『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

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第三章「街を守る男」

第九十四話「奇妙な戦局」

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 騎士団が抜けた穴を埋める為にベルナールとセシリアたち、デフロットとバスティのパーティーは奮戦する。この三組が中核となり新開口、レ・ミュローの戦線を支えた。

「おっさん、ちょっと開口の縁を覗いてくるぜ」
「止めておけ。死ぬぞ! 昨日の偵察ではA級が複数だ」
「そうするよ……」

 デフロットは素直にあきらめる。

「上に出て来ないなんて、なぜですかね?」
「中での魔物発生数が落ちてきているのだろう。上に押し出されて来ないんだ」
「なるほど……」

 それは正解でもあるが、バスティの疑問の方も正解である。魔物の本能は上と外とを目指すからだ。

 ベルナールは魔物を操っている存在を疑っていた。そしてそいつらは外を目指すよりも、まるでダンジョンを守ろうとしているようだ。

「そろそろ引き上げるか。皆、今日はよく戦ったな。バスティたちは東、デフロットたちは北側の冒険者たちをまとめて引き上げてくれ」
「了解です」
「分かった」

 バスティとデフロットのパーティーは、他の冒険者と共にそれぞれの方角へ飛んで行った。激戦の中で日々強く、したたかに育ちつつある若者たちである。

「じゃ、私たちはいつものね」
「ああ、悪いな」
「別にいいのよ。行きましょう」

 ベルナールとセシリアは開口へ向かって飛ぶ。落後らくごしている冒険者がいないかの確認と、定例の強行偵察だ。

「お店の経営者としては、早く終わらせて欲しいのよねー」
「簡単に言うなよ」

 飛行しつつ、二人は森と荒野の先を探査する。

「変な魔物たちよね。嫌な予感がするわ。三人でダンジョンに突入しましょうか?」
「むう――」

昔なら、ブラッドリーが加わっていた四人であれば、こんなモヤモヤは全て突っ込んで解消していた。しかし今はそれもままならない。

「騎士団から何人が加えても、と思ってたけど無理ねー。外の戦力も落とせないし……。あっと、お迎えね」

 セシリアはいつものように弓を引いて矢を弾き、それをベルナールが誘導する。二本三本と放たれ、射貫かれた魔物は落ちていく。

 開口の縁を横切り、追いすがる魔物を排除しながらベルナールたちは帰還の途についた。状況は昨日と同じである。


 エルワンに報告を済ませたベルナールが、レ・ミュロー対策本部の一階で待っているとアンディックが戻って来た。

 付き従うのはレディスと、赤の騎士レッドと呼ばれている面々だ。立場上、面倒くさいのであるが団長たるもの正装で街中を一人で歩き回ったりはしないのだ。

「おっ、ベル! 今日はB級中位を単独で倒したぞ!」

 隣の少年が手を左右に振った。シャングリラ開拓地でアルマと組んでいた若き騎士だ。

「嘘ですよ。共同でです。僕も手伝いました」
「なっ! ほとんど私が戦った。オーウェンは見ているだけで――」
「僕のアシストに気が付かないなんてな~」
「なに~っ!!」

 この二人は危機の最中であっても平常心? である。ベルナールはそう思って安心した。

「あなたたち、そこまでにしておきなさいな」

 レディスがやんわりとたしなめ、二人は素直に従う。

「ベル、作戦は成功ですよ」
「それは良かった」
「先にエルワンに報告してきます。皆は先に戻ってくれ。知っている街だ。気を使わなくていいよ」

 アンディックは護衛役でもある騎士たちに告げた。

「報告を終わらせたら解散してよろしい」
「了解です。ダレンスにもそのように伝えますわ」
「うん」

 レディスと四人の赤の騎士レッドたちは、騎士団長に敬礼をして踵を返した。


「ちょっと話があります。待っていてもらえますか?」
「もちろんだ」

 エルワンへの報告を済ませたアンディックが戻り、二人は一階の待機室に移動する。もう遅い時間なので他に人はいない。

 まだ残っていたレスティナが、厨房からやって来てお茶を入れてるくれる。

「ふふっ、また二人にこうやってお茶を注げるなんて。夢みたいよ」
「御無沙汰してます。まるで昔に戻ったみたいですねえ……」
「ではごゆっくり……」

 そう言って微笑み、レスティナは退出する。


「セシリアが気にしている。俺もそう思う。これは魔境大解放ダンジョン・クライシスではなくて閉鎖シャットダウンなんじゃないか?」
「どうやらそのようですね。これは新たな危機です。今までと――、王都の事例とも違うようです。私たちをダンジョンに侵入させないのが目的のようですね」
「どうすればいい?」
「しばし待ちます」
「なんだと?」
「敵は時間が有利に働くと考えています。しかしそれは間違いです」
「だが……」
「もうすぐあれ・・が届きます」
「あれ?」
「私たちが昔王都で使ったあれ・・です」

 アンディックは声を押し殺す。王都から持ち出すなど、軽々に口にできない存在だ。

「なんだと? しかしよく――」
「反対する貴族も多かったのですが、許可されたようですね……」
「ならば話は違う。強行突入も考えるか……」

   ◆

 男たちが話をしている最中、レスティナは厨房の片付けをしていた。店のスタッフは先に帰らせて、今は一人で台を布巾ふきんで拭う。

 そしてレスティナは思う――。

 アンディックは昔と同じく優しげで、王都暮らしでも変わっていない。そしてベルも相変わらずだと思った。

 一人足りないはブラッドリーで、あの人は昔から時々フラリと旅に出て、そして久しぶりに街に戻った時は店を訪ねてくれていた。時には二人を連れてくるかどちらか一人を伴い、街もこの店も変わらないな、などといつも同じことを言っていたものだ。

 その人も帰らないようになり、もうずいぶんな時がたった。そんなことを思う。

 皆、立場は変わった。変わらないのは昔から揺れ動く自分の気持ちだけだ。だから先代は私を次のマダムシャングリラに指名した。

 椅子に座ってお湯が沸いているポットを見た。そろそろお代わりを持って行くか、もう少し待つかと悩む。自分のことなど話してもいない男たちに奉仕するのが、昔からの私だと思ってため息をついた。それでもあの男たちは魅力的だ。
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