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第二章「戦い続ける男」

第四十五話「貴族たちの戦い」

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 バスティたちのパーティーは自主的に北方の探索を行っていた。それは単純に興味本位でもあり、運良く未確認開口部ロスト・マウスでも発見できれば、との欲もあった。しかし――。

「それらしき洞窟や地面の亀裂も見つからないなんてなあ……」
「この地は既に探索済みだと――。この地域で三カ所の大開口が発見された時に徹底的に周囲も調べたと聞いていますわ」

 バスティのぼやきにリュリュは真面目に説明をする。そう簡単に未確認ロストが見つかれば苦労はしないのだ。

「うん……」

 見晴らしのよい山の空き地でバスティは力なく返事をした。

「でも魔物もいないなんてね……」

 アレクは景色を見ながら、少しつまらなそうに言う。

 バスティも強力な魔物が出現し、やむなく撤退したなどの、街への土産話を少しは期待していた。

「引き上げるか」
「ええ……」

 もう陽は傾き掛かっている。そんなに獲物がいるのなら、冒険者たちはこの地へ押し寄せてくるだろう。

 南西へと戻り小川の河原、野営地に帰る。ここに毛布と天幕を持ち込み、三泊四日の行程でこの遠足を楽しんでいたのだ。

「なかなか楽しい遠出だったね。またやりましょー」
「でも収穫なしですわ。私は何かしらの出会いがあると期待していました」

 具体的な収穫はなかったが、イヴェットとリュリュ共にこの冒険を肯定的にとらえてくれていた。

「これじゃあ王都から来ている部隊は、未確認開口部ロスト・マウスなんて見つけていないだろうなあ……」

 バスティは中くらいの鍋を持ち川の水をすくう。アレクたちは昨日集めていた薪で火をおこしつつ食材を用意する。夕食の準備だ。

 湯が沸いたら大量の乾燥野菜と、塩気のきついベーコンをナイフで切って入れる。簡単なスープだ。これに長期保存が可能なカチカチの堅いパン。

 そろそろこの食事の連続にも飽きてきたな、とバスティは思った。

   ◆

 翌日、四人は野営地をたたんで南へと、サン・サヴァンへの帰途につく。

 寄り道するため南西へと跳躍した。体の周辺に張った薄い障壁で風をつかみ。四人で大空を滑空する。

「前方に人間の魔力反応が二です。彼らですね」
「ああ、間違いないだろう」

 リュリュが見つけた彼らは、ペアで活動するとバスティは聞いていた。それにこんな所まで遠出してくる街の冒険者はバスティたちぐらいだろう。

「魔物の反応、周囲にはなしです」

 そして獲物もいない。今日の訓練――仕事は暇なようだ。

「誰かな? 久しぶりだなあ……」

 バスティたちはそちらに向かう。二人は小高い丘の上で、待つようにこちらを見上げていた。

「いよーっ! バスティ殿。元気か?」

 いつもの口癖だった。その男は戦乱続く王都で、ダンジョンでの戦いが終わった後、酒場でよく杯を酌み交わした相手だった。

 そして傍らに少女が一人。

 男はランディー、魔導闘士ソーサエーターの二十歳だ。少女はアンジェ、十八歳の剣士フェンサーだった。

「来てたんだ」
「ああ、指揮官殿の指示さ。まあ、お守りみたいなモンだな――」

 王都にしても新ダンジョン攻略が進んでいる。ランディーのような力を持つ騎士を、あえて引き抜いてこの地に連れて来ているのだ。

「――若い奴らばかりさ。訓練なんだからな。二十四人だそうだ。全員そったよ」
「二十四か……」

 軍で言えば小隊単位で冒険者ならば四人編成で六パーティーとなる。それなりの戦力だった。

「二人で行動しているの?」
「ああ、北側はな。南は開拓地があって、そちらに魔物が逃げないように四人編成になったよ。包囲しきれなくてなあ」
「うん、冒険者パーティーも普通は四人以上だしね」

 アレクたちもアンジェとの再会を喜び合い、女子話に花を咲かせる。

「南の開拓地で赤の騎士レッドが、S級キラーを使うベテラン冒険者と遭遇したそうだ――」

 ランディーは笑いを噛み殺しながら言う。

「勇者ベルナールだよ! 間違いない」
「――お前さん憧れの人だろ? それがアルマのヤツがやり込められたみたいで、プリプリしながら文句を言うんだよ。良い薬、勉強になったって副団長は笑ってるけどな」
「あははは」

 王都のダンジョンでの戦いで、力はあるのだがまだ少女なので、アルマは冒険者たちにからかわれていた――いや、可愛がられていた。

 だから異常に冒険者に対して、悪い意味ではないライバル心を持っている。

 バスティ、アレクともにアルマには面識があった。王都の某高級貴族で御令嬢のアルマは、態度は尊大だが決して悪い人間ではない。

 立場、出自がそうさせるのだし、まだ子供なのだから仕方ないと周囲の人間は見ていた。

「アルマはしょうがないよ」

 ランディーは平民出身で青の騎士ブルー、青の一号でアンジェは青の三号だ。アルマたちは貴族出身者ばかりとなる赤の騎士レッドに所属している。

 だからと言って貴族出身と、平民出身者の関係が悪いわけではない。

「バスティも早く騎士団に入ってくれよ」
「いや……」

 王都の有力貴族、オッフェンバック家の三男、オッフェンバック・バスティアン。そして西の雄と呼ばれている名門ベルトワーズ家の三令嬢、ベルトワーズ・アレクシア。

 この二人なら申請すればすぐに入団が認められ、赤の騎士レッド所属となる。

 しかしイヴェットとリュリュは平民だ。バスティはこの四人でいつまでも戦いたいと思っていた。

「俺はこのパーティーが好きなんだ。それに冒険者にも――」
「子供の頃からの憧れだったんだよな。人それぞれさ」

 ランディーは戦えるならば立場は選ばないのが持論だ。貴族なのにあえて・・・冒険者をやっているバスティに常々呆れていた。

 しかしバスティは幼少期に植え付けられた強烈な記憶。王都を守って戦った英雄、冒険者たちへの憧れを、どうしても捨てられないでいたのだ。

 いや、捨てる気などはさらさらなかった。
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