『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

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第三章「街を守る男」

第百八話「最下層」

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 そこは巨大なホールであった。魔核が光る天井は三、四階層上までに高い。ここもまた落盤の可能性がある。

 目の前には巨大な障壁が張られ、先は見えない。魔物たちはその先にいる。

「念の入ったことだな」

 魔物をけしかけることも出来るが、そうしないで何を今更守るのかとベルナールは呆れた。それこそがゴーストの目的である。このメンバーならば、それ・・が何であったとしても打ち破れるであろう。

「よしっ、セシール。弓を射りなさい!」
「私? ロシェル、やってみて」
「はい~」

 セシリアからの振りを、セシールはロシェルに振る。まずはこの障壁の強度を試すのだ。

 そして放たれた矢の力強さにベルナールは驚く。弟子たち成長は著しい。しかし障壁に変化はなく、矢は簡単に弾かれた。

「次は私ね」

 続けて放たれたセシールの更に強力な一撃も、壁にさしたる変化を与えなかった。

「だめだわ。これ、なんて障壁なのよ……」
「さてさて、ここで私の出番ね。よく見てなさい――」

 真打ち登場とばかりに、セシリアは聖弓ディアメネシスを引き絞る。

「――この力を、力でねじ伏せてこその勇者……」

 ベルナールは制御で、アンディックは魔法で、そしてセシリアは力――、魔力で神器じんぎを使いこなすのだ。

「それっ!」

 放たれた矢が障壁に突き刺さる。そこから解放された魔力が、稲妻のごとき紋様で広がり火花を散らす。面全体に浸透しつつ破壊を続けた。

「さあーて、どこまで耐えるのかしら?」

 そこかしこで障壁の一部が割れ始め、弾けるように光の粒に変化して、地面に降り注ぎ消滅していく。

「上手くいったな――」

 破壊された場所から蠢く魔物の影が見え隠れする。

「――来るぞ! 備えろ!」

 ベルナールのかけ声に全員が武器を構え直す。障壁の消失と同時に多数の魔物が襲い掛かって来る。全員で剣を振るい、矢を射り魔法の攻撃を加えた。

「やっと暴れられるぜっ!」

 圧力をものともせずデフロットが前に出、パーティーの仲間たちもアシストしつつ続く。

「俺たちも行くぞっ!」

 負けじとバスティも前に出、アレクは苦笑いしながら援護した。若者たちの戦いに、ベルナールは少し遠慮をする。

「二人共下がって! アレットと援護するからロシェルは矢を――」
「はいっ」
「はい~」

 セシールは弟子の二人を守りつつ後退し、ロシェルは矢を放ちアレットは接近する魔物に剣を振るった。

「私たちも負けてられん!」
「競争じゃないんだから……」

 強敵を選んで向かうアルマを、オーウェンは牽制しつつ援護する。

「うわっ」

 戦いに巻き込まれそうになったエルワンをかばいつつ、ベルナールも後退した。

「乱戦になるから下がっていろ」
「そうさせてもらいます」

 狭い空間で敵味方入り交じった戦いでは、むやみに神器じんぎの力は使えない。セシールは隙をついて力を抑えた矢を放つ。

 魔物の壁に空間が開いて先が見えた。巨大な球体が鎮座し、魔物はまるでそれ・・を守っているかのようだ。

「あれか……」

 ベルナールは全員の戦いに目配せしながらも、その最終目標を観察する。

 それは巨大な卵のように見えた。透明な殻の向こうへと、魔物らが次々と吸い込まれていく。。そして、その中心では黒い影が渦巻いていた。

「吸収しているだと?」

 アンディックが戦いながらベルナールに背中を合わせる。

「あれが本命です」
「ああ、一気に殲滅しよう。あんなモノは見たことがないぞ!」

 ベルナールの中であれ・・は危険との信号が点滅した。殻の中に籠もり魔物を吸収する渦巻き。それは驚異以外の何者でもないであろう。

「セシリア! 狙えるか?」

 ゴーストの目的の殲滅を急がねばならない。

「任せて!」

 セシリアは場所を移動しながら、聖弓に矢をセットする。アンディックはその位置を睨みながら、魔撃を何発か群に打ち込んだ。回廊が形成されセシリアはその隙を見逃さない。

「それっ!」

 二人の連携で矢は謎の物体に命中する――と思われたが、卵から発した光に弾かれる。

 群の中で虚しくも魔力爆発を引き起こし、魔物を何体も切り裂くが、その細切れさえも殻の中に飲み込まれていく。

「くそっ! 攻撃が通じん!」

 卵の殻自体が自動で防御障壁を張っていた。ベルナールはどうしてやろうかと考え、後方の一段高い場所に動く影に気が付く。

「あれは……」

 三人の黒い人形ひとがたが現われる。その頭部に人間の顔が浮かぶ。ゴーストだ。

「おおおおぉぉ――っ!」

 すぐさまレディスが反応し、跳び上がって魔物の壁を越えようとする。しかし卵から発した光に襲われ、自身が作り出した防御障壁ごと弾き戻された。その体をベルナールは受け止める。

「一人で無茶するな。俺たちもいる……」
「す、すいません……」


 《人間ごときが越えられるモノではないわ……》

 しゃがれた声が、ここにいる全員の頭に響く。ヒュドラの姿をしていたゴーストだ。

 《これがゴーストの究極体よ》

 この声はワイバーンである。

 《世界を支配する力だ……》

 そしてサイプロクス――。これがゴーストの仕掛けなのだと、ベルナールは歯噛みする。


 卵の上部がまるで開花のように開き、三体のゴーストたちは黒い霧となりそこに吸い込まれていった。ゴーストが吸収したのか、それともこの卵に吸収されたのかは分からない。

 これはゴーストの合体だ。他の魔物たちも、その中へと一気に吸い込まれていった。
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