上 下
70 / 116
第二章「戦い続ける男」

第七十話「対ワイバーン」

しおりを挟む
 空を鋭角に曲がりながら時には激突し、そして離れてはまたぶつかり合う。ワイバーンの爪とクチバシ、アルマの剣が空に魔力の火花を咲かせていた。

 両者が離れた一瞬、ワイバーンは大きく口を開けて魔力弾を連発するが、アルマはかざした左手で円錐形の障壁を作り出し軽々と弾いてみせる。

 魔法使いウィザードのアルマにとってはこちらの方が本職なのだ。

「はっはっはあ! 噂のゴーストは大したことないな!」

 そう大口を叩くが、アルマは自身よりこのワイバーンの方が強いと自覚している。ここが真昼の大空なので、有利に戦を進められているだけなのだ。

 暗い障害物の多い森の中で格闘戦に持ち込まれたらこうはいかない。見通しが悪い戦場は本当に苦手なアルマである。

 それにこのゴーストはらしい・・・戦い方をしない。こちらが子供なので甘く見ているとアルマは思っていたが。

《ガキの使いが……》

 アルマの頭にゴーストの魔力伝達が響く。ワイバーンが距離をとって大きく羽ばたくと、翼からいくつもの羽が千切れて黒い渦を巻いてから散った。

 これが使い魔との戦では見られない、ゴースト特有の技である。

「むっ!」

 レディスから予め教えられていた攻撃の一つだ。あの無数の一枚がそれぞれ意思を持つように攻撃してくると読む。

 すかさず剣を鞘に収めて両手を広げて四股を伸ばした。体内の魔力を探って操った。

《切り刻まれやがれやっ!》

 鋭利な短剣と化した大量の羽がアルマに迫る。この中の数本が障壁を通り抜けるような中和効果が施されているのだ。だから――!

「だからこうなのだっよ!」

 両手足から発せられた四つの光球が弧を描いてぶつかり合う。それは火球となり眼前で炎の渦を巻いた。

《ガッ、ガキがこんな技を? クソがーっ!》

 全ての羽が次々に吸い込まれて燃え尽きていく。炎の穴と呼ばれている複合魔法技だった。

「さあっ、引きずり込まれて燃え尽きろっ!」

 アルマの気合いで炎の塊は更に一段大きさを増す。

 既に放たれた羽の全ては消失していた。ワイバーンは必至に羽ばたきながら火球から離れようとする。もう一息でゴースト討伐の栄誉を授かれるとアルマはほくそ笑んだ。

「あっ!」

 しかしアルマの高度がガクリと下がり、火球は頼りなくしぼんでいく。一時的に魔力を失い、制御が甘かったとアルマは反省する。これほどの火球を作り出す必要はなかったのだ。

「くっ」
《死にやがれっ!》

 墜落しつつアルマは必死に今使える魔力を探り障壁を張る。そして空の先に、みるみるこちらに接近する魔力の点を見つけた。

「遅いぞっ!」

 それは仲間の支援を受けて、超高速で接近するバスティだった。

 そのまま攻撃態勢に入り、アルマを狙って降下を始めたワイバーンの側面に激突する。再びワイバーンは、今度はバスティとの空中戦を始めた。

 アルマの体に徐々に魔力が充填され始め自由落下が止まる。ワイバーンとの空中格闘はバスティの方が押され気味だった。アルマは場違いにも、自分との実力は伯仲しているのだとホッとする。やはり仲間の力がどれほどのものか気になってしまう。

 アルマの魔力が回復し、空中に留まりいくつかの障壁で守りの態勢に入る。まだ使える力は心許ない。すぐにでも加勢するか、次にどのような攻撃を仕掛けるべきかと考える。

「むっ!」

 突然に魔力の光線がワイバーンを直撃した。それは下から迫るジャバウォックらしき影の攻撃だった。

《なんだと~!?》

 ダメージを受けたワイバーンは障壁で防ぎ態勢を立て直す。しかしその攻撃は更に数段威力を増した。

《クソッタレがーーっ!》

 ワイバーンの黒い体が一瞬膨らんでから弾けた。ジャバウォックは体を構成する魔力の全てを攻撃に振り向け消滅する。

 二人掛かりで戦ったにもかかわらず仕留めたのは結局、レディスであった。

 弾けたゴーストの魔がいくつもの塊となって森に落ちていく。二人はその魔を掃討するが数が多すぎた。

「仲間は?」
「じきに来るよ。俺だけ先に送ってもらった」
「それは悪かったな」

 アルマは礼を言って剣を収める。眼下の森のどの辺りに目標が落ちたかと魔力で探った。

「いや。こいつは倒せたと言えるのか?」
「分からないな……。本体は逃げ延びたかもしれん」
「それにしても凄い魔法技じゃないか?」

 バスティは感心するように言う。アルマがあの・・炎の穴を実戦で使用したのは初めてだった。

「失敗した。レディスに怒られてしまう。ん? お客さんだ」
「ベルナールさんたちだな」

 アルマとバスティは、接近するいくつもの力を感じて空の先を見やった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

世界中にダンジョンが出来た。何故か俺の部屋にも出来た。

阿吽
ファンタジー
 クリスマスの夜……それは突然出現した。世界中あらゆる観光地に『扉』が現れる。それは荘厳で魅惑的で威圧的で……様々な恩恵を齎したそれは、かのファンタジー要素に欠かせない【ダンジョン】であった! ※カクヨムにて先行投稿中

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

処理中です...