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第一章「未知なる異世界」~八人の転移者~

第四十二話 「ルシトチャ戦線 その二」/キョウ(伊集院京介)

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 冒険者の仕事にも慣れてきたある日の朝、俺とアヤノはいつものようにギルドの門をくぐる。

 クエストの掲示板を見るが昨日の帰りと、さほど代わり映えはしていない。

「今日はダメか……」
「お茶と薬草採取の日ね。ちょっと遠くまで行ってみましょうか」
「そうだな、しょうがないか……」

 乾燥したラスティバを交換した伝票を受付に出して、俺は報酬を受け取る。

「小さい魔獣の数はちょっと減ってきたけど、暖かい時期は増えるのも早いのよ。また頼むわね」

 小物狙いは安く当然クエストとしては人気がないので、俺たちは意外に重宝されていた。変な話だがこちらの方向性で名が売れてしまわないか、と余計な心配をする。

「はい、もちろんです」

 いつものように元気に返事を返す。これも営業だ。

 受付嬢のイーヴとそんなやり取りをしてから二人で受付を離れる。こん日もあるだろう。

「今日はどこに行こうか?」
「そうねえ……」

 互いに考えを巡らせながら外に出ると、ルシトチャ村のルークインが血相を変え走って来た。

「どうしたんだ?」
「あっ、ユーキ! 大変だ。村が――魔獣に襲われている」
「何だって!!」
「待ってて!」

 息が切れ切れの状態から叫んだルークインは、ギルドに駆け込んでカウンターに向かう。俺たちも慌てて後を追った。

「ルシトチャ村が――、魔獣の群れに攻撃を……」
「分かったわ!」

 言い終わる間もなくイーヴが叫び、奥の職員たちも色めき立つ。ギルド全体の動きが急に慌ただしくなった。

「すぐに集合を掛けるわ。冒険者が集まり次第、順次救援に向かわせるから」
「助かった……」

 イーヴの言葉にルークインはホッとしたように両手を膝に付いた。村の安全も大事だが、俺にとっては仲間の安否も心配だ。

「皆は無事なのか?」
「無事だ。女と子供は避難している。ドーゴックたちは北の森に入って食い止めているけど、大型の魔獣は百体以上もいるようだ」
「百だって?」

 その大型がどれほどの脅威なのかは分からないが、数が百とは尋常ではない。俺の顔から血の気が引く。
外ではけたたましく鐘が鳴り始めた。

「非常招集の合図よ。すぐに冒険者たちが集まってくるわ!」

 全てのクエストはキャンセルされた。これは危機に備えて事前に想定されている動きのようだ。

「俺も行くぞ。アヤノ! 宿舎に戻って皆に伝えてくれ」
「分かったわ」


「魔獣たちが来やがったのか?!」

 ゴードリックが暁の面々と共にギルドに入って来て叫ぶ。

「どこだ! ルシトチャ村か?」
「そう、大型魔獣はおよそ百」
「ふんっ!」

 不適な笑みに、いつもの鋭い光眼がより鋭く光った。

「よーしっ、野郎ども! 村は俺たち暁の旅団が守るぞ!」
「「「おーーっ!」」」

 イーヴは受付カウンターの中から外に飛び出て、ゴードに詰め寄るように近づいた。

「冒険者たちの指揮はゴードが執って!」
「分かった。ダドリ」
「はっ!」

 ゴードが名を呼ぶと見知った顔の副官が一歩前に出る。

「俺は先行する! お前は後続の冒険者をまとめてから進め」
「はっ!」
「だからあなたが指揮を――」
「指揮官は常に先頭に立ってこそ指揮なのさ。ダドリはやってくれる」

 食い下がろうとするイーヴにゴードは大袈裟に肩をすくめてみせた。

「――もうっ!」

 イーヴは頬を膨らます。二人は今まで何度となく、同じようなやり取りを繰り返しているような雰囲気だつた。

「気をつけて」
「おうっ! 任せろ」

 後方の指揮は副官の仕事、との考えは俺にも理解できる。アニメや漫画でそれをやらなければ宿敵同士が戦場で出会うこともない。

 表に出た旅団のメンバーは半数が騎乗し半数は徒歩となる。俺とルークインは走って馬を追い、アヤノは商会の宿舎へと向かった。

 山道に差し掛かり、馬を下りて徒歩に切り替えた暁の冒険者たちを、俺たちは走って追い抜く。ゴブリンが人間より有利な点だ。
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