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第二章「戦い続ける男」

第四十八話「成長する者たち」

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 ベルナールたち一行はダンジョン、ラ・ロッシュの門を潜る。ベルナール不在の間、セシールたちはダンジョンと森とを交互に戦っていたそうだ。

 入り口にマークスの姿は見えない。下で警備をしているのだろう。

 下層へと向かいながら、ベルナールはふと思い出す。

「少し寄り道していこう」

 四人は第四階層で以前ロシェルが主張した、新空間があるという場所に立つ。

「どうだ? まだあると感じるか?」

 ロシェルは岩肌をじっと睨んだ。一応、真剣に探るつもりのようだ。

「あるよ~」
「そうか……」

 確かに何かを感じる力が、ロシェルにはあるようだ。ベルナールはこの力で新階層への開口部を探査しようと考えた。

「それと同じ感じで、第六階層から下への入り口を探してみようか」
「はい~」

 それらしき場所を見つけている程度の話でも、王都の監察官に対するエルワン体面は保てるだろう。多少ではあるがな、と思いベルナールは苦笑した。

 第六階層に下りるとマークスたち守備隊がいた。

「どうだ?」
「久しぶりだな。たいした獲物は出ないさ。最初は大繁盛だったが今は落ち着いてきたな」

 守備隊長は部下二名と退屈そうにしていた。どこかで対処ができない魔物などが出現した場合、避難誘導などを行う為だ。

「俺は少し話していくが、構わないか?」
「いいわよ、私たちで大丈夫なんだから。行きましょう」

 セシールはそう言ってアレット、ロシェルを引き連れて先へと進む。そしてベルナールは暇そうにしていたマークスに話しかける。

「今日は、たいした魔物は出てないのか?」
「ああ、巨大ホールも沈黙したままだ。今日も二人で監視させているが静かなものさ……」

 新階層における魔物の出現には波がある。この状態がずっと続く訳ではない。各階層か開口された時の話などしながら、互いの予測意見を交換する。

「そのうちに賑やかになるさ。今は未確認開口部ロスト・マウスから飛び出した獲物が多いみたいだ。若い連中もそっちに行ってるみたいだぜ」
「そうか……」

 とは言え弟子たちの訓練には、この程度の静かさが丁度よい。

「ちょっと巨大ホールを見てくるよ」

 ベルナールはマークスと分かれて、弟子たちとは反対の方向へと向かった。

 途中の支道では数組のパーティーが戦いの気配を放っている。それなりには魔物は出ているようだ。

 巨大ホール前のバリケードでは、二人の守備隊員が暇そうにしている。

「中を見せてもらうぞ!」
「はっ、はい!」

 最近の活躍で、もうベルナールの顔を知らない者は守備隊員にはいない。若い隊員がバリケードをどかす。

「ふむ……」

 中は静まり返りジャバウォックとの戦いが嘘のようだった。気配を探るが魔物出現の兆候は感じない。

「こんなものか……」

 ベルナールは、このホールに満ちている魔力が少ないと感じた。

「大物が出るのはまだ先かな……」

 何度も各階層のホールで戦ってきたベルナールは、経験でそう呟いた。そして来た道を引き返す。

 弟子たちが向かった回廊を進むと、ベルナールは支道にセシールたちの気配を感じた。どうやら戦っているようなので先を急ぐ。


「やってるな」

 敵はアラクネーだった。いつ見てもこの姿は気味が悪い。この程度の相手ならベルナールの助力は必要ないだろう。

 セシールとロシェルは、黒い蜘蛛の下半身に次々矢を打ち込み足止めする。そしてアレットは上半身に剣を振って魔撃を加えた。

「行くわよっ!」
「はいっ!」

 セシールの叫びにアレットが飛び退くと、ロシェルの放った矢がアラクネーの上半身頭部に命中。続いてセシールの矢は胴体に命中した。これが致命傷になる。

「うん……」

 弱点は魔核のある胴体だが、ロシェルには的の小さい頭部を狙わせたのだ。

 そして同時に当たるタイミングを計りながら、セシールはあえて・・・時間差をつけ矢を打ち込んだ。訓練を主眼においての戦い方だった。

「やるじゃないか!」
「あっ、ベルさん。来たの」

 アレットとロシェルが魔核を回収する。セシールはベルナールに歩み寄った。

「どうかな?」
「お前さんは教師にでもなった方が良かったよ」

 自分がいない方が弟子は成長するのかもと、ベルナールは思い少しさみしく感じた。

「あの二人は教え甲斐があるわ」
「うむ」
「それと例の話。ロシェルがそれらしい場所を見つけたの」
「それは凄い」
「行きましょう」

 戻ったアレットが魔核をベルナールとセシールに見せる。

「ちょっと強めのアラクネーだったから、大きめね」
「うむ、アレットの剣技も一段と研ぎすまされたな。今度は技を教えよう」
「はいっ!」

 四人は問題の場所へと移動する。ベルナールが初めて入った小さなホールで、ロシェルは壁を指差す。

「ここ~」
「うむ、でかしたぞ! 報告しよう。ギルドマスターに喜ばれるな」
「はい~」


 回廊に出ると敵の気配がし、奥の支道から魔物が現われる。C級オーガの登場だ。

「これは俺が一人でやるよ」

 ベルナールも少しは働かねばならない。一人、前に出て剣を抜く。
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