『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

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第三章「街を守る男」

第七十六話「久しぶりの宿敵」

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 朝のギルドでベルナールとセシールの二人は並び立っていた。

「で、今日は何をやるの?」
「そうだなあ……、やはりこれだろ?」

 ベルナールは掲示板から一枚の紙片を取り外す。

「え~っ、なんでまた――」
「冒険者の基本だよ。いいだろ?」
「まあ、ねえ……」

 選んだのはスライムの掃討――、ではなく駆除であった。

 今日は学校を終えたアレット、ロシェルと午後に待ち合せて武器屋に行く予定なので、軽いクエストを二人で選んでいたのだ。

「子供のころ以来よー。何年ぶりくらいかしら?」

ベルナールとセシールは連れだって郊外の農地へと向かった。


「ふーん、ここね……」

 浅い排水路にスライムが堆積して水がせき止められていた。

「こいつをどう片づける?」
「私なら矢の二、三連射ぐらいねえ。でもこれは剣でやるわ」
「魔法でやってみせろ」
「そうきたか……」

 セシールはしばし考える。弓使いアーチャーに魔法を使えと言っているのだから当然であった。

 ベルナールは意地悪をしている訳ではないが、どんな答えが出るかと見守る。

「ベルさんは出来るの?」

 そう言って悪戯いたずらっぽく笑う。出来ないと思っているのだ。なかなかの切り返しだが――。

「出来るさ」
「嘘っ? そうなの?」
「もちろんだ。やって見せるよ」

 ベルナールは空手からてで剣を持つように構えてから腕を振った。三、四ほどのスライムが弾けて水が流れ始める。

「凄いわ! ちょっ変だけど」

 確かに剣もないのに剣を持っているように振るなんて滑稽ではあった。それは分かっている。

「これでいつもと同じように魔撃が飛ぶんだ。やってみろ」
「うん、えーと……」

 セシールはベルナールの動作をまねようとする。

「いや、弓の方が良いよ」
「そうね」

 今度は左手で弓を持ち、矢を引き絞るようにする。そして放つ! 仕草をした。

 スライムを指す人差し指から魔撃が放たれ、こんどは二つほど吹き飛ばした。ベルナールの魔撃よりは弱いのだが遠距離を狙える力だ。

「驚いた――。こんなのでも魔法が使えるのね!」
「ああ、俺たちのいつもの動作を再現すれば簡単さ。だけど威力はこんなものだ。実戦では使えん」
「スライムには十分よ」

 セシールは再び魔力の矢を放ちスライムが破裂する。

「なんだか新鮮! 私も子供の頃は魔法を使ったりしてたのよ。でもお母さんが弓使いアーチャーだったし、憧れていたから……」
「こいつをアレットとロシェルに教えて欲しい。そっちのセンスはお前の方があるよ」
「分かったわ」
「アレットは純粋な剣士フェンサーで制御の力に長けている。魔法を覚えれば障壁も容易に操れる。ロシェルの魔力は大きいから支援だけではもったいないな」

 まだ子供の冒険者を決まった職種に縛るのは愚策だとベルナールは考えていた。セシールは気が付いていないようだが、セシリアが素質を見抜いて上手く誘導していたようだ。もちろんこんなことを本人には言えない。

「お母さんも出来るのかな?」
「ああ、セシリアは特別さ。本能だけでこんな力を発揮していた。強力なヤツをだ。あれこそ冒険者の特別種SSSだよ」
「そう……」

 セシリアはたとえ手持ちの矢が尽きても、気合いで光の矢を作り出してとことん魔物を追い詰めていたのだ。

「セシール。自分をあれ・・と比べてはいけないな。俺もそうだったよ……」

 かつてそう思っていたと、ベルナールは自分を戒めセシールを慰める。

「お前は弓使いアーチャーのままでいい。母親似だよ。ただしセシリアは膨大な魔力を制御しながら強くなっていった。お前は強力な制御に新たな魔力が呼び覚まされているようだ」
「私はまだ強くなれるの?」
「もちろんだ。俺もそうだったからな」
「うんっ」

 セシールの顔に笑顔が戻った。

「さて、スライム退治の続きだ。今度は本職の剣でやるか」
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