『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

文字の大きさ
上 下
99 / 116
第三章「街を守る男」

第九十九話「終焉の元冒険者」

しおりを挟む
「ボス、もうそろそろ止めにしませんか? この街の冒険者たちはもう限界ですよ……」
「もう一押しってことだよ。何を弱気になっているんだ」

 根城の三階、いつもの部屋でジェリックとギスランは、いつもと同じ話を繰り返していた。そしていつもと同じように話は通じず、ジェリックはいつもと同じく唇を噛む。

「冒険者ってのはなあ、終りの見えない戦いは苦手なんだ。一仕事終わらせて報酬を手に入れる。その短い繰り返しが体に染みついているんだよ。そこが軍だ騎士だと息巻いている連中とは違うんだ……」

 ギスランは唐突に持論を語り始める。

「街が崩壊すれば金を取りっぱぐれるかもしれない。だったら――ってな。そろそろ嫌気が差しているヤツがいるかもしれんな」
「……」
「城壁まで魔物が迫れば逃げだそうと考えるよ。そこで俺たちの出番さ。一気に押し出して、ブランシャールのお坊ちゃんたちが横合いから突っ込み加勢する。そして街の危機を救う……」

 ジェリックには、あまりにも都合が良いように思える展開だ。

「そうそう上手くいくでしょうか?」
「いくさ! もちろん事前にギルドに話を通して報酬をたっぷりとせしめる。ああ、ブランシャールとも話を通しておいた方が確実だな」
「……」

 もしもギスランの思惑通りにはこんだとしても、このパーティーに貼られるレッテルは裏切り者か、金の亡者か、それとも――……。ことが成就したとしても、待っているのは栄光とはほど遠い現実だろう。


 突然に外が騒がしくなる。一階に詰めている者たちが誰かと揉めているようだ。

「何だ?」
「さあ……」

 こんな時にと思いジェリックは立ち上がり窓の外を見下ろした。十数の隊列を組んだ兵と、ここの冒険者たちが対峙している。

 兵の先頭に立っているのはアンディックであった。元勇者にして魔導師マスターソーサラーが兵を率いている。もはやこれまでとジェリックは観念した。王宮の近衛兵団がやって来たのだ。

「全てが終わってしましいました。何もかにもです……」
「ん? 何を言っているんだ?」

 兵団は冒険者たちを押し分け、アンディックを先頭に中に入る。もうじきこの部屋にやって来るであろう。

「ボス、お客さんですよ」
「客? 誰だ?」
「王宮の連中ですよ」
「はあ? 何バカなことを言っているんだ。こんな街に――」

 ギスランは未だに事態が飲み込めていない。

「王都を守りし近衛の兵たちが、ここにやって来たのです」

 多数の軍靴が廊下の床を踏み鳴らす音が近づき、部屋の前で止まった。扉がゆっくりと開かれる。

 先頭で現われたのはアンディックである。王宮騎士団ロイヤルナイツの正装は今の立場を表わしていた。

「お久しぶりですね。ギスラン」
「ふんっ、ベルのお友達がここに何の用だ?」

 その威厳のある服装を無視するかのようにギスランは吐き出す。

 一歩前に出たアンディックの両脇から近衛兵たちが室内に侵入した。こちらもまた特徴のある軍服に身を包んでいて、一般の兵でないのは一目瞭然である。

 一瞬ぎょっとしたギスランはすぐさま立ち直った。虚勢を張る為かソファーにふんぞり返り、この侵入者たちをベテラン冒険者の眼光で睨み付ける。

 魔導師マスターソーサラー王宮騎士団ロイヤルナイツ近衛兵団ロイヤルガーディアンズを引き連れてこの街へ、この場所へやって来た。この意味が分からなければ本当のバカである。

「御大層な連中が冒険者の根城に何の用だ?」
「心当たりはありませか?」
「なんだと~」
「この危機に立ち上がらない連中の城が、冒険者の根城とは笑わせますね」

 アンディックは部屋の外で様子を伺っているであろう、ここの冒険者たちに聞こえるように言った。

「ふんっ、俺には街を守る大義名分があるぞっ!」
「大義名分? そんなものはクソ食らえですよ」
「ゴーストから街を守る――」
「だからそれがクソなのですよ。あなたはゴーストと結託して街を混乱に陥れた……」
「なに!」
「あなたは国家騒乱罪で告発されていますよ」
「なっ!?」
「ロッティ!」

 アンディックが名を呼ぶとロッティが中に入り、一枚の用紙を広げて見せた。国家と王家の紋章が入った、この国で一番権威がある命令書である。

「どうですか?」
「そっ、それがどうした? 俺様は、この街の冒険者は認めんぞ! そんなものはデッチ上げだ。証拠を出せよ!」
「今まで御苦労だったね」
「??」

 ギスランにも、この場にいる誰もがその言葉の意味を理解出来なかった。しばしの沈黙が続く。

 唇を噛んだジェリックが一歩前に出た。

「礼を言うよ。君に働いてもらえなければ、この街は更なる危機に見舞われていただろう」
「いえ……」
「なっ、なっ――」
「私の部下ですよ。五年もの間、この街で任務に就いてもらいました」
「すっ、間諜スパイだったのかーっ?」
「そんな言い方はないでしょう? あなたの破滅を救ってくれたのですから」

 待ちかねたとばかりに兵たちはギスランを取り囲み押さえ込む。

「よっ、よせ。放せっ! ガハッ! この裏切者――」

 よく意味も分からないまま抵抗するギスランの腹に鉄拳がめり込む。近衛兵団ロイヤルガーディアンズは国家への反逆者に容赦などしない。

 この部屋の主は強引に連れ出されて行った。

「二人共に長い間、本当によくやってくれたね」

 裏切者のそしりを受け、半ば放心状態であるジェリックに、ロッティは寄り添い胸に顔を埋めた。

「お兄様……」
「大丈夫だ。お前にも迷惑をかけたな」

 ロッティは兄のギスランへの思いを知っていた。だからこそ助けになればとこの街に戻ったのだ。

 五年前、街の不穏な動きを知ったアンディックは、王都で働いていたロッティを動かした。そしてジェリックもまた動かしていたのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

嫌味なエリート治癒師は森の中で追放を宣言されて仲間に殺されかけるがギフト【痛いの痛いの飛んでいけぇ〜】には意外な使い方があり

竹井ゴールド
ファンタジー
 森の中で突然、仲間に追放だと言われた治癒師は更に、 「追放出来ないなら死んだと報告するまでだ、へっへっへっ」  と殺されそうになる。  だが、【痛いの痛いの飛んでけぇ〜】には【無詠唱】、【怪我移植(移植後は自然回復のみ)】、【発動予約】等々の能力があり······· 【2023/1/3、出版申請、2023/2/3、慰めメール】

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

追放されたら無能スキルで無双する

ゆる弥
ファンタジー
無能スキルを持っていた僕は、荷物持ちとしてあるパーティーについて行っていたんだ。 見つけた宝箱にみんなで駆け寄ったら、そこはモンスタールームで。 僕はモンスターの中に蹴り飛ばされて置き去りにされた。 咄嗟に使ったスキルでスキルレベルが上がって覚醒したんだ。 僕は憧れのトップ探索者《シーカー》になる!

おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ
ファンタジー
 十年前――  世界は平和だった。  多くの種族が助け合いながら街を、国を造り上げ、繁栄を築いていた。  誰もが思っただろう。  心地良いひと時が、永遠に続けばいいと。  何の根拠もなく、続いてくれるのだろうと…… ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  付与術師としてパーティーに貢献していたシオン。  十年以上冒険者を続けているベテランの彼も、今年で三十歳を迎える。  そんなある日、リーダーのロイから突然のクビを言い渡されてしまう。 「シオンさん、悪いんだけどあんたは今日でクビだ」 「クビ?」 「ああ。もう俺たちにあんたみたいなおっさんは必要ない」  めちゃくちゃな理由でクビになってしまったシオンだが、これが初めてというわけではなかった。  彼は新たな雇い先を探して、旧友であるギルドマスターの元を尋ねる。  そこでシオンは、新米冒険者のアドバイザーにならないかと提案されるのだった。    一方、彼を失ったパーティーは、以前のように猛威を振るえなくなっていた。  順風満帆に見えた日々も、いつしか陰りが見えて……

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...