上 下
72 / 116
第二章「戦い続ける男」

第七十二話「別種の同部族」

しおりを挟む
 バスティとデフロットのパーティー、それとアルマは広範囲に広がった小物のゴースト掃討を続ける。

 ベルナールたちは未だ姿を残すヒュドラ、ドラゴン、サイプロクスの合体残骸を取り囲んだ。死して元の体、ヒュドラに戻りつつある。

「ゴーストは倒しました。しかし逃げられましたわ」

 レディスは唇を噛んで溶けゆくゴースト体を睨んでいる。恐ろしさを感じるほどの表情だ。

「ん?」
「本体は仕留められませんでした……」

 紛らわしい言い方ではあるが、その通りである。目の前に横たわっているのはただの抜け殻だ。

「仕方あるまい。これがゴーストだ。気にするなよ……」
「相手は逃げる気だったしこれで十分よ!」

 ベルナールとセシリアは落胆するレディスを慰めるように言った。その執念とも呼べる感情は、やはり出自なのだろう。

 一人が降下しつつ接近して来たので全員が空を見上げる。小柄な金髪が木々をぬってストンと地面に降り立つ。

「レディス。探知内にゴーストはもういない。本体はたぶん逃げた」
「そうですか……。作戦は終了といたしましょう」

 戻ったアルマの報告に、レディスは苦々しい表情のまま打ち切りを決める。

 くまなく探索すれば、とも思うが相手もバカではないだろう。気配を消して穴蔵に入られたら、もう他の魔物と区別がつかないのだ。

「先に帰還させていただきます。あまり目立ちたくないもので……」
「分かってる。後は任せてくれ」
「ベル! 先に帰らせてもらうぞ」

 アルマは戦の余韻を引きずっているのかまだ興奮が残っていた。思う存分戦ったのであろう。

「ああ」

 先にエルワンに報告してもらえればベルナールの手間も省けるというものだ。レディスとアルマの二人は控えめな高度で街に向かって飛んで行った。


 程なくしてバスティ、デフロットたちも合流し、その残骸を気味悪そうに眺める。

「おっさん、いや、王都から来たった奴がヤったのか?」
「さあなあ……」
「ちっ! だんまりかよ。まあいい、これが幽鬼ゴーストか! 俺が見たのはワイバーンだったがな」

 デフロットは溶け始めたヒュドラの周囲を歩いて観察する。

「おかしいな? 人の顔がどこにもないぜ……」
「こいつはA級下位のヒュドラ――、と言ったところかな?」
「それとワイバーン、サイプロクスは共にB級上位かしらね」
「うむ、エルワンにはそう報告するか」
「あん、何を言ってんだよ。こいつはゴーストなんだろ?」

 示し合わせたように話すベルナールとセシリアに、デフロットは反論する。

「いや、大型だがただ・・の魔物さ。俺たちはそれを討伐したんだ。幽鬼ゴーストなんていなかったのさ」
「俺の誤認だったって握りつぶすのかよ! そう言えば前も誤認で処理したんだよな? なんだか気に入らねえな!」
「そういきり立つな。王都の方針だ。文句があるならそちらに言え」
「ちっ……」
「それにこいつはゴーストだがゴースト特有の狂気はなかった。こいつらはゴースト崩れの連中、とも言えるな……」
「なんだかよく分からねえなあ……」
「ふふっ、それで良い。俺とて分からんよ」

 バスティもまた、それを観察しながら首を捻る。

「こいつら結局は街に近づかなかった。伝えられている幽鬼ゴースト伝説とは違う。新種なのかな?」
「そうね。殺人衝動があってこそのゴーストなのにね。今回は人殺しよりも優先する何かがあったのかしら?」

 アレクの疑問は示唆に富んでいる。確かに何かの目的があったはずなのだ。そしてゴーストたちはまだ生きている。

「さて、俺たちも帰るとするか」
「ええ、これで街も安全。お店にもお客さんが戻るわ」

 セシリアの戦う動機は第一に店である。デフロットたちとてギルドから十分な報酬が支払われる。中途半端な終り方だが戦果はそれぞれにあったのだ。

   ◆

 バスティとデフロットたちは報酬を受け取る為に、中央ギルドの一階の入り口に降りて行く。

 ベルナールとセシリアは屋上に降りてから三階の部屋を訪ねる。既にレディスたちの説明は終わっているようだ。

「御苦労様でした。話はレディスからだいたい聞きましたよ」

 エルワンは肩の荷が下りたのか上機嫌である。二人はソファーに座った。

「取り逃がしたんだ。そう喜んでばかりもいられないさ」
「あれほどのダメージならば元の魔物体に戻るのには数年はかかります。当面の脅威はさったと王都に報告いたしますわ」

 レディスの説明は、ベルナールにとっては初めて聞く話だった。それならば安心はできる。そして次の話題に移った。

「駐屯地は引き払うのか?」
「いえ、開拓はまだ終わっておりません。もうしばらく訓練は続けますわ」
「ふむ……」
「明日戻ります。この街の様子も見つつ、完全な安全を確認するまで訓練を続けるべきと意見具申いたしますわ」
「うむ、ギルドとしてもそのほうが安心するだろうさ」
「助かります。これで平穏が戻りました。北東の封鎖は解除して明日からは通常クエストとしますよ」

 エルワンはあくまでお気楽である。悩みの種が消えたのだから当然ではあるが――。

「まあ、いいか……」

 色々と引っ掛かりはあるが、明日はセシールと弟子とで北東に行くかとベルナールは考えた。


「王都ではなく駐屯地に帰るのか」
「はい、私もあちらに合流します」

 四人は連れだって街の石畳を歩いた。ベルナールとセシリアは有名人なのでどうしても注目を集めてしまう。

「この街の近くでも訓練はできるだろうに――。そうだ、意見具申してみよう!」
「無駄なことはおやめなさいな、アルマ」
「む~」

 森の中での野営より、この街のベッドが快適なのは当然である。アルマは無駄な提案を試み即否定されてしまった。

「明日はスイーツの探索もしようか?」

 アルマは別案件に切り替えて更に食い下がる。

「それくらいは良しとしましょうか。アルマも働きましたから」
「うむっ!」

 レディスは部下の人心掌握もそつなくこなすのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

処理中です...