仰々しく報告する。

「御苦労様です。全て戦に必要な重要物資ですから、よろしく護衛を頼みます」
「デイミ……、いえデイミック少尉殿! あなたはこの中隊を預かる指揮官だ。一介の冒険者風情にその言葉遣いは頂けない」
「かつての上官にぞんざいな言葉は使えません。いえ、あなたは今でも私の上官であります」

「デイミ、立派になったなあ……。退役前のお情けで少尉になった俺とは大違いだ。もう立派な指揮官だよ。しかし軍の規律は守らんとな。部下も見ている」

「皆、この街で護衛任務を引き受ける冒険者は、あなただと知っていますから」
「まいったねぇ。俺はそんなに有名人か?」
「英雄ゴードリックは今でも軍の語り草ですよ」

 木箱を荷台に載せながらも、俺は二人の会話が気になって仕方がない。

 整列している若い兵たちは、このやりとりを眩しそうに見ていた。

 二人はかつて上司と部下だったらしい。過去から今までどのような関係だったかを想像できる会話だった。

「ではっ!」
「御武運を! デイミ、死に急ぐなよ」
「はっ、出撃だ!」

 少尉と呼ばれていた若い士官は騎乗し、中隊を率いて行軍を開始した。


「さてと。俺たちも後を追うか……、おっとすまん。その箱は最後尾の馬車に載せてくれんか」
「はい」

 俺はそのリーダーらしき冒険者に言われ一部の木箱を移動する。

「それと……こいつは先頭の馬車、これは真ん中のに積み替えてくれ」

 トモも言われるままに荷を移し替える。英雄と呼ばれていた冒険者は自らも麻袋を移動した。

「よしっ、これでいい。野郎ども、箱を隙間なく詰めてしっかりロープで固定するんだ。動けば馬の負担になる」
「「はっ!」」
「親方はすげえよな。箱の大きさと書かれた名前を見ただけで、三台の馬車を同じ重さにしちまう」
「ダドリ。同じじゃないぞ。調子の悪い馬は少し軽くしておいた」
「凄いなあ……」

 副官らしき男が感心し、若い冒険者は憧れを隠さないで呟いている。


「この船は軍艦なのかな……」
「ん?」

 不用意に呟いたトモの言葉に、その親方と呼ばれた冒険者が反応した。

「これは見た通りの民間輸送船さ。そんなことに興味があるのか?」
「いえ、この前、山の中の村から出てきたばかりで……」
「そうか、俺が言うのも何だが、軍は色々とうるさいから気をつけな。変に興味を持つと疑われるぜ」
「はっ、はい。ありがとうございます」

 監督官は書類を差し出し、男は受け取って二人は荷の最終確認を始める。


 俺たちはその場を離れ午後の仕事に戻る為、倉庫に向かって二人で歩く。

「ややっこしい話だな、スパイとかかな?」
「疑われないように気をつけろか……。これは軍事情報だから、それなりの緊張状態にあるみたいだ」
「どこの世界にも戦争はあるか……」
「うん。冒険者は民間軍事会社みたいな仕事もしているんだなあ」
「戦争と冒険者か……」

 ゴードリックと呼ばれていた冒険者は元軍人で、軍需物資の情報に精通しているようだった。

 昔のコネもあるだろうし、もちろん信頼もされているからこそ、このような仕事を請け負えるのだろう。

     ◆

「驚いたよ! この世界にも冒険者がいてギルドがあるらしい」
「えっ! そうなの?」

 夕食の席で隣り合ったアヤノに俺は少々興奮ぎみに話す。小説でしか存在しない冒険者に今日初めて会ったのだ。

「ただ小説世界の冒険者とはちょっと違うかな? 軍事にも関わりがあるらしい」
「冒険者を目指すの?」

 アヤノが心配そうに俺の顔を覗き込む。

「いや、目指したって俺なんかには無理だよ。彼らは本物のプロって感じだった」
「ふ~~ん……」

 俺は内心を見透かされているようで無理して否定したが、アヤノはそんな考えすら見透かすように俺を見つめていた。
しおりを挟む

処理中です...