『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ

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第二章「戦い続ける男」

第六十五話「魔境封印」

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 封印の朝、レディスとエルワンたちは魔導具の最終調整、試験と確認をしてから現われた。北ギルドで集合したベルナール、エルワン、それとレディス、アルマは連れだって街を抜ける。

「冒険者のやり方は理解していますが飛んで行きましょうか。今日は少し忙しいのです」

 魔境封印にさほど時間はかからない。レディスはすでに、次に目標を定めている。

「いいだろう……」

 レディスがそう判断したのなら問題ないと、ベルナールが言ったそばから浮き上がる。四人はラ・ロッシュへ向けて飛んだ。


 開口付近ではデフロットたち、バスティたちのパーティー、そしてセシールたち三人が待っていた。

「おせーよ。おっさんたち」
「年寄りは朝が遅いんだ。せかすなよ、暇人め……。バスティたちもどうしたんだ?」
「魔境封印は初めてなんですよ。王都ではすぐ下に行くつもりなので封印はしないので……」
「まったく、うらやましいもんだな!」

 デフロットは次々と下を目指したいと考えている。ムダ話もそこそこに一行は下層へと向かう。


 目的地に着くとそこにはマークスと数名の守備隊員がいた。

「御苦労様でした。これから封印を始めます」
「うむ、警備の仕事もここまでだな。せっかくだから我々も見学させてもらおうか」

 力を待っている冒険者が勝手に開口しないようにと、この小ホールは警備対象になっていた。ねぎらうエルワンに返してからマークスたちは場所を空ける。

「では……」

 レディスは背負っていたバッグを下ろして封印の魔導具を取り出す。場所を確認してから突起の部分を、魔力の力で岩にねじ込んだ。

 本体のほとんどが突き刺さり、表面に見えるのは金属のプレートと光る魔導核だけとなる。

 レディスが大ぶりの魔核をギルドマスターのエルワンに手渡した。解放のキーだ。受け取った後一瞬それを封印プレートに近づけると、隧道の小ホールは少しだけ小さく震えた。

「間違いありません。結構です。封印を確認いたしました」

 これで儀式は終わりだった。レディスが仕掛けた魔力がこの場所を守り、容易には開口出来なくなったのだ。

「次の下層を開かないのなら、しばらく出番はなしですね……」

 バスティは少し残念そうに言う。

「これからもっとやっかいなのを相手にせねばならんぞ」
「いやあ、王都から来た援軍がいるのなら、俺たちの仕事は追い込みか囮ですよ」
「……」

 その王都から来たバスティはあっさりと言い切る。事情をある程度知っているのだろう。

 援軍、レディスの力はそれほどのものなのか? ダンジョンの民には何か特別な魔力があるのだろうか、まさか自身もゴーストになって戦う訳でもあるまい。

「さて……、ギルドマスター。早速次の仕事にとりかかりますわ」
「よろしくお願いします。デフロットとバスティたちは本日夕刻にギルドで打ち合わせをしようか。特命のクエストを依頼するよ」
「いよいよかよ……」

 デフロットの言葉に他のメンバーたちは無言で頷く。ベルナール以外で接触した数少ない冒険者たちだ。

「それでこれから少し北東を見に行きたいのです……」

 レディスはそう言ってベルナールを伺う。まずは前哨偵察を、ということだ。

「分かった。付き合うよ」
「私はギルドで予定が……」

 エルワンの戦力はアテにしていないので、別段問題はない。

「大丈夫だ。様子を見るだけだしな」
「おっさん、俺たちも行こうか?」
「ただの偵察だ。お前たちの出番は明日だよ」

 ベルナールはデフロットの申し出を断る。レディスに人を増やすつもりはないようだ。偵察とは少数だから偵察になる。

「ちっ! じゃあ今日はダンジョンで肩慣らしといくか」
「そうしとけ」
「ベルさん、私たちのことは心配いしないで」
「悪かったな。今日も付き合えなくて」
「仕方ないわ」

 セシールは大人である。一方、アレットとロシェルは少々不満顔だ。

「このクエストが終わったらパーティーに復帰するから……」
「はいっ! お願いします」
「お願い~~」

「今日は一緒に戦いましょうか」
「良いと思うぞ」

 ステイニーの提案にベルナールも賛同する。共同で戦えば弟子たちの勉強にもなる。

 ベルナールたちは地上へと向かった。

「悪かったですわ」
「いや、ヤツらは若い冒険者にとって一番の脅威だ。排除は早い方が良いさ」

 気を使ったレディスにベルナールはそう返した。

   ◆

 ベルナールとレディス、アルマは北東へ向けて飛ぶ。

「会敵した場所を教えていただけますか?」
「もう少し右だな」

 レディスは軌道を修正してから意識して高空へと上がる。探査の力が強いなら、より高見から広範囲を索敵するのが強者というものだ。

「ふむ……」

 ここからでは、ベルナールは全く何も感じない。

「レディス! 高度を落とそう!」
「相手からの探知を受けますからそれは出来ません」

 アルマも焦れているようだ。冒険者にとっての探知範囲外は、目を塞がれているようなものなのだ。

「見えるのか?」
「いえ、今日は残滓を確認するだけです……」

 ベルナールはその意味が分からなかった。まあいいとアルマの不満顔を伺う。

「下りたいよなあ。どうだ? ベル!」
「俺は早く帰って一杯やりたいな」

 アルマに乗せられるベルナールではなかった。そう言って話をそらす。

「そうか! 私も連れてってくれるか?」

 しかしアルマは変化させた話に食らいついて来る。やれやれだ。

「子供は出入り禁止の場所だよ。いや、そうでもないかな。一緒に来るか?」

 セシリアも天才肌でアルマには似ているところがある。食事が主の店なのだから問題はないとベルナールは思った。

「レディスもどうかな? 元勇者が腕を振るっている店さ。庶民向けだがな」
「それは興味がありますわね」

 ベルナールとしてはこの二人を連れて行き、セシリアをゴースト討伐に引き込む作戦だと考える。

 呑気に飲みと食事の話をしながら、脅威を探しつつ三人は森の上空を行く。


「さて、今日はおしまいにしましょうか……」
「こんなんでいいのか?」
「ええ」

 ただ空を飛んでいるだけのままでレディスは終りを告げた。

「明日から、どうゴーストを追い込むつもりだ?」
「ちょっと考えてみますわ」

 作戦の主導は援軍を依頼した時点で、すでに王都に渡っているのだ。レディスはとぼけているふうではない。

「相手は間違いなく三体です。行動パターンもだいたい読めましたわ」
「うむ、これだけでよく分かるものだな……」

 援軍の力の片鱗へんりんであった。

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