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第二章「戦い続ける男」
第五十九話「ラ・ロッシュの街」
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四人は街から出てラ・ロッシュへの道を歩く。周囲は畑で、農業用水路には勢い良く流れていた。先には牧草地が広がっている。
一行は森の道に入る。
「この辺りの森に魔物は出るのですか?」
「ええ、出ますがダンジョンへの街道はいつも冒険者たちが行き来していますからね。すぐに討伐されるのですよ」
「なるほど……」
それが周囲の農地と街の安全を確保していた。レディスは左右の森を見る。
「確かに近くには小物しかいませんねえ……」
そして、さして集中するでもなく周囲を探索した。
「クエストならば、ここから西か東に広がる森ですね」
「あのお茶はどこで採れるのですか?」
「もっと北の森の深部ですね。日当たりが悪い場所のお茶が特に良いのですよ。ギルドで買い取っています。冒険者しか採れませんからね」
このように街の事情を知るのも監察官の仕事であった。エルワンは丁寧に説明をする。
下層を封印する力があるのなら魔導士か魔法使いになるが、レディスとアルマの二人は当然のように剣を下げていた。
ベルナールは一応確認する。
「二人の専門は何だ?」
「私は魔導士ですわ」
とレディスが言い。
「私は魔法使いだ!」
とはアルマだった。
「ふむ……」
双方にさしたる違いはない。前者は防御に効果的な魔力を発揮し、後者は攻撃的に魔力を使う。性格からしてこの二人の適性が窺えた。
両方得意な者は好みでどちらかを名乗る程度の違いだ。
「剣は使えるのか?」
「もちろんだ! 騎士ならば剣士以上に剣を使えねば騎士とは言えん!」
「うむ」
アルマは自信満々に答える。嘘ではないのだろう。魔力が得意であっても冒険者や騎士にとって、やはり剣は最後の武器だ。
セシールが弓使いのロシェルに剣を教えている理由と同じである。そして剣を持たないセシリアは特別である。
森が開けて、山の岩肌に大きく口を開けたラ・ロッシュ開口が見えた。
「おーーっ……」
アルマが感嘆の声を上げる。この景色は何度見ても良いとベルナールも思う。
「これがこの街のダンジョンか!」
「北の開口、ラ・ロッシュです。現在の攻略階層は五で、今は主にそこで戦っていますね」
そして左右に商店、レストラン、酒場、宿などが並ぶ通りを歩いた。
「ダンジョンの開口近くが、この賑わいとは驚きですわ」
「ええ、常時ダンジョンで戦う冒険者が集まり、鉱山として採掘が始まってから街が出来ました」
「王都のダンジョンはまだ森の中で、開口付近には軍が用意したテントと食事のサービスがあるくらいですわ」
レディスは王都の事情なども説明する。地方の街のギルドマスターは真剣な表情で拝聴していた。王都の最新情報は全てが有益だ。
アルマはここでもキョロキョロと周囲を見回す。
「さてメシにするか……」
時刻はもう昼だ。ベルナールはそう言ってエルワンをうながす。
「任せて下さい。ギルドで予約していますから」
「用意がいいな」
「ええ、まあ……」
これは王都から来た役人を接待するクエストでもある。街として気を使っているのだ。
さしずめエルワンは接待係で、ベルナールは護衛。報酬も出るし経費はギルド持ちで、悪い話ではない。
そして一番上等なレストランに入る。
窓際の席が予約されていて、ラ・ロッシュの景色が一望できた。店内は街の商人、ダンジョンの様子を見に来ている貴族などでそこそこの客入りだ。
ベルナールたちの恰好は冒険者なので、特に注目する者はいない。
エルワンが予約していたようで、注文をしないまま店のランチで今日のコースが運ばれる。
前菜は生野菜に塩気の強い生ハム、スープはポタージュ。魚料理は近くの湖で捕れる鱒のソテーにパン。ここのランチは肉料理がないとベルナールは知っていた。
甘味は薄く焼いた小麦粉の生地にたっぷりの蜂蜜、ドライフルーツが添えられている。そして、森で採れる例のお茶が運ばれた。
皆も空腹だったのか、特に会話もなく料理に舌鼓を打った。
「このような森の奥でこのような食事ができるのは、新鮮な驚きですわ」
レディスは少し顔を上気させて言った。アルマもしかりで、満足そうに口の両端をつり上げている。
訓練ではそれなりに飢えていたのだろう。接待は大成功だ。
「食材の調達もできるのですね?」
「ええ、この街に住んでいる冒険者もいますからね。彼らは空いた時間で狩りをして、食肉問屋に持ち込むのです。魚は養殖なんですよ」
「さきほども言いましたが、王都のダンジョンはまだ軍が設営した仮設キャンプがあるだけですわ」
「そのうちに商売になると、王都の商人たちも店を開きますよ」
「他にも開口が開くのではと、皆は不安に思っています。もっと北側に未確認開口部が出現して、森が広範囲に浸食されるのも心配です」
そこまで言って、レディスはお茶に口を付ける。
「なるほどな」
ベルナールにはこの若い監察官の考えが分かった。魔境大解放を経て王都もダンジョンの街となったのだ。
「それ故に、野戦の訓練ですわ」
「うん……」
全て理に叶っている動きだった。王都は新ダンジョンの開口部を拠点にして街の防備を固めたいのだ。
レディスは知的な表情で静かにティーカップを皿に置いた。
一行は森の道に入る。
「この辺りの森に魔物は出るのですか?」
「ええ、出ますがダンジョンへの街道はいつも冒険者たちが行き来していますからね。すぐに討伐されるのですよ」
「なるほど……」
それが周囲の農地と街の安全を確保していた。レディスは左右の森を見る。
「確かに近くには小物しかいませんねえ……」
そして、さして集中するでもなく周囲を探索した。
「クエストならば、ここから西か東に広がる森ですね」
「あのお茶はどこで採れるのですか?」
「もっと北の森の深部ですね。日当たりが悪い場所のお茶が特に良いのですよ。ギルドで買い取っています。冒険者しか採れませんからね」
このように街の事情を知るのも監察官の仕事であった。エルワンは丁寧に説明をする。
下層を封印する力があるのなら魔導士か魔法使いになるが、レディスとアルマの二人は当然のように剣を下げていた。
ベルナールは一応確認する。
「二人の専門は何だ?」
「私は魔導士ですわ」
とレディスが言い。
「私は魔法使いだ!」
とはアルマだった。
「ふむ……」
双方にさしたる違いはない。前者は防御に効果的な魔力を発揮し、後者は攻撃的に魔力を使う。性格からしてこの二人の適性が窺えた。
両方得意な者は好みでどちらかを名乗る程度の違いだ。
「剣は使えるのか?」
「もちろんだ! 騎士ならば剣士以上に剣を使えねば騎士とは言えん!」
「うむ」
アルマは自信満々に答える。嘘ではないのだろう。魔力が得意であっても冒険者や騎士にとって、やはり剣は最後の武器だ。
セシールが弓使いのロシェルに剣を教えている理由と同じである。そして剣を持たないセシリアは特別である。
森が開けて、山の岩肌に大きく口を開けたラ・ロッシュ開口が見えた。
「おーーっ……」
アルマが感嘆の声を上げる。この景色は何度見ても良いとベルナールも思う。
「これがこの街のダンジョンか!」
「北の開口、ラ・ロッシュです。現在の攻略階層は五で、今は主にそこで戦っていますね」
そして左右に商店、レストラン、酒場、宿などが並ぶ通りを歩いた。
「ダンジョンの開口近くが、この賑わいとは驚きですわ」
「ええ、常時ダンジョンで戦う冒険者が集まり、鉱山として採掘が始まってから街が出来ました」
「王都のダンジョンはまだ森の中で、開口付近には軍が用意したテントと食事のサービスがあるくらいですわ」
レディスは王都の事情なども説明する。地方の街のギルドマスターは真剣な表情で拝聴していた。王都の最新情報は全てが有益だ。
アルマはここでもキョロキョロと周囲を見回す。
「さてメシにするか……」
時刻はもう昼だ。ベルナールはそう言ってエルワンをうながす。
「任せて下さい。ギルドで予約していますから」
「用意がいいな」
「ええ、まあ……」
これは王都から来た役人を接待するクエストでもある。街として気を使っているのだ。
さしずめエルワンは接待係で、ベルナールは護衛。報酬も出るし経費はギルド持ちで、悪い話ではない。
そして一番上等なレストランに入る。
窓際の席が予約されていて、ラ・ロッシュの景色が一望できた。店内は街の商人、ダンジョンの様子を見に来ている貴族などでそこそこの客入りだ。
ベルナールたちの恰好は冒険者なので、特に注目する者はいない。
エルワンが予約していたようで、注文をしないまま店のランチで今日のコースが運ばれる。
前菜は生野菜に塩気の強い生ハム、スープはポタージュ。魚料理は近くの湖で捕れる鱒のソテーにパン。ここのランチは肉料理がないとベルナールは知っていた。
甘味は薄く焼いた小麦粉の生地にたっぷりの蜂蜜、ドライフルーツが添えられている。そして、森で採れる例のお茶が運ばれた。
皆も空腹だったのか、特に会話もなく料理に舌鼓を打った。
「このような森の奥でこのような食事ができるのは、新鮮な驚きですわ」
レディスは少し顔を上気させて言った。アルマもしかりで、満足そうに口の両端をつり上げている。
訓練ではそれなりに飢えていたのだろう。接待は大成功だ。
「食材の調達もできるのですね?」
「ええ、この街に住んでいる冒険者もいますからね。彼らは空いた時間で狩りをして、食肉問屋に持ち込むのです。魚は養殖なんですよ」
「さきほども言いましたが、王都のダンジョンはまだ軍が設営した仮設キャンプがあるだけですわ」
「そのうちに商売になると、王都の商人たちも店を開きますよ」
「他にも開口が開くのではと、皆は不安に思っています。もっと北側に未確認開口部が出現して、森が広範囲に浸食されるのも心配です」
そこまで言って、レディスはお茶に口を付ける。
「なるほどな」
ベルナールにはこの若い監察官の考えが分かった。魔境大解放を経て王都もダンジョンの街となったのだ。
「それ故に、野戦の訓練ですわ」
「うん……」
全て理に叶っている動きだった。王都は新ダンジョンの開口部を拠点にして街の防備を固めたいのだ。
レディスは知的な表情で静かにティーカップを皿に置いた。
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