7 / 116
第一章「戦力外の男」
第七話 「猪鹿狩り」
しおりを挟む 山と森の奥から太鼓を打ち鳴らす音や、人の気勢が響いて来る。
しばし待つと追い込まれた獣の群れが木々の間から飛び出した。
「さーて……と」
ベルナールは力を抜いてスピード優先で剣を振るった。次々とその剣技から発した閃光が直進し、あるいは弧の軌道を描き猪に穿たれる。
続いて現れた鹿の群れは、脅威を察知したのか方向を変えた。その先頭の鹿たちに光を放つ矢が次々に突き刺さる。
セシールが後方から援護しているのだ。正確で無駄がないとベルナールは感心した。
混乱する獣たちに追いすがりながら、ベルナールは更なる攻撃を加える。
ひるんだ群れに肉薄しつつ剣を振るい、暴れる鹿を確実に一頭ずつ仕留める。脱出を試みる獲物には魔法のきらめきを纏った矢が突き刺さった。
「セシール! 右翼は牽制程度にしろっ! 打ち漏らした左翼はレイラスの手前で仕留めろっ!」
「了解!」
ベルナールはより右に移動する。獲物をもう少し左に誘導する為だ。
続けて森から飛び出してきたのも鹿の群れだった。
ベルナールたちを見とがめ方向を変えるが、先頭の鹿が打ち倒され慌てて逆に走り出す。そしてまた先頭に矢が命中した。
混乱する群に剣を振り下ろすと、無数の光が飛び鹿の首筋に命中する。
右翼側に遁走をはかる大鹿の胴体に、大きな穴が穿たれもんどりうって倒れた。
「やりすぎだ……」
魔物を一撃で仕留める力だ。セシールはセーブしていたが、ついつい本気を出してしまったようだ。
散発的に現われる獣の群を、ベルナールたちは微妙に位置を変えながら次々に屠っていった。
森は静けさを取り戻し狩りの終りを告げる。勢子役の男たちが次々に木々の間から現われた。
倒れた獲物にトドメを刺して血抜きを始める。輸送の為の荷馬車が何台もやって来た。
「さすが現役は違いますなあー。いつも二、三割は打漏らしがあるが、今日はほぼ完璧だった! さすがです。今日はこれで終わりですね」
レイラスが剣を納めながらベルナールに歩み寄る。
「この程度の戦いなら、今の俺の魔力でもなんとか間に合ったな」
昔は無限に湧くと思っていた魔力も、歳と共に弱くなった。
その代わり状況に応じて制御する技術は向上している。弱い敵ならば弱い攻撃を繰り出して戦えば良いのだ。
セシールも終りを察してこちらに来る。
「ベルさん、私はどうだった?」
「十分だろ。ただし食肉用の獲物だからなあ……。もっと弱い攻撃の方が良かったな」
「そうよねえ。魔物相手とは勝手が違うわね。難しいわ……」
常に強力な獲物を狙う若いパーティーは力不足に悩む場合が普通で、逆を考えることなどあまりないのだ。
「いやあ、さすがですよ。搬出もずいぶんと楽になった」
「ああ、獣の狩りなんて初めてだったが上手くいったな」
「次は西の森でやるんですが、また手伝ってもらえると助かるんですがね……」
「俺は暇な失業者だ。ありがたい話さ」
◆
仕事も終わりベルナールはお礼がてら、セシリアの店を訪ねる。
セシールとは途中で分かれた。新たなパーティーに加入する為の情報収集で、エルネストの店に行くと言っていた。
あいつは昔から若い者の面倒見が良かったと、ベルナールは思い出す。ロートルに付き合う必要もない。
「で、どうだったの?」
「けっこうな稼ぎになったよ。ただ今の時期だけの仕事だからなあ……」
「それはよかったわ……」
セシリアはほっとした表情を見せる。ベルナールは仕事の後の一杯目を飲み干し、二杯目のビールを注文した。
「今月の家賃も払えるよ。ところで、どうしてこんなつてがあったんだ?」
「ウチもこのハムやベーコンを仕入れているのよ。その関係。食べる?」
「そうだな、ちゃんと食事するか」
「そうよ、ここは食堂で酒場じゃないのよ」
セシリアはそう言って厨房に引っ込み、食事が載ったトレーを運んで来た。
堅いパンにたっぷりの野菜と、香ばしく焼かれた分厚い猪のベーコンが挟まれている。鹿肉のシチューも野菜たっぷりだ。
「次はワインにするか」
ベルナールはパンにかぶり付いてシチューをスプーンですくう。
「うん、こいつは旨いよ! なかなかだ」
「これからはお酒ばかりじゃなくて、食事もちゃんと取りなさい」
その通りだった。今日は息切れしながら鹿を追いかけていたのだ。気が付けばもうおっさんなのだ。
「まったくだ。これからは気を付けるよ」
そう言ってからベルナールは赤ワインをガブリと飲んだ。
「ところで子供が使う弓矢のお古はあるかい?」
「う~ん……、セシールが使っていた私のお下がりは彼女が持って行ったし――、ただ成長に合わせて安物の中古を色々と試したから……」
「譲ってもらえるか?」
「もちろんよ。だけどボロよ」
「構わない。俺が修理して調整するよ」
「どっちのお嬢さん?」
「ロシェルだ。弓使いの才能があるよ」
「もう一人の方は?」
「アレットだ。あの娘は剣士だな、純粋な剣士だよ。楽しみだ」
しばし待つと追い込まれた獣の群れが木々の間から飛び出した。
「さーて……と」
ベルナールは力を抜いてスピード優先で剣を振るった。次々とその剣技から発した閃光が直進し、あるいは弧の軌道を描き猪に穿たれる。
続いて現れた鹿の群れは、脅威を察知したのか方向を変えた。その先頭の鹿たちに光を放つ矢が次々に突き刺さる。
セシールが後方から援護しているのだ。正確で無駄がないとベルナールは感心した。
混乱する獣たちに追いすがりながら、ベルナールは更なる攻撃を加える。
ひるんだ群れに肉薄しつつ剣を振るい、暴れる鹿を確実に一頭ずつ仕留める。脱出を試みる獲物には魔法のきらめきを纏った矢が突き刺さった。
「セシール! 右翼は牽制程度にしろっ! 打ち漏らした左翼はレイラスの手前で仕留めろっ!」
「了解!」
ベルナールはより右に移動する。獲物をもう少し左に誘導する為だ。
続けて森から飛び出してきたのも鹿の群れだった。
ベルナールたちを見とがめ方向を変えるが、先頭の鹿が打ち倒され慌てて逆に走り出す。そしてまた先頭に矢が命中した。
混乱する群に剣を振り下ろすと、無数の光が飛び鹿の首筋に命中する。
右翼側に遁走をはかる大鹿の胴体に、大きな穴が穿たれもんどりうって倒れた。
「やりすぎだ……」
魔物を一撃で仕留める力だ。セシールはセーブしていたが、ついつい本気を出してしまったようだ。
散発的に現われる獣の群を、ベルナールたちは微妙に位置を変えながら次々に屠っていった。
森は静けさを取り戻し狩りの終りを告げる。勢子役の男たちが次々に木々の間から現われた。
倒れた獲物にトドメを刺して血抜きを始める。輸送の為の荷馬車が何台もやって来た。
「さすが現役は違いますなあー。いつも二、三割は打漏らしがあるが、今日はほぼ完璧だった! さすがです。今日はこれで終わりですね」
レイラスが剣を納めながらベルナールに歩み寄る。
「この程度の戦いなら、今の俺の魔力でもなんとか間に合ったな」
昔は無限に湧くと思っていた魔力も、歳と共に弱くなった。
その代わり状況に応じて制御する技術は向上している。弱い敵ならば弱い攻撃を繰り出して戦えば良いのだ。
セシールも終りを察してこちらに来る。
「ベルさん、私はどうだった?」
「十分だろ。ただし食肉用の獲物だからなあ……。もっと弱い攻撃の方が良かったな」
「そうよねえ。魔物相手とは勝手が違うわね。難しいわ……」
常に強力な獲物を狙う若いパーティーは力不足に悩む場合が普通で、逆を考えることなどあまりないのだ。
「いやあ、さすがですよ。搬出もずいぶんと楽になった」
「ああ、獣の狩りなんて初めてだったが上手くいったな」
「次は西の森でやるんですが、また手伝ってもらえると助かるんですがね……」
「俺は暇な失業者だ。ありがたい話さ」
◆
仕事も終わりベルナールはお礼がてら、セシリアの店を訪ねる。
セシールとは途中で分かれた。新たなパーティーに加入する為の情報収集で、エルネストの店に行くと言っていた。
あいつは昔から若い者の面倒見が良かったと、ベルナールは思い出す。ロートルに付き合う必要もない。
「で、どうだったの?」
「けっこうな稼ぎになったよ。ただ今の時期だけの仕事だからなあ……」
「それはよかったわ……」
セシリアはほっとした表情を見せる。ベルナールは仕事の後の一杯目を飲み干し、二杯目のビールを注文した。
「今月の家賃も払えるよ。ところで、どうしてこんなつてがあったんだ?」
「ウチもこのハムやベーコンを仕入れているのよ。その関係。食べる?」
「そうだな、ちゃんと食事するか」
「そうよ、ここは食堂で酒場じゃないのよ」
セシリアはそう言って厨房に引っ込み、食事が載ったトレーを運んで来た。
堅いパンにたっぷりの野菜と、香ばしく焼かれた分厚い猪のベーコンが挟まれている。鹿肉のシチューも野菜たっぷりだ。
「次はワインにするか」
ベルナールはパンにかぶり付いてシチューをスプーンですくう。
「うん、こいつは旨いよ! なかなかだ」
「これからはお酒ばかりじゃなくて、食事もちゃんと取りなさい」
その通りだった。今日は息切れしながら鹿を追いかけていたのだ。気が付けばもうおっさんなのだ。
「まったくだ。これからは気を付けるよ」
そう言ってからベルナールは赤ワインをガブリと飲んだ。
「ところで子供が使う弓矢のお古はあるかい?」
「う~ん……、セシールが使っていた私のお下がりは彼女が持って行ったし――、ただ成長に合わせて安物の中古を色々と試したから……」
「譲ってもらえるか?」
「もちろんよ。だけどボロよ」
「構わない。俺が修理して調整するよ」
「どっちのお嬢さん?」
「ロシェルだ。弓使いの才能があるよ」
「もう一人の方は?」
「アレットだ。あの娘は剣士だな、純粋な剣士だよ。楽しみだ」
2
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。
しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。
途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。
しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。
「ミストルティン。アブソープション!」
『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』
「やった! これでまた便利になるな」
これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。
~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる