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第二章「戦い続ける男」
第五十八話「復帰の可能性」
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ベルナール、エルワン、そしてレディスとアルマは、マントを羽織って中央ギルドから街に出た。王都から来た二人が、この街を見たいと言ったからだ。
その意気たるや大いにけっこうだとベルナールは感心する。それに飛ぶならば、ベルナールは誰かのアシストが必要だ。
「私は王都以外の街は初めてなのだよ」
「ほ~……」
そう言ってアルマはキョロキョロと周囲を見回す。ベルナールは相槌を打った。貴族様ならば、さもありなん――だ。
「せっかくだ、仲間も呼んで観光でもしたらどうだ? 旨いもんでも食ってベッドで寝る。気が向いたらダンジョンで戦う――」
「うっ……」
アルマは一瞬、想像したような表情になる。あの森の開拓地ならば、テント暮らしで野戦食がもう何日も続いているだろう。
軍は意地悪なのであえてまずい食事を出したり、量を少なくして兵に空腹を体験させたりもするのだ。これもまた訓練だった。
「それじゃあ、ここの冒険者と同じか。騎士様向きではないな」
「くう~っ」
反撃とばかりにアルマはベルナールを睨んだ。しかしそれは恨めしそうでもあり、ベルナールは笑いを噛み殺す。なにやら、すっかりこの少女をからかってばかりだった。
「いや、私とレディスはこの仕事の間はそのように暮らせるがな。敵も悪くない……」
そう言ってアルマは立ち直る。幽鬼相手で危険が伴うクエストだが、特に臆している様子はない。貴族の使命に燃えている鏡のような少女だった。
「ダンジョンの街にはスイーツ店もあるぞ!」
「なんとっ!」
アルマの顔がパッと明るくなる。今一番必要としている補給物資なのだろう。
「あの野戦の訓練はいつまでやるんだ?」
「分からない。答えることも出来ん」
「そりゃ、そうだ」
それは軍の機密だった。終りの見える戦いなどはないので、期限を切らないのもまた訓練だ。
四人は中央の区画を抜けて北地区に入る。
「ここが、私が預かる北のギルドです。今回の案件はこちらの管轄になります」
前を通りかかり、エルワンはガイドのごときに説明した。
「冒険者は街全体でどれ程いるのですか?」
「そうですね。この街全体で登録冒険者の人数は三百程に――あっ!」
「どうした?」
エルワンはレディスの質問に答えるも、突然に声を上げたのでベルナールは問いただした。
「いえ、三百は通告前の人数でして……」
「なんだよ……」
それかよ、と思い舌打ちしたい気分になった。また話がそちらの方向にいってしまうからだ。
「何?!」
隣を歩いているアルマの目がキラリと光った。恐るべき嗅覚だ。そして疑問を投げ掛ける。
「通告前? 通告後は?」
「およそ、二百ほどに……」
何かを予感したエルワンは消え入るような声で答えた。
「その話は聞いたことがあるな! 役立たずの冒険者をまとめて追放したのだろ? そうかそうか。素晴らしい政策ではないか!」
「いえ、追放ではなくて、引退勧告なのですが……」
ベルナールを見ながらニヤニヤ話すアルマの言葉を、エルワンは訂正するが実質の違いはたいしてない。
「ところで勇者ベルナール殿はどうだったのかな?」
「くっ!」
今度はベルナールが歯ぎしりする番だった。
「引退したよ……」
「はっはっは! 御苦労だったな。今日はヘルプか?」
「くくっ……」
「アルマ、おやめなさいな」
楽しそうに成り行きを見ていたレディスからやっと助け船が入った。
「そもそも王都はなぜこんな通達を出したのですかね?」
そして、この際だとエルワンは質問をぶつける。
「さあ? 存じませんわ。この件に軍は関係ないので」
「そうですか……」
知らないと簡単に言われエルワンは落胆するが、レディスは話を続ける。
「ただ噂ならば聞いたことはあります。それでよろしければ……」
「結構です。ぜひっ!」
「それほど難しい話ではありませんわ。王都は全国の現役冒険者、実際に戦っている者の人数を把握したかったのです」
「う~ん……」
とベルナールは唸った。冒険者にとってギルドへの引退届は任意である。クエスト中も含めて死亡届は街からギルドに連絡が来る。
クエストを受注しない。もしくは受注しても自身で戦わない冒険者は、総数から外したかったのだろう。
「俺は本物の現役冒険者だったのだがなあ……」
とベルナールはボヤく。これでは、とばっちりもいいところだ。
「その辺りは王都も懸念しておりますわ。近々救済措置がとられる――、これも噂ですが」
「おーー、それはどのような?」
「同じギルド内でAクラス以上の冒険者、三名の推薦があれば現役に復帰できる、などです」
「それは……」
小さな歓声を上げたエルワンだったが、すぐに落胆した。その条件はなかなか厳しいのだ。
この街にはAクラス以上の冒険者など、どれほどいるのかとベルナールは頭を巡らせる。
「セシリアはまだ現役だったな」
「ええ、これで一人です。しかし……」
ベテランにはAクラスが何人かいたが、今は全て引退組となっていた。
「ああ、無理だな」
「まだ噂ですわ」
王都から来た二人との、噂話は尽きない。
その意気たるや大いにけっこうだとベルナールは感心する。それに飛ぶならば、ベルナールは誰かのアシストが必要だ。
「私は王都以外の街は初めてなのだよ」
「ほ~……」
そう言ってアルマはキョロキョロと周囲を見回す。ベルナールは相槌を打った。貴族様ならば、さもありなん――だ。
「せっかくだ、仲間も呼んで観光でもしたらどうだ? 旨いもんでも食ってベッドで寝る。気が向いたらダンジョンで戦う――」
「うっ……」
アルマは一瞬、想像したような表情になる。あの森の開拓地ならば、テント暮らしで野戦食がもう何日も続いているだろう。
軍は意地悪なのであえてまずい食事を出したり、量を少なくして兵に空腹を体験させたりもするのだ。これもまた訓練だった。
「それじゃあ、ここの冒険者と同じか。騎士様向きではないな」
「くう~っ」
反撃とばかりにアルマはベルナールを睨んだ。しかしそれは恨めしそうでもあり、ベルナールは笑いを噛み殺す。なにやら、すっかりこの少女をからかってばかりだった。
「いや、私とレディスはこの仕事の間はそのように暮らせるがな。敵も悪くない……」
そう言ってアルマは立ち直る。幽鬼相手で危険が伴うクエストだが、特に臆している様子はない。貴族の使命に燃えている鏡のような少女だった。
「ダンジョンの街にはスイーツ店もあるぞ!」
「なんとっ!」
アルマの顔がパッと明るくなる。今一番必要としている補給物資なのだろう。
「あの野戦の訓練はいつまでやるんだ?」
「分からない。答えることも出来ん」
「そりゃ、そうだ」
それは軍の機密だった。終りの見える戦いなどはないので、期限を切らないのもまた訓練だ。
四人は中央の区画を抜けて北地区に入る。
「ここが、私が預かる北のギルドです。今回の案件はこちらの管轄になります」
前を通りかかり、エルワンはガイドのごときに説明した。
「冒険者は街全体でどれ程いるのですか?」
「そうですね。この街全体で登録冒険者の人数は三百程に――あっ!」
「どうした?」
エルワンはレディスの質問に答えるも、突然に声を上げたのでベルナールは問いただした。
「いえ、三百は通告前の人数でして……」
「なんだよ……」
それかよ、と思い舌打ちしたい気分になった。また話がそちらの方向にいってしまうからだ。
「何?!」
隣を歩いているアルマの目がキラリと光った。恐るべき嗅覚だ。そして疑問を投げ掛ける。
「通告前? 通告後は?」
「およそ、二百ほどに……」
何かを予感したエルワンは消え入るような声で答えた。
「その話は聞いたことがあるな! 役立たずの冒険者をまとめて追放したのだろ? そうかそうか。素晴らしい政策ではないか!」
「いえ、追放ではなくて、引退勧告なのですが……」
ベルナールを見ながらニヤニヤ話すアルマの言葉を、エルワンは訂正するが実質の違いはたいしてない。
「ところで勇者ベルナール殿はどうだったのかな?」
「くっ!」
今度はベルナールが歯ぎしりする番だった。
「引退したよ……」
「はっはっは! 御苦労だったな。今日はヘルプか?」
「くくっ……」
「アルマ、おやめなさいな」
楽しそうに成り行きを見ていたレディスからやっと助け船が入った。
「そもそも王都はなぜこんな通達を出したのですかね?」
そして、この際だとエルワンは質問をぶつける。
「さあ? 存じませんわ。この件に軍は関係ないので」
「そうですか……」
知らないと簡単に言われエルワンは落胆するが、レディスは話を続ける。
「ただ噂ならば聞いたことはあります。それでよろしければ……」
「結構です。ぜひっ!」
「それほど難しい話ではありませんわ。王都は全国の現役冒険者、実際に戦っている者の人数を把握したかったのです」
「う~ん……」
とベルナールは唸った。冒険者にとってギルドへの引退届は任意である。クエスト中も含めて死亡届は街からギルドに連絡が来る。
クエストを受注しない。もしくは受注しても自身で戦わない冒険者は、総数から外したかったのだろう。
「俺は本物の現役冒険者だったのだがなあ……」
とベルナールはボヤく。これでは、とばっちりもいいところだ。
「その辺りは王都も懸念しておりますわ。近々救済措置がとられる――、これも噂ですが」
「おーー、それはどのような?」
「同じギルド内でAクラス以上の冒険者、三名の推薦があれば現役に復帰できる、などです」
「それは……」
小さな歓声を上げたエルワンだったが、すぐに落胆した。その条件はなかなか厳しいのだ。
この街にはAクラス以上の冒険者など、どれほどいるのかとベルナールは頭を巡らせる。
「セシリアはまだ現役だったな」
「ええ、これで一人です。しかし……」
ベテランにはAクラスが何人かいたが、今は全て引退組となっていた。
「ああ、無理だな」
「まだ噂ですわ」
王都から来た二人との、噂話は尽きない。
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