上 下
26 / 116
第一章「戦力外の男」

第二十六話「突入前夜」

しおりを挟む
 第五階層にある広い支道の突き当たり。ベルナールはそこにある下層への封印の前に立つ。

 岩に打ち付けられた魔導具のプレートには、魔力を閉じ込めている魔核が光っていた。

 ここが下への道だと突き止めたのはベルナールのパーティーたちだ。仲間の魔導士、アンディックが探査の能力で発見した。

 ベルナールたちは何度も突入の申請を出し、却下され、セシリアが結婚し、仲間はそれぞれの道へと歩み始めた。

 そして今も、この街で冒険者を続けているのはベルナールだけになった。

 もしかすると今もこの地で仲間が戻ってくのを待ち続けていたのかもしれない。ついぞ今まで、この封印が破られることはなかった。

 そんなことを思い出しながら、ベルナールは皆でパーティー解散を決めたこの場に立ち尽くしていた。


 もう夕刻近く。ほとんどのパーティーはクエストを終えて地上に帰還し、ダンジョンの中は静寂に包まれている。

 数名の砂を噛み小石を踏む音が聞こえた。

「ここにいましたか……」
「バスティか……」

 振り返ると若き冒険者パーティー、希望に満ち溢れている若者たちが立っている。

「いよいよ明日ですね」
「ああ、明日だ」

 今まで若い連中はパーティー単位で個別にダンジョンを戦ってきた。だからその単位で更に連携する味を知っている者は、この街の若手にはいないだろう。

 いや、知っているパーティーがこの街にいる。

「バスティ……」
「? 何ですか?」
「いや……、お前たちはこの為にここへと来たんだな」
「はい、新階層突入。それが俺たちの目的です」

 ここから下を目指すのは、かつての若きベルナールが果たすべき目標であった。

 しかし今、若い冒険者たちがそれを受け継ぐのだ。


 ベルナールたちは地上へと向かった。

 第五階層のメインダンジョンには既にバリケード用の資材が運び込まれている。

 突入の配置も決まり周知されていた。

 先鋒はバスティたち。次鋒はデフロットのパーティー。ベルナールたちは三本目の矢となった。ここまでが第一列となる。

 第二列は北ギルドの冒険者たちが務める。

 そして中央と西、東のギルドから応援に来た冒険者パーティーが続き、エルワンはいつもの第四列程度にギルドの監督官として参加することになっていた。


 ベルナールはバスティたちと別れ、セシールとの待ち合せ場所へと向かう。例のスイーツ店だ。

 学校を終えたアレットとロシェルを連れてきたセシールは、テーブル席に着いていた。

「待たせたか?」
「ううん、今来たところ。中はどうだったの?」
「静かなものさ。準備も万全だよ。さあ、メシにしようか」

 アレットとロシェルも装備を身に付け、一丁前いっちょまえの冒険者に見える。

 既にこの姿で数戦交え、二人とも自信を付けていた。格好が成長を促しているのだ。

 セシールがウエイトレスを呼び注文をする。ベルナールたちは運ばれる料理を次々に平らげた。明日の為にエネルギーを補給する。

 夜はこの街で暮らす冒険者たちの為に、ボリュームたっぷりの食事を提供していた。

 四人で店を出て裏手へと向かう――。

 いつもは静かなこのダンジョンの街も、他のギルドから応援に来たパーティーで賑わっている。

 ――そこには小さなコテージがいくつか建ち並んでいた。スイーツ店が経営する宿だ。

 ベルナールは鍵を出して扉を開ける。狭い部屋に二段ベッドが二つ並んでいた。

「狭いがここで我慢してくれよ。アレットとロシェルは上を使ってくれ」
「ううん、冒険者の寝床なんてこんなものよ。平気よ」
「二段のベッドなんて初めてです」
「上がいい~。私も初めて~~」

 確かに普通の家には二段のベッドなどないだろう。これは少ない宿泊施設に大勢泊めるための苦肉の策だった。他の開口から応援を迎え入れる時などは、どうしても部屋が足りなくなるのだ。昔の名残である。

「俺はちょっと出てくるよ」
「私たちは休んでるわ。あまり遅くならないでね」
「分かってるさ」

 なんだか大昔に、母親のセシリアに同じことを言われた気がして、ベルナールは内心で苦笑する。

 新階層攻略を前にして、街は久しぶりに湧いていた。


 ベルナールは昔、行き付けだった酒場に入る。今はここの守備隊長、マークスが行き付けとしている店だ。

 既にカウンターに座りベルナールが来るのを待っていた。

「待たせたな」
「いや、俺も今来たばかりだ」

 マスターは何も言わずにビールジョッキを差し出した。周囲の客は共に戦っていた昔馴染みの顔ばかりだった。

「乾杯しようぜ。大昔、俺たちがやり残した場所に……」
「ああ、昔の俺たちのような若い連中の活躍にな……」

 マークスとしても新たな階層には感慨があるようだ。ベルナールとも同じ気持ちだった。

 そしてここにいる連中も皆、同じ気持ちなのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

処理中です...