『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

文字の大きさ
上 下
102 / 116
第三章「街を守る男」

第百二話「それぞれの運命」

しおりを挟む
 ギスランとフィデールのパーティーを押さえたので、ギルドは作戦を変更する。積極策だ。

 今まで不参加であった冒険者たち全員が、このダンジョンクライシス攻防戦に加わり、戦況を一気にひっくり返せるとの見込みである。


 旧ギスランのパーティーは紆余曲折あり、そのほとんどをジェリックが掌握した。

 脱退した者もいたが、それはギスランを慕ってではない。自分たちでパーティーを組み、自身の信念の為に戦いたいとの理由からだった。そして多くの者たちもまた、この戦いの終結をもってそれぞれの道を進もうと考えていた。

 かつてフィデールが率いていた冒険者たちは、この戦いに限りブランシャール卿の預かりとなりギルドに従うこととなる。稼ぎまくる他の冒険者を横目で見て、皆が戦いに飢えていた。

 交代の応援が加わり、当初から戦い続けていた冒険者たちは、しばしの休息を得ていた。


 戦場を一回りしたベルナールとセシリアは、レ・ミュロー対策本部に戻る。決戦は近い。

「どうでしたか?」

 エルワンが二人を出迎える。片手に書類を持ち会議室へと移動した。

「特に目新しい動きはないな。敵も次の一手を出しあぐねているようだ」
「次ですか……」

 ベルナールは未だ幽鬼ゴーストたちに次の一手があると読んでいた。

「そもそも次なんてあるのかしら?」
「さあなあ、ないかもしれん。あるかも知れん」

 しかし、セシリアも含めた全体が楽観論に傾きつつあった。ずっと戦力不足に苦しんでいたが、初めて戦いに余裕が生まれたからだ。

「ならば敵が動く前に、こちらから仕掛けましょう。これ、作戦計画書です」
「あ~ら、エルワンの考えた作戦なんて大丈夫なのかしら?」
「ひどいなあ、感想を聞かせて下さい。修正しますから。アンディックさんの所にはロッティが持って行きました」

 王宮騎士団ロイヤルナイツすらも傘下に収める大作戦である。その計画を、いちギルドマスターが立案するなど混乱時の異例でもあった。

 その内容にベルナールたちはざっと目を通す。

「ふ~ん……、良いんじゃないかしら?」
「ああ、特に注文はないな」
「そうですか? いやあ、嬉しいですねえ。お二人からそう言っていただけるなんて……」
「エルワン、お前はもう立派なギルドマスターだよ」
「今までは違っていた、ってのはショックでもありますけどね」

 おどけたエルワンとベルナール、セシリアの三人は顔を見合わせて笑い合う。

 ベルナールの発言は、今までは北ギルドのマスターであった。しかし今は街全体のギルドマスターの顔になった、との意味である。

王宮騎士団ロイヤルナイツが了承してくれたら、全員に周知します。それと神器じんぎ使用も申請しますよ」

 計画の責任者が申請し、近衛兵団の了解が使用の手続きとなっていた。

   ◆

「この戦いも終りが見えたって気がしねえか?」
「最後まで気を抜いてはいけない、だろ?」

 エレネストの店では、いつものように若者たちがたむろしていた。

 ギスラン、フィデールの件については正確・・な噂話が流布され冒険者たちは皆、事情を知っている。

「ふふん、騎士の考えだな。冒険者は金勘定と逃げ時が大事なんだよ」
「騎士だなんて……」

 デフロットに相手を挑発するつもりはなかったが、それでもバスティは少し考える顔になる。バスティが貴族だと皆が知ってしまった。

「もちろん気を抜くつもりはないぞ。俺たちのパーティーで最後に必ずA級を喰ってやるぜ」
「ああ、こっちだって同じさ」
「私たちの配置はどこになるのかしら?」

 ステイニーが話題を変える。最後の稼ぎに係わる問題であった。大きくはダンジョン突入組と、開口周辺での支援組みに分かれるはずだ。

「どこだって構わないぜ! どうなろうが、最後はダンジョンに突っ込むからな!」
「なら魔力を温存してね。開口を前にしてへばっちゃうなんて御免よ!」
「分かってるよ……」

 気を吐いたデフロットだがステイニーの正論には素直に同意した。


「さて、私たちもそろそろ意思統一をしておきましょうか」

 この際だからと、アレクもこの話題に乗っかる。

「やっぱりダンジョンよね~。中がどうなっているか興味あるわよ」
「ゴースト出現と、新ダンジョンには何か関係あるかと思われます。その秘密は中に入らなければ分かりませんわ」

 イヴェット、リュリュ共に発言のあとバスティを見る。アレクも同様であった。

「俺は……」

 出来ればあの・・人の背中を見て戦いたいと思った。この街での戦いも、もう終りが近い。しかしバスティは、単に自分は好き勝手に生きているだけだと思っていた。アルマに説教された件もしかりだ。

「俺はアレクの判断に従うよ」
「あらあら、素直なのね」
「個人の判断で、どうかなるとも思えないしね。状況に合せたリーダーの指揮に従う。それがパーティーだよ」

 運命に流された先に何があるのかもまた、興味深い。この戦いが終われば素直に、王都に帰還しようと思った。

   ◆

「ベルさんとお母さんはもう帰ったって」

 上に報告を済ませたセシールは一階に戻る。対策本部では、今日もまたいつもの美しい御婦人が軽食とお茶を振る舞っていた。

「そうですか……」
「帰るのはやい~」
「仕方ないわね。御馳走になって私たちも帰りましょうか」

 アレットとロシェルは落胆するが、本当に仕方ないのだ。師匠と弟子たちはすれ違いが続いている。成長した弟子には、そろそろ師匠の褒め言葉が必要であった。

「ウチに行ったのかな?」

 最近セシリアは営業を縮小して店を開けている。

「ベルならギーザーに行ったわ。たぶんね」
「えっ?」

 御婦人がカップを置いてお茶を注いでくれる。

「あそこのマスターと話す内容を考えているのね。足取りで分かるのよ」
「はあ……」
「あなたのお店に行く時は、もうちょっと軽やかに歩いているの」

 歩き方で行き先が分かるなど、驚異の魔力である。

「あの、ベルさんとは……」
「ただの昔馴染みよ。御免なさいね。よけいだったわ……」
「いえ……」

   ◆

「ギスランはどうしてるのかな?」
「中央ギルドの地下牢で反省中だよ。連行されてるのを見た職員がいる」
「そうか」

 ギーザーのいつもの席で、ベルナールはいつものようにビールジョッキをあおった。

「どうなるのかな? 処刑されるとか……」
「いや、王都に連行されて監視付の生活だそうだ」
「よくそんなことまで分かるな? お代わりをくれ」
「王都から、遠距離の魔力伝達が届いたんだ。受けた人間が書き起こして、それを見た偉いさんもいる。噂にもなるさ。はいよ」

 ベルナールはビールジョッキを受け取る。酒場のマスターは情報通なのだ。

「生かしておけば、いずれゴーストが接触してくるかもしれない。泳がせて監視した方が有益だと進言した者がいる。それが受け入れられたんだな」
「なるほどね」

 これはアンディックの策だと思った。昔馴染みの冒険者が縛り首では、やはり寝覚めが悪いのだ。ベルナールはほっとする。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

救助者ギルドから追放された俺は、ハズレだと思われていたスキル【思念収集】でやり返す

名無し
ファンタジー
 アセンドラの都で暮らす少年テッドは救助者ギルドに在籍しており、【思念収集】というスキルによって、ダンジョンで亡くなった冒険者の最期の思いを遺族に伝える仕事をしていた。  だが、ある日思わぬ冤罪をかけられ、幼馴染で親友だったはずのギルド長ライルによって除名を言い渡された挙句、最凶最悪と言われる異次元の監獄へと送り込まれてしまう。  それでも、幼馴染の少女シェリアとの面会をきっかけに、ハズレ認定されていた【思念収集】のスキルが本領を発揮する。喧嘩で最も強い者がここから出られることを知ったテッドは、最強の囚人王を目指すとともに、自分を陥れた者たちへの復讐を誓うのであった……。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

処理中です...