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第一章「戦力外の男」

第三話 「若き冒険者たち」

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 若手冒険者のバスティは仕事を終えて、同じ若い冒険者たちが集まる酒場で飲んでいた。

 このように店の客筋が、どうしても年齢層で分かれるのは仕方ない。

「聞いたぜ。ベルナールさん、強制引退させられたんだって?」

 カウンター越しにそう声を掛けるのはこの店の経営者でマスター、元冒険者のエルネストだ。年齢は話題になっているベルナールより五歳ほど下だった。

 三ヶ月前にこの街に来てから、バスティたちはいつもこの店を利用していた。

 このマスターが新人や若手冒険者に積極的に話しかけて、情報提供や情報交換している姿に好感を持ったからだ。

「耳が早いですね?」
「まあな、この店はそんな所だしな」

 パーティーに戦力が欲しいとグチを言えば、いく名かの名前を紹介してくれたり、その逆でどこかに入りたい、と言えば人を探しているいくつかのパーティー名を出したりしてくれる。

 本人の意図かどうかは分からなかったが、そんなこんなで自然と若手冒険者たちに慕われて、皆この店に集まっているのだ。

 そしてバスティもまた、その一人だった。

「それにしても、ついにあの人も引退か……。寂しいもんだ」
「ええ、でも喜んでいるヤツもいるみたいですね……」

 バスティがそう言ったそばから、後で騒がしい冒険者が更に騒がしく声を上げる。

「ぎゃっはは――、見たかあ? あのおっさんの顔を。笑っちまうぜ!」

 後のテーブル席で飲んでいるのはデフロットたちのパーティーだ。

「昔、世話になったとかはないんですかね?」

 バスティは小声でマスターに話しかける。

「デフロットにかぎっては、世話になったなんて思ってる相手は誰もいないだろうさ。他のメンバーは色々な人に世話になりっぱなしだ、と思っているだろうがな」

 バスティはマスターの言っていることが分かったので、頷いてビールを一口すする。

 互いに足りない所を補い合うのがパーティーだ。リーダーがアレ・・ならばだれかがフォローしてカバーすれば良いだけだ。

 バスティは自分たちがどうか、としばし考えてすぐに止めた。つねにフォローされているのが自分だからだ。


 この街に来たばかりのころ、気さくに声を掛けてくれたのがベルナールだった。そして元勇者と聞いて驚いた。

 憧れの勇者がいきなり目の前に現われたのだ。

 バスティたちのパーティーはダンジョン攻略を経験するため、この街にやって来た。

 アルトワ王国の山岳部、サルテーヌ州のこの一帯には古来より多数のダンジョンが点在している。

 事情を話すとベルナールは北のダンジョンを案内してくれたのだ。そしてバスティのパーティーは北のギルドに落ち着いた。

「珍しいな。今日は一人なのか?」
「いえ、買物があるとかで先に行ってて、と言われました」
「はは……、そうか」

 マスターは肩をすくめる。バスティ以外は少女ばかりで構成されるゆえの事情に思い至ったようだ。


 山岳部にあるこの街の周囲には魔物が多く出没する。その脅威を排除するために作られた冒険者たちの街、サン・サヴァン。

 巨大な魔境隧道ずいどう、ダンジョンの出口がいくつも口を開けている地域。

 ここの冒険者は地下での戦いを主とし、時には未確認の隧道の探査と、新たに空いた開口より、地上に出現する魔物を狩るのが仕事だった。


「おっ、仲間が来たぜ」

 バスティが振り向くとバネ仕掛けの二枚扉が開き、三人の娘が店内に入って来る。

 デフロットのパーティーは男女共に二対二となっている、がバスティは男が一人で他の三人は全て女子である。そしてそれぞれが個性異なる美少女ぞろいだ。

 リーダーがバスティと誤解しハーレムなどと揶揄している輩もいるらしいが、気にはしていない。

「移動しますね」

 バスティはビールジョッキを持ってテーブル席に移動する。促してデフロットたちとは離れた席に座った。

「買物はどうだったの?」
「うん、気に入ったのが買えたわ」
「そう……」

 女性の冒険者たちはたとえ仕事用の衣装であっても、自身のアピールのためファッションには余念がない。

「お店でも勇者引退の話をしていたわ」
「うーーん……」

 ここは冒険者の街だ。

 年齢制限ができたのなら、勇者に限らず引退した年老いた冒険者たちは全員、冒険者の資格を失ったのだ。波紋は大きいだろう。

 バスティには何となくギルド意図が分かった。

「ダンジョン攻略で一時的にベルナールさんに入ってもらえるか頼んでみようと思ってたけど、こんなことになるなんてなあ……」

 この街に来たばかりのころ、勇者の武勇伝や評判などを聞き、ベルナールにダンジョンの案内などをお願いしていた。

 それはたまたま中央ギルドで出会い、それとなく頼んだのが切っ掛けだった。

 一緒に戦ってくれ、はまた別の話だ。魔物との戦いは命のやり取りだからだ。

「完全に引退するのかな?」
「いや、ヘルプでクエストの手伝いぐらいはすると思うけど……」
「組む相手がいないってずっとソロでやっていた人が、今更私たちみたいな普通のパーティーにヘルプで入ってくれるかしら?」
「うーーん」

 リーダーの女剣士フェンサー、アレクの言葉にバスティはもう一度唸る。

 ベルナールはかつて勇者と呼ばれていた頃のパーティーが解散してから今まで、ずっとソロで仕事をしていたのだ。

 案内されたダンジョンでは、小物の魔獣が現われバスティたちは難なくそれを撃退したりもした。

 ベルナールはそんな些細な戦いも詳細に分析して、バスティたち説明してくれたのだ。

 俺たちの印象は悪くない! とバスティは思っていた。

「そうよ、元勇者だしかえって気を使わせる、とか考えるんじゃないかしら?」
「バスティは冒険者に憧れてここにいるのだし、今は勇者に憧れてここにいる。そのままの気持ちを、素直に伝えれば良いんじゃないかしら?」

魔導闘士ソーサエーターのイヴェットと魔導士ソーサラーのリュリュがそれぞれ意見を述べた。

「いやあ、緊張するし照れちゃうよ。普通にごく自然に頼めて、受けてもらえるのが一番なんだげどね」
「……面倒くさいのね……」
「まあ、男同士だしね」

 手伝って欲しければそう伝えれば良い話だ。バスティの微妙な感情に、アレクたちは首を傾げる。

 このパーティーは元々女子三人組だったのだが、剣力が足りなくてリーダーのアレクが率直に加入を提案した。

 そしてバスティが了承し、結果このような編成になっていたのだ。

「男のブライドとか矜持とかロマンとか、色っ―いろ、あるのさ……」
「「「……」」」

 三人の女子はあきれた表情で顔を見合わせる。
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