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第一章「戦力外の男」
第二十四話「突入申請」
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今日のギルドは異様な熱気に包まれていた。
いつもならば、報酬を受取り酒場に繰り出す冒険者たちが、カウンターを挟んで険悪な雰囲気で話す二人を見守っている。
「ふふっ、やっているな。ちょっと見ていこうか……」
ベルナールと二人の弟子はその輪に加わった。
ギルドマスターのエルワンはウンザリと、いった表情を作っている。それに食い下がっているのはバスティだった。
「自分たちも行くってパーティーが増えれば、許可が出るって聞きましたが?」
「誰がそんなデマなん飛ばしているんだい。雑魚ばかりで新階層を開いては被害がでるかもしれない。そんな許可は、ギルドは出せないな!」
デマと雑魚の言葉にバスティは憤った様子だが、反論は我慢しているようだ。
エルワンはその様子を見て挑発するように、胸を反り返させている。
それは俺が言ったセリフだ、文句があるのか、とベルナールは下を向いて心の中でエルワンに反論した。
これは様子を見守る他の冒険者たちへの牽制なのだ。
エルワンの思惑通り、周囲で話を聞いていた冒険者たちが反応する。
最近魔物が少ないのは、ギルドの消極姿勢だとか、雑魚とはなんだとか、口々に文句を言う。
思えば自分が戦力外通告を受けた時も、エルワンは少々芝居がかっていたとベルナールは思い出す。
「おいおいっ、おいっ! だれが雑魚だって?」
周囲を取り囲む冒険者たちを割って、デフロットが現われた。
「ビビッてるのはギルドだろうが? 俺たちも行くぜ!」
デフロットの宣言にギルドの中は低いどよめきに包まれる。この中で下層への開口をリアルで知っているのはベルナールとエルワンの世代ぐらいまでだ。
皆はそれがどういうことか実感がわかない。躊躇する冒険者たちには下への開口が何を意味するのか、今一つ想像できないでいるのだ。
「ギルドマスターは新たな下層へ進行したことはあるのですか?」
言われるままだったバスティが反撃に転じる。
「ふふんっ」
と、エルワンは時折見せるいつものドヤ顔になった。
「バカにしてもらっては困るね。私が現役のころはこの街には勇者パーティーがいたのだよ。そして次々に下へ下へと向かう勇者たちを助けて戦ったのが私なんだ。最前線でだっ! あの時に比べて、今の君たちの方が上とは到底思えんがね。どうかな?」
「くくっ……」
それは嘘だ。挑発も度が過ぎるとベルナールは思った。エルワンはいつも第四列程度ほど後ろで下へと進んで来ていた。
しかし、他のギルドの職員たちはそんなエルワンを尊敬のまなざしで見ている。ここでバラす訳にはいかない。どうやら狙いはこっちだったようだ。
ものは言いよう。昔を知らない若者たちには、いくらでも話を盛れる。
「今も勇者はいますよ……」
「んっ?」
「勇者ベルナールは健在ですっ!」
まいったな、と思いつつベルナールは周囲の注目を受ける。
ロシェルが袖を引き、アレットが見上げる。ベルナールも二人の弟子と目を合せて頷いた。
「癪だがなあ――、俺はこのおっさんの技、S級キラーに二度も助けられたんだ。もうロートルだが俺たちが支援すれば切り札にはなるぜ」
支援の魔力と発動までの時。それさえあればS級キラーは健在だと、デフロットのパーティーは知っている。
しかし、これで褒めているつもりなのかとベルナールは呆れた。デフロットらしい言いぐさだ。
仕方なし、とばかりにベルナールも続けて口を開く。
「俺も参加する。先鋒は若い奴に譲るが、手伝いはさせてもらうよ」
「私もベルナールのパーティーに加入しました」
いつのまにかセシールが横に出てきていた。
「元勇者に元勇者の娘ですか……」
エルワンは引く姿勢を見せる。そしてここはベルナールの出番だった。
なんだかん言っても長い付き合いだ。このギルドマスターの考えは理解している。
「ギルドマスター! 昔のようにあなたが助けてくれれば、新階層の攻略も容易でしょう」
ベルナールは心にもないセリフを言う。この田舎芝居も終焉の頃合いだ。
「仕方ないですね……」
エルワンはわざとらしく天を仰ぐ。あくまでも芝居がかった仕草だった。
◆
「ほう、久しぶりに下を目指すか……」
「ああ」
いつもの店で、マスターは相槌を打ってくれる。新階層の開口と聞いて元冒険者の顔は明るかった。やはり引退したとしても冒険者は冒険者だ。
ベルナールは隣のギルドマスター殿を見やる。
「突入志願者はどうだ?」
「まずまずのパーティー数が集まりました。駆け出しはまだ出せませんが、明日以降も申請者は続くでしょう」
「なかなかの名演技だったな」
「はははっ、若手のやる気を引き出す為の演出ですよ。上手くいきましたかね?」
「十分だろう」
冒険者がギルドに集まる時間帯にバスティからの催促を受けて、声を上げて注目を集めてみせたのだ。しかし――。
「ただし嘘はいただけないな」
「嘘?」
「新階層への突入は、お前はいつも後ろだったろう?」
「いやあ、でもいつも前へ前へと行ったでしょ?」
「そうだったな」
順番はギルドが決めるので本人の意思ではどうにもならない。
エルワンは確かに戦いながら先頭に立とうとしていた。だからこそベルナールがピンチを助けたり、二人で危機に陥ったりもしたのだ。
「日程は弟子たちが行ける、学校が休みの日にして欲しいな」
「もちろんです。駆け出しの連中にも見て欲しい。将来のこの街を背負って立つ冒険者たちですから」
「うむ」
それはベルナールたちロートルの責任でもあった。
「他のギルドから応援の確約も取り付けました。なんとしても成功させましょう」
「もちろんだとも」
二人は軽くジョッキを合せる。
いつもならば、報酬を受取り酒場に繰り出す冒険者たちが、カウンターを挟んで険悪な雰囲気で話す二人を見守っている。
「ふふっ、やっているな。ちょっと見ていこうか……」
ベルナールと二人の弟子はその輪に加わった。
ギルドマスターのエルワンはウンザリと、いった表情を作っている。それに食い下がっているのはバスティだった。
「自分たちも行くってパーティーが増えれば、許可が出るって聞きましたが?」
「誰がそんなデマなん飛ばしているんだい。雑魚ばかりで新階層を開いては被害がでるかもしれない。そんな許可は、ギルドは出せないな!」
デマと雑魚の言葉にバスティは憤った様子だが、反論は我慢しているようだ。
エルワンはその様子を見て挑発するように、胸を反り返させている。
それは俺が言ったセリフだ、文句があるのか、とベルナールは下を向いて心の中でエルワンに反論した。
これは様子を見守る他の冒険者たちへの牽制なのだ。
エルワンの思惑通り、周囲で話を聞いていた冒険者たちが反応する。
最近魔物が少ないのは、ギルドの消極姿勢だとか、雑魚とはなんだとか、口々に文句を言う。
思えば自分が戦力外通告を受けた時も、エルワンは少々芝居がかっていたとベルナールは思い出す。
「おいおいっ、おいっ! だれが雑魚だって?」
周囲を取り囲む冒険者たちを割って、デフロットが現われた。
「ビビッてるのはギルドだろうが? 俺たちも行くぜ!」
デフロットの宣言にギルドの中は低いどよめきに包まれる。この中で下層への開口をリアルで知っているのはベルナールとエルワンの世代ぐらいまでだ。
皆はそれがどういうことか実感がわかない。躊躇する冒険者たちには下への開口が何を意味するのか、今一つ想像できないでいるのだ。
「ギルドマスターは新たな下層へ進行したことはあるのですか?」
言われるままだったバスティが反撃に転じる。
「ふふんっ」
と、エルワンは時折見せるいつものドヤ顔になった。
「バカにしてもらっては困るね。私が現役のころはこの街には勇者パーティーがいたのだよ。そして次々に下へ下へと向かう勇者たちを助けて戦ったのが私なんだ。最前線でだっ! あの時に比べて、今の君たちの方が上とは到底思えんがね。どうかな?」
「くくっ……」
それは嘘だ。挑発も度が過ぎるとベルナールは思った。エルワンはいつも第四列程度ほど後ろで下へと進んで来ていた。
しかし、他のギルドの職員たちはそんなエルワンを尊敬のまなざしで見ている。ここでバラす訳にはいかない。どうやら狙いはこっちだったようだ。
ものは言いよう。昔を知らない若者たちには、いくらでも話を盛れる。
「今も勇者はいますよ……」
「んっ?」
「勇者ベルナールは健在ですっ!」
まいったな、と思いつつベルナールは周囲の注目を受ける。
ロシェルが袖を引き、アレットが見上げる。ベルナールも二人の弟子と目を合せて頷いた。
「癪だがなあ――、俺はこのおっさんの技、S級キラーに二度も助けられたんだ。もうロートルだが俺たちが支援すれば切り札にはなるぜ」
支援の魔力と発動までの時。それさえあればS級キラーは健在だと、デフロットのパーティーは知っている。
しかし、これで褒めているつもりなのかとベルナールは呆れた。デフロットらしい言いぐさだ。
仕方なし、とばかりにベルナールも続けて口を開く。
「俺も参加する。先鋒は若い奴に譲るが、手伝いはさせてもらうよ」
「私もベルナールのパーティーに加入しました」
いつのまにかセシールが横に出てきていた。
「元勇者に元勇者の娘ですか……」
エルワンは引く姿勢を見せる。そしてここはベルナールの出番だった。
なんだかん言っても長い付き合いだ。このギルドマスターの考えは理解している。
「ギルドマスター! 昔のようにあなたが助けてくれれば、新階層の攻略も容易でしょう」
ベルナールは心にもないセリフを言う。この田舎芝居も終焉の頃合いだ。
「仕方ないですね……」
エルワンはわざとらしく天を仰ぐ。あくまでも芝居がかった仕草だった。
◆
「ほう、久しぶりに下を目指すか……」
「ああ」
いつもの店で、マスターは相槌を打ってくれる。新階層の開口と聞いて元冒険者の顔は明るかった。やはり引退したとしても冒険者は冒険者だ。
ベルナールは隣のギルドマスター殿を見やる。
「突入志願者はどうだ?」
「まずまずのパーティー数が集まりました。駆け出しはまだ出せませんが、明日以降も申請者は続くでしょう」
「なかなかの名演技だったな」
「はははっ、若手のやる気を引き出す為の演出ですよ。上手くいきましたかね?」
「十分だろう」
冒険者がギルドに集まる時間帯にバスティからの催促を受けて、声を上げて注目を集めてみせたのだ。しかし――。
「ただし嘘はいただけないな」
「嘘?」
「新階層への突入は、お前はいつも後ろだったろう?」
「いやあ、でもいつも前へ前へと行ったでしょ?」
「そうだったな」
順番はギルドが決めるので本人の意思ではどうにもならない。
エルワンは確かに戦いながら先頭に立とうとしていた。だからこそベルナールがピンチを助けたり、二人で危機に陥ったりもしたのだ。
「日程は弟子たちが行ける、学校が休みの日にして欲しいな」
「もちろんです。駆け出しの連中にも見て欲しい。将来のこの街を背負って立つ冒険者たちですから」
「うむ」
それはベルナールたちロートルの責任でもあった。
「他のギルドから応援の確約も取り付けました。なんとしても成功させましょう」
「もちろんだとも」
二人は軽くジョッキを合せる。
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