上 下
20 / 53

20「令嬢の告白」

しおりを挟む
 午後は教会礼拝とミサだ。本来ミサは司教以上が執り行うが、ここでは若き神父がその任につく。小さな教会ではあるが、これは組織において出世コースの乗っていることを意味した。
 令嬢の二人は村人たちに席を譲って、最後列の端に座る。
 いつもは一人で祈っている神父も、今日は数人のシスター修道女が駆け付けた。やはり嬉しそうだ。偉い人がいない小さな教会は若手の息抜きの場にもなっているらしい。
 もちろん老神父と、若きイケメン神父では息抜きの格が違う。それほどの逸材がここにはいる。フランチェスカ、プリシッラ両名共に認定している逸材だ。
「やっぱりカッコいいわね……」
 プリシッラの耳打ちにフランチェスカは小さく頷いた。これは純然たる事実だからだ。その神父は神話時代の神殿を抜けだして、この教会にやって来たように見えた。少し恥ずかしそうにはにかみ、そして信徒たちの目をみて語りかける。

 二人ごとに各自持ち寄った小さなグラスを持ち祭壇に行に行くと、葡萄酒伝統的な赤ワインが注がれる。全員でそれを飲み干し賛美歌を歌った。人々の微細な魔力をラファエロ神父がまとめ上げ、開拓地の結界が維持される。皆の想いが一つになるこの瞬間が、フランチェスカは好きであった。

 その後ほとんどの信徒か帰るが、一部は席順に告解の小部屋に進む。
 人間関係における罪の赦しを得る者もいれば、魔力酔いよる精神の不安を訴える者もいる。
「お話ししていく?」
「うん……」
「分かった。外で待ってるわ」
 気を利かせたプリシッラは聖堂をあとにした。フランチェスカは順番を静かに待つ。

 小部屋の中は格子とレースで仕切られ、神父の表情は判然としない。
「フランチェスカ様。本日はどのようなご相談ですかな?」
 名前を覚えられていると知り、少し感激した。それなりの金額を寄進しているのだし当然だと思いつき赤面する。
「いつも誰かに見られているような気がします。これは――」
「神はいつも人々を見守っておられますよ」
「いえ、誰かが私を見ております。時には心の中にまで入り込もうと……。これは気のせいでしょうか?」
「ふむ、想いの反射ですね。自然に張られた結界が、気持ちを自身に跳ね返す現象があります。あなたの潜在スキルはやはり・・・高いのですね」
「そんなはずは……。」
「もしくは本当に単なる気のせいかもしれません。我々は自身が何者かも知らずに生きております。御存知なのは天界の神々だけ……。今はどうですか?」
「今も感じます……」
「ふむ」
 台上の小窓からラファエロ神父の手が出てきた。フランチェスカの目の前に小さなペンダントが置かれる。トップには小さな金属板に魔核がはめ込まれていた。
「ならばこれをどうぞ。つけてみて下さい」
「はい」
 白くて細いうなじに無機質にチェーンが光る。
「差し上げます」
「そんな、頂けませんわ。大切な物でしょうに……」
「そうではありませんよ。少々魔力を込めました。さてこれまでとしますか」
 フランチェスカはおもてに出て景色を眺めた。胸に手を当てて息を吸い込む。隣に神父が並び立つ。
「今はどうですか?」
「不思議。消えました……」
「気の持ちようですね。なあに、若いうちは誰にでも少しは経験があります。気しないで……」
 ラファエロ神父はそう言って笑った。やっぱり評判のイケメン神父だ。

 遠くの森から冒険者たちが出てきた。周囲を見回しながら何やら相談している。
「はしたない女性たちですね。それを傍らに置く男性も同罪だ」
「え?」
 それが女性冒険者の衣装についてだと分かり少し動転する。
「フランチェスカ様もあのような姿になられるのですかな?」
「いっいえ、あれは戦う力を持つ女性特有の姿だと聞きました。私にはそのような力はございませんので」
「そうですか。かく信心深くありたいものです」
「でも女神様の中にもあのような姿を――」
「あれは俗人が神の姿をもてあそんだ結果の俗説です」
「はい……」
 それはその通りだとフランチェスカは思った。実際に会ったこともないのに、人は神々の姿を描き、大勢がそれを神だと信じているからだ。
「女性たちは知らず知らずのうちに、あれを強要されているのですよ」
 真面目な神父様なのだろう。男性の好奇にさらさられる心を心配していた。
 あれが女神の姿に利用され、聖職者として憤るのは当然の感情だと、フランチェスカは思った。
「不幸とは思いませんか?」
「なんとも、私にはよく分からない話です……」
「これもまた、自身の殻に想いが反射しているのですね」
 フランチェスカには意味がよく分からなかった。信仰とはとはまた別の世界だとは理解する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...