上 下
98 / 116
第三章「街を守る男」

第九十八話「最強の援軍」

しおりを挟む
 睡眠不足と連日の戦いで、全員が疲労困憊ひろうこんぱいしていた。街を守るとの使命感、冒険者としてのプライドが皆を奮い立たせていたが限界は近い。

 アンディックが連れてきた部隊も、輜重隊すら一部が街の見回り、警戒線などに加わり協力してくれている。
 

 今日も戦いが終わりギルドへの報告を済ませた後、ベルナールとセシリアはアンディックたちが宿舎として使っている、中央ギルド隣にあるホテル訪ねる。呼出しの伝言を受けたからだ。

 一階のロビーには騎士が数名とアンディックがいた。

「どうしたんだ?」
「王都から品物が届きましたよ」
「品物?」
「少し席を外します。ベル、セシリアこちらに……」

 アンディックは若き騎士たちにそう伝えてからホテルの廊下を歩く。ベルナールとセシリアもそれに続いた。

 地下に下りて更に進み鉄の扉を開けると、そこはベルナールにも見覚えのある場所であった。中央ギルドの地下通路である。

 更に三人は薄暗い魔導の明かりの中を奥へ奥へと進む。ここまで来るのはベルナールも初めてであった。

「ん?」

 突き当たりにある扉の前に、警備の兵が二人立っている。それは王宮の近衛兵団の制服であった。王都からわざわざ出向いて来ているのだ。

 ベルナールはこの厳重な警備に既視感を覚える。何が待ち受けているかを察した。

 アンディックがカギを取り出して解錠すると、兵もまた無言で自身が取り出したカギを使う。二重の施錠が解放される。

「さて、久しぶりの御対面ですよ……」

 中に入ったアンディックは、そう言ってテーブルの置かれている大きな革のケースを指差す。

「ああ、あれ・・ね! 今回の件程度で出してくれたの?」

 見覚えのある大ぶりのケースが三つだ。セシリアもすぐにそれが何かを察する。

「当然です。王国の危機だと王とは理解しておられます」

 ベルナールとセシリアはそれぞれお目当てのケースを開けた。

「久しぶりだな……」

 真っ赤なビロードに包まれた、光輝く豪奢な一振り。特性を持ついくつもの魔核を内蔵し、様々な魔力に反応する驚異の神器じんぎ。聖剣ディアロンドである。

「これで相手をする魔物になんて現われるのかしら?」

 そしてセシリアが手にしたのは聖弓ディアメネシスだ。アンディックも聖剣ディアアークスを取り出した。

「本当によく王都からこいつを出せたな」

 ベルナールは聖剣を抜いて、剣肌に刻まれている複雑な刃文はもんと久しぶりに対面する。何層にも重ねられ、鍛えられた魔導金属が作り出した文様だ。

「国の、いえ世界の危機ですからね」
「それにしてもなあ」

 この波紋から内部の魔核に蓄えられた魔力が、使い手の意思により放出される。常に大地から湧き上がる魔力から、取捨選択しゅしゃ-せんたくされたとびきりの魔力だ。

「高級貴族の一部は今でも反対していますよ。しかしこの危機を放置しては王都が危ないと説得したのです」

 神器じんぎが地方に持ち出されれば、王都に反旗を翻す大儀にもなりかねない。この街に三種の神器じんぎがそろったのだ。

「申し訳ないのですが、朝ここから持ち出して。夕方に返却となります」
「当然だろうな」
「そして使用は最低限、作戦開始のその時といたします」
「分かってるわ! やたらめったら、放ったりしないって」

 セシリアには前科がある。以前使用した時にやたらめったら打ちまくって、大いにひんしゅくを買っていたのだ。恐るべき力が人目に付くのも良くない。

「それと次の一手も打ちますよ。王都から令状も届きました。全冒険者をこの戦いに参加させます」

 それはいまだ戦わず様子見を決め込んでいる、二大勢力のことである。

「もう十分に猶予しましたから、ここまでですね。この街の膿を出しましょうか……」

 ベルナールはその言い回しに強行策の行使を感じた。ことここに至っては致し方あるまい。

「どうするんだ?」
「王都はゴースト事件を含めた今回の事態を、国家危機と認定しました。超法規を持って速やかに鎮圧せよとの指示です」
「……」

 もはや街の防衛は限界に近づいている。アンディックの判断もやむを得ない。近衛兵団の仕事は三種の神器じんぎを護衛するだけではないようだ。

「連中は何人来ているんだ?」

 ベルナールは外で待機している近衛の兵へ向かって顎をしゃくった。

「騎馬二十を含む五十名です。ことが済めば戦いに参加しますよ」
「そうか……」

 終りの見えなかった戦いに終りが見えた。

「この三つがそろったんだから楽勝でしょ。さっさと片付けましょう」

 セシリアは簡単に言うが、未だにゴーストの真意は不明のままだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...