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第一章「戦力外の男」

第十七話 「バスティのパーティー」

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 噂の駐屯地に到着した。先頭の馬車から降りた操者が、責任者らしき兵に書類を渡している。早速に物資が馬車から降ろされ始めた。

 荷を運ぶ兵たちの顔はほころんでいる。物資は欠乏していたようだ。ほとんどが食料品のようだが、他に嗜好品などが少数ある。

 現場では木の伐採などが行われ、さながら開拓地を森の奥に広げる作業のようにも見える。

「知った顔がいるかどうか、見てきますよ」

 荷馬車を飛び降りたバスティはそう言って駆けて行く。

 軍の予算を使って開拓地を拡張し、更なる安全を確保する作戦と思わなくもない。

 ちょっとした裏技だ。この国はどの地域も農地は広げたいし、魔物の脅威を排除したいと考えている。軍なら安く動員できるのだ。

 多くの工兵が大木を切り倒している。作られた平地にテントや天幕が張られていた。


 バスティが知り合いらしき同年代の兵と談笑しながら戻ってくる。互いに軽く手を上げ挨拶をしてから分かれた。

「昼飯を提供してくれるそうです。食堂のテントに行きましょう」

 戻ったバスティはそう告げた。


 馬車の操車たちとベルナールたちは、天幕の下のテーブルで食事をする。傍らでは運んだ物資、食料で早速夕食の調理が始まっていた。

 ベルナールとて若い頃、一年ほど従軍の経験をしていた。ここは懐かしい光景でもある。

 エルワンの話もあるのでスプーンでシチューをすくい、パンをかじりながら周囲に目配せする。

 今のところ目にしているのは後方支援の兵ばかりで、それも開拓のような仕事をしていた。

 目に付く戦闘部隊は少数で、今は森の中で未確認開口部ロスト・マウスを探しているのだろう。

「知り合いに聞いたけど探索の部隊は二つに分けて、森に入っているそうだよ」

 バスティは仕入れた情報を屈託なくメンバーに話す。秘密でも何でもないようで、どうやらエルワンの取り越し苦労だったようだ。

未確認開口部ロスト・マウスは見つかったのか?」
「いえ、街寄りの方角を念入りにやっているそうですが、そう簡単には見つからないと言っていました」
「だろうな……」
「昨日、B級を一匹狩ったと言ってましたよ。明日はその近くを重点的に調べるそうです」
「そうか……」

 ここサン・サヴァンで長く冒険者をやっているベルナールは、この辺りに大きな開口があるとは思っていない。そのB級も先日の騒ぎの時、こちらに流れてきた魔物だのだろう。


「ベルナールさんがヘルプの件を引き受けてくれたよ」

 食事が終り、バスティは仲間たちに嬉しそうに言う。

「そう、良かったわ。これでギルドへの申請は通るかしら?」
「経験不足って却下されたからなあ、どうかな?」

 アレクの言葉にバスティはそう返す。

 心配性のギルドマスター、エルワンの顔が目に浮かんだ。そんなことは言ってなかったからだ。

 ギルドとしては、今は門前払いの状態で、真剣に検討もしていないのだろう。

「許可待ちだな。果たしてギルドはどう動くだろうか――?」

 期待を裏切るようなことも言えないので、ベルナールは少し思わせぶりに話を合せる。

「新階層への進出はギルドの義務です。俺たちはその為の冒険者だと思っています」
「ふふっ、その通りではあるな」

 若さゆえの正論だが下層へ新たな開口を開けるのはそう簡単ではない。

「準備は大変ですよねえ……。無理かなあ?」

 少し照れくさそうに言い訳がましく話す。バスティは解ってはいるようだ。

「いや、俺の若い頃は横へ下へと進むのが当たり前だった。この件は進むと思う」
「そうですか!」

 バスティの顔が明るくなった。新階層突入は自分とて望むところだ。それならば――とベルナールは考える。

「戦力としては少ないな。この人数では許可はやはり出ないさ」
「そうなんですか?」
「ああ、しかし噂は広がるし、そうなれば俺たちも行くって天狗がかならず出てくる。それをギルドが編成するんだ」
「そんな流れになるのか……」
「ああ、そこでギルドが許可を出す。いや、話が広がれば出さざるを得ないな。先鋒を務めるのは一番に申請した者。バスティ、お前だよ」
「俺が……」

 バスティは両拳を握りしめ少し身震いする。

 言ってからベルナールはしまった、と思った。このパーティーのリーダーはアレクなのだ。

 しかし当のリーダーは潤んだ目で、そんなバスティを見つめていた。他のメンバーはニヤニヤしている。

 ヤボの極みのベルナールもこのパーティーの事情を察した。


「バスティったら、俺が勇者と話すからお前たちは黙っていろっ、て言うんですよ!」

 二人の話に一区切りつき、他のメンバーが話しに加わる。そう言うのは魔導闘士ソーサエーターのイヴェットだ。

「おっ、おい……」
「憧れの勇者様との男同士の時間をじゃまするなって!」
「黙ってろなんて言ってないよ」
「えー、言ったわよ!」
「静かにしててくれだよ」
「同じじゃない~」
「夢がかなったとか、憧れだとかバスティはそればかりなのですよ」

 とは魔法使いウィザードのリュリュだ。アレクはニコニコしてこの話を聞いている。

「参ったなー」

 ちゃかす少女たちに言い訳しながらも、バスティはまんざらでもない表情である。
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