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第一章「未知なる異世界」~八人の転移者~

第三十九話 「開拓者たち その七」/タカ(高丘尊也)

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 細く裂いた長い竹の先端を火であぶって曲げる。小刀で釣針のように削り出し、節を残して切断した浮子うきに取り付けた。

 それを竹ひごでいくつも連結して端に細い紐を結ぶ。キヨに教えられつつ二人で魚の仕掛けを制作する。

 湖でのマス漁用であるが、上手くいくかどうかはまずは川で試してみることにした。川沿いの木に紐を結び、餌を付けた釣針と浮子うきを深みに浮かべる一種の罠だ。


 リオンと二人で北の下流へと向かいながら、川の流が緩やかで一定の水深の場所をいくつか探して仕掛けを浮かべた。

 一通りの作業が終わり、僕らは上流の村へと引き返す。

「すぐに釣れるかしら?」
「どうかなあ? 一晩様子を見てから回収してみよう」
「ちょっと見ていきましょう」
「すぐは無理だよ」
「少しだけよ」

 村の近くの場所、木陰の石に腰掛けて最初に仕掛けた、川の流れに身を任せている浮子を二人で眺める。それは魚が掛かれば不規則に動くはずだった。

「なんだか前の世界にいた時より、のんびりした毎日よ……」
「そうだね。生きていくのに精一杯だと思ってたけど、そうでもないよ」

 朝起きて一日何かしらの仕事をして暗くなったら寝る。およそ文明に縁遠い生活であったが、毎日が刺激的で興味深く穏やかだ。

「ねえ……、街に行ってみたいわ……」
「そうだね、この目で見てみたい。ただもうちょっと村の生活が安定してからかな」

 僕はルークインから聞いた、彼の予定をリオンに話して聞かせる。

「やっぱり現金と買い出しは必要だよね」
「そうね、私たちが街に行くのはもうちょっと先かしらね? 次に帰って来る人は何か調味料は持ってきてくれるかなあ……」

 リオンは既にすっかりその気だった。僕は内心で苦笑する。

 しばらく待つが浮子は特に反応を示さない。僕らは昨日から沈めていたビンドウを回収してまた沈め村へと引き返した。

   ◆

 僕は鶏小屋の製作に取り掛かった。

 東の森に入ったすぐの所で、木のあまりない場所を選んで下草を刈り、竹を格子状に編んで壁を四面作る。

 道具は全て長老から借りて、予め竹を切り乾燥させ割っていた。この村での標準的な作りを踏襲するから簡単な作業だ。

 この小屋は移動式にする予定だった。今住んでいる小屋は仮の住居だと理解している。いずれは村のどこか、たぶん北の空き家に落ち着くことになると思っていた。

 竹で組んだ梯子を使い周囲の木々を枝打ちする。この場所ならば万が一、魔獣がやって来れば、鶏が騒いで警報の役割を果たしてくれるはずだ。


「手伝うよ」
「悪いね」

 川の様子を見に行っていたキヨが合流してくれる。

「いやいや、フライドチキンの為さ」
「ははっ、そうだね。リオンは村の子供たちにオムライスを食べさせたいって張り切っているよ」

 夏になれば様々な野菜と新鮮なトマトも採れる。

「それは僕も食べたいな」
「長老の所の卵が羽化しそうなんだ」

 二人でそんな話をしながら作業を続けた。太い竹を組みロープで結び小屋の構造体を作る。

「貝殻の餌の調子はどうなの?」
「かなり効果があるね」
「とは言え餌の調達は大変だろ?」
「うん、僕らが食べれない何かを効率的に手に入れる方法を考えないとね」

 四面に壁を取り付け一面は扉として使用する。移動も可能だし増設も容易な簡素な鶏小屋だ。

 草や木の葉を束ねて取り付けた竹の格子を屋根として乗せて、一応は完成だ。

 この後は小屋の四方の地面に竹を敷いて石を載せる。小動物、外敵の侵入を防ぐ為だ。

「続きは暇をみながらやろうか。雛は少し成長してからこっちに移した方が良いって長老が言っていた」
「それまでは川から石を運んで、それと餌の調達だね」
「うん」

 僕は頭を働かせながら次の行程を考え、キヨに向かって頷く。

 餌は魚のアラや骨を乾燥させたり、野菜クズ、大豆や芋類、森の虫だったりなどだ。

 リオンのオムライスの為には、これも成功させなければいけない計画だった。

   ◆

 竹釣針の成果は上々だ。今までビンドウには入らなかった大物が引っ掛かった。資源保護と魚がしまわないように仕掛けの場所を広範囲にローテーションさせる。

 下流の対岸に深みがあり、そこの仕掛けを確認する為、僕たちは川を渡る。

「これは凄いよ、大物だ!」

 キヨが胸まで水に浸かりながら大きなザルで魚をすくい、僕は慎重に竹の針を外してナイフで絞める。

「これは鯉か草魚だね。こんな魚までいるんだなあ」

 これぐらいの大物以外はリリースするように努める。何年後かの食料と考えるのが合理的だろう。

 土手に上がって次に仕掛けるミミズを捕っていると、、例の感覚を感じる。

「魔獣?」
「うん何かいるようだ。こんな所に?」

 キヨも気配を察する。二人で剣を抜いて方向に向き直ると、草藪から黒い小動物が顔を出す。

スリネズミ――か……」
「止めてみようか」

 僕は手をかざすが、魔力の行使を察したネズミ魔獣は顔を引っ込めて気配は消える。

「ネズミなら一匹だけとは思えないね」
「うん、ルークインに伝えよう。こんな下流の西に出るなんてちょっとおかしいのかもしれない……」

 この村は小型とは言え魔獣の出現には敏感だ。群れになれば一体の大型より厄介なのは現実のネズミも同じだった。
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