上 下
16 / 53

16「もう一人の捕食者」

しおりを挟む
 それから庶民街を離れ、貴族街との中間ほどにある広い路地に入る。そして一軒の店に入った。護衛たちは離れて散らばる。
 シルヴェリオたちはさら離れて建物の陰に隠れた。数人の女性が店から出て来る。そして何人かが入る。
「店名は【ミコラーシュ】。雑貨と小物の店――か……。知ってるか?」
「ううん。ウチ商会は穀物と食料関係が中心だし。シルヴの方が専門じゃあ」
「私は絵画だ。雑貨となると、ちょっと……」
「繁盛しているのね」
 客の出入りが多い。こぢんまりとした店だが奥行きがあるようだ。
「街の装いだが、あれはほとんど貴族だよ。雰囲気で分かる」
「言われてみればそうねえ……」

 ほどなくして令嬢たちは外に出てきた。
 続いて公園のベンチで女子会を継続。シルヴェリオたちは離れた場所に陣取り見守る。
「ん? これかな。悪意があるようなスキル。これって男かしら?」
「そう、男だろう。フランチェスカを追っているんだ。場所はずいぶん離れて行った。そのうちに消えるだろう」
「もてるお嬢さんなのね。ライバルが多くて大変だ」
「悪意だよ。セルモンティはウチと違って恨みを買うような家ではないのだがなあ……。そちらからも調べてみるか」
 三令嬢が立ち上がった。お帰りのようだ。もう一人の追跡者の気配も消えた。
 自称婚約者本人ではないと思うが、雇われ者かもしれない。注意は必要だろう。
ピーピングパペット覗き模型に追跡させた。今日のクエストはこれで終わりだ」
「これから予定はあるの? ちょっと酒場に行きましょうよ」
「予定はない。勉強させてもらった礼だ。ごちそうする」
「やった! チェレステに例の店を聞いておいた。ホッピーを飲もうぜ」
 カールラは髪を後ろで縛りポニーテールになった。

 少し遠回りして雑貨と小物の店【ミコラーシュ】に戻る。ショーウィンドーと窓越しに店内を眺める。客入りはかわらず良い。商品はバッグやポーチ、ベルトなど雑貨全般にアクセサリー類。張り紙には修理も請け負うと書かれていた。
「品物からして庶民向きではないかなあ。ちょっとだけ高めって感じね」
「デザインは一流工房の雰囲気があるな。しかしブランドの銘はなしか」
「入ってみる?」
「混んでいるし冷やかしはやめておこうか。中は女ばかりだ」
(ここでは目立てんしな……)
「男の客が入ったら目立わね」
「そうだ」
 二人は居酒屋に向かう。

 まだ早い時間で店は閑散としていた。二人はサンクチュアリが使っていたテーブルに座る。シルヴェリオはフランチェスカが座っていた席だ。
(合席を楽しませてもらうぞっ!)
「その隣に座っていたのがコンチェッタ。青い髪でご近所、ダンジョンにも来た娘ね。今日いたもう一人がプリシッラ。幼なじみで黒髪」
「仲が良いようだ」
「ところで次はどうするの? こっちの予定もあるしなー」
「教会だ。ダンジョンイベントがあれば我らも行く」
「冒険者登録してみたらどうかな? 何かと便利だしー」
「確かに」
 戦いの世界はカールラが先輩だ。ここは素直に従おうと決める。
 ウエイトレスがホッピーを運んできた。見た目はビールである。二人は乾杯した。
「これはただの、ビール?」
「そう、醸造に失敗してアルコール度数が低いビールに、蒸留酒を足して強くしたんだ。安酒な」
「そうだったのか……」

「おっと、今日はサボってデートかい?」
 冒険者のパーティーが入店する。この店はそういう店で、【サンクチュアリ】もそんな雰囲気を楽しんでいた。
「違うよ、ウチ商会のお得意様さ。今日は接待」
「ああ……」
 先日ダンジョンで遭遇した冒険者たちだ。シルヴェリオの顔を見て納得する。
「魔獣はどう?」
「変わらずだな。平和なモンさ」
 ここは情報交換の場でもある。
「例の魔力はボチボチ情報を集めるよ。そっちが怖い」
 カールラは顔を寄せて小声で言う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...