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第三章「街を守る男」

第七十五話「デフロットの見せ場」

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「ギャラリーが多いな。手出し無用、横取り無用だぜ。分かってるな?」
「苦戦しなければな」
「ふん……、見てろよ!」

 ベルナールたちはラ・ロッシュ開口入り口に集結した。

 本日の主役であるデフロットはいつもと同じで気合いが入っている。自分を鼓舞するようにベルナールにいつもの悪態をついた。

 他にバスティのパーティー、ギルドマスターのエルワン、レディスとアルマが見学に加わる。ゴースト三体を退けた豪華戦力であり、応援なら十分すぎるくらいだ。

「さあ、行きましょうか」

 エルワンの先導で一気に第六階層まで降りて、一行は最奥の巨大ホールへと向かった。


 封鎖バリケードの前では警備隊員たちが警戒している。隊長のマークスが手を上げた。

「おおっ、やっと来たか」
「どうだ、様子は?」
「今は静かだがな。さっさと倒しちまってくれ!」

 バリケードが外され、デフロットを先頭にパーティーがホール入り口へと向かう。

「なんだ、デフロットのパーティーだけでやるのか?」
「何だって何だよ! 悪いか?」
「いや、倒せるならばそれで良い。頼むぞっ!」
「ああ、任せてくれっ!」

 最初は不審がったマークスも慣れたもので、挑戦者の気分を上手に盛り上げる。

 続けてベルナールたちも中に入り、再びバリケードは閉じられた。マニュアル通りの仕事ぶりでベルナールは苦笑する。この戦力で敗退などはあり得ない。


 ホールの最奥に膝を抱えるように座る黒い巨人がいた。立派な巻き角はA級の証である。

 そのミタウロスはこちら脅威を感じてゆっくりと立ち上がった。眠りを妨げられ不機嫌そうに首を振ってから咆哮する。ビリビリと空気の振動が伝わって来る程だ。

 レディスが右手を差し出すとキラキラと輝く透明な障壁膜が展開する。

「私が皆様を完璧に御守りしますわ」
「凄い……」

 セシールはその強さを感じて溜息をつく。レディスがそう言うならば完璧なのだろう。


「よーし、行くぜっ!」

 デフロットは剣を抜いて一人で突っ込んだ。愚直にもいつもの戦法を崩さないようだ。そして雄叫びを上げる。

「おおおっ――! 来やがれっ!」

 飛び上がってお決まりの最初の一撃を加えるが、ミノタウロスは片手でそれを軽く防ぐ。魔力がぶつかり合う光の中、デフロットは体を捻って回転し腕を切り飛ばしにかかるが、その剣は防御機能を持つ毛皮にくい込みもしない。

「チッ!」

 ミノタウロスは丸太のような腕を振り回し、デフロットは剣と体裁きでそれを交わす。魔力を溜めつつ制御する時間を稼いだ。

「制御、制御だ……」

 そう呟きながら防御と次なる攻撃に集中した。いつもならば安易に魔力を放出する自分を戒める。

 引いた剣がいきなり炎を吹き出し、そして今回は一瞬で収束する。デフロットはその光の剣をミノタウロスの眉間に突き立てた。

「こなくそっ!」

 そのまま胴体まで切り下ろそうとするが、ミノタウロスは両手でデフロットをつかみにかかる。支援の障壁が張られるが、それごと動きを封じられた。

 障壁にヒビが入り、続いてミノタウロスは横殴りに拳で殴りつける。

「うおっ!」

 デフロットはそのまま空中を飛ばされホールの壁に激突した。猛然と突っ込むミノタウロスを寸前で交わし、仲間の魔法で引き戻されて脱出を果たしす。

 戦いは仕切り直しとなった。


「はあ……」

 緊迫のぶつかり合いは小休止となり、アルマは吐息をついて一呼吸する。

「なあ、ベル。冒険者は良いな?」
「そうか?」
「騎士団では、このように戦わせてもらえん!」
「なるほどね」

 人間同士の一騎打ちはしても、魔物には団として対処するのが騎士だ。冒険者もパーティー単位で戦うが、攻撃をデフロット一人に任せるこの戦法は独特である。

 睨み合いが終り再び戦が始まった。ミノタウロスが両拳を逆落としに放ち、デフロットは地上で器用に避ける。時には剣で受け、魔力が火花となって散った。

 ぶつかり合いは膠着に陥り、互いに次の手の内を探る時間が過ぎる。

 デフロットたちの魔力は徐々に消耗するが、ミノタウロスには巨大ホールの壁に張り付いている魔核が力を供給していた。長引けば長引くほど冒険者は不利なのだ。

 圧力をかけ続けるミノタウロス角が怪しく光り、再びの咆哮と共に口から魔力の噴流が吐き出された。それは空中に避けるデフロットを追って角度を変える。

 魔力の咆哮がベルナールたちを襲う。しかしレディスが新たに作り出した障壁が難なく防ぐ。

「もう一度やるぞっ!」

 今度は仲間たちの魔撃援護が加わる。それぞれが得意とする攻撃が連続してミノタウロスを襲い、一瞬の隙が出来た。デフロットはそれを見逃さない。

 再び光の剣の攻撃が、防御にまわったミノタウロスの腕に突き刺さり破裂させる。更にもう一撃が残った片方の腕を打ち砕いた。

「こいつで最後だっ!」

 防御力を消失したA級の魔物は深々と胸から腹にかけて切り裂かれた。デフロットは地上に降り立ち、ふらつきながら後退する。

 ミノタウロスの腹から魔核がこぼれ落ち巨体が崩れ落ちた。

「くわっ、やったぜ! どうだ、倒したぞ!」

 ギリギリで魔力切れを起こしたデフロットは、尻もちをついてから後ろを向いた。少々無様ではあるが見事な勝利である。

「やるなあ、あの剣一本に全ての力を集めるなんて……」
「その一人に意識を集中させておいて、仲間が攻撃してから最後の一撃なのね」

 バスティとアレクの場合は二人一対でこの仕事をこなしているのだ。


「私たちはそろそろ行きましょうか」
「うむ、良い戦が見れた」

 レディスとアルマはそう話してからベルナールに向き直る。

「では私たちは駐屯地に帰還いたします」
「ああ、もう一人の副団長によろしく言っといてくれ」

 ベルナールとしては、シャングリラ開拓地の安全を徹底して欲しいとのよろしく・・・・である。

「心得ておりますわ。色々とお世話になりました」
「デフロット、また共に戦おうぞ」
「おう、ダンジョンが恋しくなったら遊びに来な!」

 デフロットは立ち上がりながら右手を挙げ、パーティーの仲間が駆け寄る。

 ギルドマスターのエルワンに挨拶してレディスとアルマは地上に向かった。


 それからベルナールたちは個別のパーティーに分かれてクエストに勤しんだ。

 アレットは戦の余韻を引きずっているのか、少し攻撃に力が入りすぎている。ベルナールはその動きを目で追った。

「ふむ……」

 夕刻も近くなり、クエストを終えたパーティーが続々と地上を目指す。その中にベルナールたちもいた。外界に出て森の道を歩く。

「アレット、そろそろ剣を変えようか?」
「良いんですか?」
「もう物足りんだろう。もう少し重くて――長さは……」

 この娘の剣は重さよりも一撃の早さだと思うが、それにしても前に出たがるのは剣に負担を感じていないからであろう。どうすべきかベルナールは考えがまとまらない。

「ちょっと考えようか。色々選んで振ってみると良い。それから決めよう」
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