『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

文字の大きさ
上 下
115 / 116
第三章「街を守る男」

第百十五話「別れの連鎖」

しおりを挟む
 いつものようにベルナールは、ギルドの前でセシールたちを待つ。最初は珍しがってその姿を見ていた冒険者たちも、今は飽きたのか気にもしない。

 そしてバスティたちのパーティーがやって来る。いつも自由勝手に行動しているので、会うのは夕刻がほとんどであった。

「おはようございます」
「ああ、おはよう。珍しいな、朝からギルドに来るなんて」
「はい」

 メンバーの少女たちはバスティに目配せしてから、微笑んで中へと入っていった。

「そろそろ王都に帰ろうかと思いまして」
「そうか……」
「残念ですが、もうずいぶん予定を過ぎていて……」
「うむ。この街も寂しくなるな」

 バスティには貴族としての生活もある。憧れだけで永遠に冒険者は続けられない。自分とは運命が違うのだと、ベルナールは思った。

「今度王都にも遊びに来てくださいよ」
「遊びか――、戦いになら行くがな」
「あはは、そうですね。王都もこの事件の影響を重く受け止めているでしょう。同じような事態になるのでは、と……」
「そうだな。ただアンディクたちに任せるさ。しかし必要ならば俺を呼べと伝えてくれ」
「はい、お世話になりました」

 バスティは少し照れたような表情をして、ギルドに入って行った。


 続けて二人の弟子とセシールもやってきた。魔境大解放ダンジョン・クライシスの騒ぎも収まり、学校は平常を取り戻している。今日から冒険者稼業を再開するのだ。

「師匠! また今日からよろしくお願いします」

 アレットはずいぶん大人びた気がする。

「よろしく~」

 ロシェルは――。まあ、相変わらずだ。ベルナールは日常が戻ったと微笑む。

「ああ、こちらこそよろしくな」
「さぁ、ベルさん。また稼ぎましょう」
「まあ、ほどほどにしとこうか」
「もう……」

 と、セシールは頬を膨らました。ベルナールも微笑する。


 受付カウンターには、いつぞやのようにエルワンが座ってベルナールを見ている。

「何か話があるみたいだな。行ってくるよ」
「ええ」

 セシールに耳打ちして、ベルナールはギルドマスター殿の元へと向かった。

「朝っぱらから何かあったのか?」
「ギスランの移送が決まりました。明日の朝早くにこの街を立ちますよ」
「そうか……。分かった」

 本当にこの街も静かになる。


 続いてベルナールは掲示板を眺めているセシールたちの元へと戻る。

「今日はどうしましょうか?」
「そうだなあ、森の訓練で良いだろう。どこも、さほど獲物はいないさ」

 新ダンジョンのレ・ミュローにはレディス、アルマたち騎士団がいた。開口封鎖の最終仕上げに入っているはずだ。

 他のダンジョンにも冒険者は大勢いるだろう。皆、最後の稼ぎと戦っているのだ。

 サン・サヴァン全体が平常に戻りつつある。


 ベルナールたちは森に入った。小物の数はいつもより多い。良い訓練日和だった。

 アレットもロシェルも街の危機を経験して、少し精悍な顔つきになった気がする。こと戦いに望めばだが。

 若い者の成長は早い。もう少し経験を積めば一人前の冒険者になるであろう。

   ◆

 そして夜、ベルナールはいつものように、ギーザーのカウンターにいた。

「王都の連中が引き上げ始めたよ。もっと居てくれりゃあいいのに。気が利かないな」
「店は儲かったんだろ?」
「まあな。一時はどうなるかと思ったけどな」

 ゴースト騒ぎのおり、酒場のほとんどは閉店に追い込まれていた。しかし特別種SSSが討伐されてから、王都から来た若い兵が堰を切ったように夜の街に溢れたのだ。

 ギーザーも大いに売り上げた。古女房と娘たちを手伝いに呼んで、店の外に屋台とテーブルを出して酒を提供した。

 今夜はもう遅い時間なので、若い兵が二人テーブルにいるだけだ。夜の三交代警備を終えた、飲み始めのようである。

「俺たちの帰還隊に元冒険者の大物がいるんだってな。知ってるか?」
「ああ、反乱とかの容疑らしいな」
「こっちの兵も少ない。大丈夫か?」
「何だよ……」
「仲間の冒険者たちが奪還しようって、襲ってくるとか……」
「冗談じゃないぞ――、あっ、マスター。ビール二つお代わりで」
「はいよ」

 マスターは笑いそうになりながら、ビールをついでテーブルに運ぶ。

「まさか、そんなことないですよねえ?」
「当たり前だよ。なんでまたそんな心配を――」
「王都を出る前に、この街の冒険者たちと一戦あるかもって噂があったんですよ」
「そうそう、俺ら輜重隊も戦闘訓練したしな」
「どうなんだ? この街のベテラン元冒険者さん?」

 マスターはベルナールに話を振る。

「まさかだよ。王都には化物みたいな強いヤツが大勢いるんだ。冒険者は負ける戦いはしない」
「だってさ。安心して帰りな」

 ギスランのパーティーメンバーだった者たちはジェリックがうまくまとめている。そんなことは万が一にも起こらない。

 この街の冒険者たちは皆、新しき道へ向かって進み始めている。そしてベテランの元冒険者は再び忘れられた存在になりつつある。王都へ帰還する車列を襲う者などいない。

「そうだよな。この街には勇者はいないし、王都には筆頭騎士がいる」
「だけど今の筆頭騎士なんて見たヤツはいないんだぜ。本当にいるのか?」
「いるよ。戦いには出ている。騎士団以外は近づけないような戦場で戦っているんだ。当然だろ?」

 かつてブラッドリーが筆頭騎士を務めていた。勇者と互角に戦える戦力だ。久しぶりの大戦おおいくさは、昔を思い起こさせてばかりだった。そろそ帰って寝るか――、とベルナールは思う。

「マスター! もう一杯だ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...