上 下
12 / 53

12「追加クエスト」

しおりを挟む
「さて、そろそろ帰り時ですかね?」
「うむ、今日はもう終わりとしよう」
 上層に戻るとフランチェスカたちは、まだ同じ階層にいた。こちらも、そろそろ引き上げようとしている。
 シルヴェリオは遠巻きにそれを見守った。何やら話をしている。気になってしかたない。
「和気あいあいとしてるニャン。会話を聞いてみるニャン?」
「やってくれ――」
(なんとも便利なスキルがあるものだな)
「――盗み聞きにもってこいだ。素晴らしい」
「魔獣との戦いに必要ニャンッ!」
 シルヴェリオは猫に怒られてしまった。
 ドキドキしながらしばし待つ。他人の心を覗くような緊張感だ。姿形はつねに見つめているのだが、仲間は音声のスキルを持たない弱点を補ってくれる。これがパーティーだ。
「どうだ? 何を話している? 私との運命の出会いとか……」
「打ち上げの反省会に、皆で行こうと話してるニャ~」
「なんだと!」
「親交を深めるみたいだなー」
「盛り上がりそうだニャン」
「ぬぬっ!」
「シルヴェリオ様は、お邪魔虫ニャン」
 場の雰囲気を冷静に見れば、フランチェスカがモテモテのような気がする。彼女は今、狙われた令嬢状態だ。
「害虫どもめ~っ……」

サンクチュアリアッツァの聖域】たちは足取りも軽くダンジョンをあとにする。シルヴェリオたちは少し間をおいて帰還の途についた。
「今日の成果はいかがでしたか? あの……、報告が必要なのです」
父親おやじ殿にか。まあいい。ミノタウロスは刺激的だった。私の力は上がっている」
「聖剣はどうでした?」
「ただの剣だ。今のところ。今日は私だけで戦った」
「初戦の戦果としては十分です」
 デメトリアはホッとしたように言った。

 一行は森の道を歩く。街が近づいてきた。
「ヤツらを追跡したい。誰か行ってくれるか?」
「えー、めんどうくさいニャン。契約した仕事はもう終わりニャン!」
「追加の報酬は個人で支払う」
「了解ニャン。それと酒場の経費も」
「無論。これは偵察クエストだ」
「それなら私だニャン」
 チェレステが立候補する。パーティーで偵察を受け持つスキル持ちだ。
「これを使う」
 シルヴェリオは手のひらで光球を作り出す。それは浮遊し、チェレステに吸い込まれた。
「シャーーッ!」
「怒るな。偵察を記録するスキルだ。昔何度か使っている」
「ヘンなスキルを持ってるよなー」
「目立たないように、なるべく近くに座ってくれ。音は記録できん」
「私に任せるニャン。会話はスキルで聞くニャン」
「頼むぞ。追加報酬ははずむ」
「はいニャッ!」
 チェレステは猫の素早さで、宵闇迫るヘルミネンの街並み消えていった。シルヴェリオたちは屋敷に戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【短編】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
 もうすぐ、赤ちゃんが生まれる。  誕生を祝いに、領地から父の辺境伯が訪ねてくるのを心待ちにしているアリシア。 でも、夫と赤髪メイドのメリッサが口づけを交わしているのを見てしまう。 「なぜ、メリッサもお腹に赤ちゃんがいるの!?」  アリシアは夫の愛を疑う。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...