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第二章「戦い続ける男」
第四十二話「王都の部隊」
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「チッ! またか!」
王立軍第十三独立騎士小隊、副団長のダレンスは舌打ちする。
数日追い回している魔物が安全地帯、この街の領地へ逃げようとしているのだ。まただった。
森の中を駆ける魔物を、ダレンスたち三人が上空を低く飛び追う。騎士などと言え、その姿は冒険者そのものである。
これは村人や冒険者に目撃される場合を想定しての措置だ。訓練なので問題はない。
「くそ~っ……」
ダンジョンなら逃げ道はないのにと、ダレンスは歯ぎしりする。森での戦いは勝手が違う。それはいつも地下の空間ばかりで戦っている、この小隊の弱点だ。
「アルマ! 鼻先に魔力弾を叩き込めっ!」
三人の中では先行している魔法使いの少女が、逃げるA級手前のグレンデルに魔力の塊を放った。
走る巨人はそれを察して器用に方向を変え、障壁が塊を弾く。
特に足の速い種だった。そしてその防御力で三日に渡るダレンスたちの追跡を逃れていたのだ。
「オーウェン! 足を止めろっ!」
剣士の少年が降下、地上を滑るように移動し剣で魔撃を飛ばす。果敢に接近し二度三度と攻撃するが、グレンデルはたいして気にもしない。魔力障壁を足に展開しているのだ。
二人とも上手くやっている。これはダレンスの作戦ミスだった。
「追跡は一時中止だ。停止して側面に距離をとれ!」
この魔物は追わなければ逃れようとはしない。もう森の先はどこかの領地、開拓地だった。
「二人共集合せよ……」
声など届かない距離ではあるが、魔力の伝達が二人を呼び寄せた。
「オーウェン! あんた剣で攻撃しているのに、足止めも出来ないのかい?」
そう言う少女、アルマは赤の騎士と呼ばれる騎士団に所属している。その中で三番手の力を持つ、赤の三号と呼ばれる実力者だ。
「アルマの魔力弾も外れたじゃないか!」
そう反論する少年、オーウェンは赤の五号と呼ばれている。
「あいつの障壁で弾かれたんだよ。あんな魔物に後れを取るなんて!」
アルマは唇を噛んだ。ダンジョンの中では疾走する相手などは狙わない。
「あんたが足止め出来ないから……」
「僕のせいばかりにしないでって!」
それにあのグレンデルはなかなか老獪だった。この街の冒険者に狙われながら、A級手前まで成長したのだ。
「副団長、どうすれば……」
オーウェンは自信のない顔を見せる。答えを出すのは簡単だった。
「撤退だな」
「まっ、またですか? もう何度目の撤退ですか? 副団長やりましょう。ここで逃せば私はもう騎士なんて名乗れませんよっ!」
アルマはあくまでも強硬論を唱えた。さてと、とダレンスは考える。これは訓練だ。力はあるがまだまだ若輩の二人を鍛えるのが目的なのだ。
「騎士じゃないって! 冒険者として戦うのが僕たちの目的だよ。だからこんな格好もしてるんじゃ――」
「だからって中身も騎士を捨てるのかい?」
アルマは襟首をつかんで迫る。しかしオーウェンは冷静だ。
「よせって、熱くなるなよ。相手はA級手前とは言え、たかがBのグレンデルだよ?」
そして、そう言って手を払い除ける。
「冒険者風情になめられてたまるかってんだいっ!」
「そんな話じゃないよ。アルマが冒険者に反発するのは知ってるけど……」
「騎士として戦ってこその騎士でしょう――」
「よせ、アルマ! オーウェン。作戦はあるか?」
この二人に話させていてもラチがあかないとばかりに、ダレンスは軌道修正する。
「やるならば時間をおいてから、僕とアルマで徒歩移動して開拓地側を押さえましょう。副団長には奥にいてもらい、グレンデルの牽制です」
「歩いてやつの先回りをするのかい? 面倒くさいねえ! 力を使い果たしても全力で――」
「それは作戦とは言わないの。それをやってここまで長引いているんじゃないか……」
「フンッ!」
呆れるオーウェンにアルマはそっぽを向く。こんな二人だが戦いになれば意外に息が合うのだから不思議だ。戦いとは面白い。
ここの駐屯地に連れてきた騎士たちの年齢は、十五から二十歳までだ。アルマはまだ十五でオーウェンが十六歳だった。
お守り役、騎士副団長のダレンスは三十歳だ。
「よーしっ、私は後方に下がるから、お前たちは前に出ろ。戦いのタイミングは任せるからな」
「「はっ!」」
グレンデルは沈黙して動かない。こちらの様子を伺っているのだ。
しばしの時間がたち、前方から戦闘開始の合図が響いた。魔力の破裂音が断続的に鳴る。
ダレンスは木の上へと跳び上がる。アルマが上空から魔法攻撃を加えていた。木々の間からオーウェンが魔撃を炸裂させている光が見える。
二人掛かりでもこの魔物は止められない。アルマは空中をじりじりと後退した。
突然グレンデルの上半身が木の上に出る。跳躍したのだ。
そして振りかぶった。最大の武器、鉄拳がアルマに襲いかかる。そしてダレンスは感じた。
「まずいっ!」
自身で障壁を展開し、アルマはからくも攻撃をしのぐが吹き飛ばされる。そして頭部に斬りかかったオーウェンも左の拳に弾かれた。
前方で巨大、いや、鋭い魔力が研ぎ澄まされているのを、ダレンスは感じたのだ。
「二人共、避けるんだ! 散開せよっ!」
アルマ、オーウェンも感じたようだ。衝撃で飛ばされながらも、その鋭さの軸線を回避する。
ダレンスは胸を撫で下ろして部下に続いた。
王立軍第十三独立騎士小隊、副団長のダレンスは舌打ちする。
数日追い回している魔物が安全地帯、この街の領地へ逃げようとしているのだ。まただった。
森の中を駆ける魔物を、ダレンスたち三人が上空を低く飛び追う。騎士などと言え、その姿は冒険者そのものである。
これは村人や冒険者に目撃される場合を想定しての措置だ。訓練なので問題はない。
「くそ~っ……」
ダンジョンなら逃げ道はないのにと、ダレンスは歯ぎしりする。森での戦いは勝手が違う。それはいつも地下の空間ばかりで戦っている、この小隊の弱点だ。
「アルマ! 鼻先に魔力弾を叩き込めっ!」
三人の中では先行している魔法使いの少女が、逃げるA級手前のグレンデルに魔力の塊を放った。
走る巨人はそれを察して器用に方向を変え、障壁が塊を弾く。
特に足の速い種だった。そしてその防御力で三日に渡るダレンスたちの追跡を逃れていたのだ。
「オーウェン! 足を止めろっ!」
剣士の少年が降下、地上を滑るように移動し剣で魔撃を飛ばす。果敢に接近し二度三度と攻撃するが、グレンデルはたいして気にもしない。魔力障壁を足に展開しているのだ。
二人とも上手くやっている。これはダレンスの作戦ミスだった。
「追跡は一時中止だ。停止して側面に距離をとれ!」
この魔物は追わなければ逃れようとはしない。もう森の先はどこかの領地、開拓地だった。
「二人共集合せよ……」
声など届かない距離ではあるが、魔力の伝達が二人を呼び寄せた。
「オーウェン! あんた剣で攻撃しているのに、足止めも出来ないのかい?」
そう言う少女、アルマは赤の騎士と呼ばれる騎士団に所属している。その中で三番手の力を持つ、赤の三号と呼ばれる実力者だ。
「アルマの魔力弾も外れたじゃないか!」
そう反論する少年、オーウェンは赤の五号と呼ばれている。
「あいつの障壁で弾かれたんだよ。あんな魔物に後れを取るなんて!」
アルマは唇を噛んだ。ダンジョンの中では疾走する相手などは狙わない。
「あんたが足止め出来ないから……」
「僕のせいばかりにしないでって!」
それにあのグレンデルはなかなか老獪だった。この街の冒険者に狙われながら、A級手前まで成長したのだ。
「副団長、どうすれば……」
オーウェンは自信のない顔を見せる。答えを出すのは簡単だった。
「撤退だな」
「まっ、またですか? もう何度目の撤退ですか? 副団長やりましょう。ここで逃せば私はもう騎士なんて名乗れませんよっ!」
アルマはあくまでも強硬論を唱えた。さてと、とダレンスは考える。これは訓練だ。力はあるがまだまだ若輩の二人を鍛えるのが目的なのだ。
「騎士じゃないって! 冒険者として戦うのが僕たちの目的だよ。だからこんな格好もしてるんじゃ――」
「だからって中身も騎士を捨てるのかい?」
アルマは襟首をつかんで迫る。しかしオーウェンは冷静だ。
「よせって、熱くなるなよ。相手はA級手前とは言え、たかがBのグレンデルだよ?」
そして、そう言って手を払い除ける。
「冒険者風情になめられてたまるかってんだいっ!」
「そんな話じゃないよ。アルマが冒険者に反発するのは知ってるけど……」
「騎士として戦ってこその騎士でしょう――」
「よせ、アルマ! オーウェン。作戦はあるか?」
この二人に話させていてもラチがあかないとばかりに、ダレンスは軌道修正する。
「やるならば時間をおいてから、僕とアルマで徒歩移動して開拓地側を押さえましょう。副団長には奥にいてもらい、グレンデルの牽制です」
「歩いてやつの先回りをするのかい? 面倒くさいねえ! 力を使い果たしても全力で――」
「それは作戦とは言わないの。それをやってここまで長引いているんじゃないか……」
「フンッ!」
呆れるオーウェンにアルマはそっぽを向く。こんな二人だが戦いになれば意外に息が合うのだから不思議だ。戦いとは面白い。
ここの駐屯地に連れてきた騎士たちの年齢は、十五から二十歳までだ。アルマはまだ十五でオーウェンが十六歳だった。
お守り役、騎士副団長のダレンスは三十歳だ。
「よーしっ、私は後方に下がるから、お前たちは前に出ろ。戦いのタイミングは任せるからな」
「「はっ!」」
グレンデルは沈黙して動かない。こちらの様子を伺っているのだ。
しばしの時間がたち、前方から戦闘開始の合図が響いた。魔力の破裂音が断続的に鳴る。
ダレンスは木の上へと跳び上がる。アルマが上空から魔法攻撃を加えていた。木々の間からオーウェンが魔撃を炸裂させている光が見える。
二人掛かりでもこの魔物は止められない。アルマは空中をじりじりと後退した。
突然グレンデルの上半身が木の上に出る。跳躍したのだ。
そして振りかぶった。最大の武器、鉄拳がアルマに襲いかかる。そしてダレンスは感じた。
「まずいっ!」
自身で障壁を展開し、アルマはからくも攻撃をしのぐが吹き飛ばされる。そして頭部に斬りかかったオーウェンも左の拳に弾かれた。
前方で巨大、いや、鋭い魔力が研ぎ澄まされているのを、ダレンスは感じたのだ。
「二人共、避けるんだ! 散開せよっ!」
アルマ、オーウェンも感じたようだ。衝撃で飛ばされながらも、その鋭さの軸線を回避する。
ダレンスは胸を撫で下ろして部下に続いた。
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