僕と猫と明珍火箸 ー 勝手に他人の半生を書いてみた

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お菊の皿をすり替えろ!

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(17)お菊の皿をすり替えろ!

今日の夜、皿のすり替えを決行する。

青山家に侵入して皿を盗み出す計画は、信子の反対により中止となった。
その代わりに、お菊さんが本物の皿を数えている時に、偽物の皿とすり替えることになった。

『お菊の皿』にそっくりな皿をデパートで買った。
お菊さんが皿をすり替えたら、武と信子は姫路工業大学で構成成分の分析を開始する予定だ。

武たちはお菊さんに皿屋敷の儀式を確認した。

儀式は毎日午後8時に行われているようだ。
本物の『お菊の皿』は青山家に保管されている。
青山家の人間が『お菊の皿』を毎日午後7時50分に姫路城のお菊井戸に持ってきて、置いておく。午後8時にお菊さんが出現し、皿を『1』から『9』まで数えた後、青山家の人間が間髪入れずに『10』と言う。そうすると、お菊さんは「あらうれしや」と言って消える。

これが一連の皿屋敷の儀式だ。
皿のすり替えに使える時間は、お菊さんが皿を『1』から『9』まで数える間だから20秒程度だ。素早いすり替え作業が要求される。

お菊さんは水蒸気の膜を使って物質を透明にする能力を有している。
皿を数えている間に、水蒸気の膜で本物の皿と偽物の皿を透明にしてすり替えることになった。

※詳しくは『第8話 アオヤマの嘘から出た実』をご覧下さい。

武とお菊さんはしばらく打合せをした後、皿のすり替え作戦を決行するために姫路城に向かった。


***

お菊さんのすり替え作業における不測の事態に備えるため、武と猫はお菊さんに同行している。お菊さんは水蒸気の膜を使って透明になれるから、武と猫も膜の中に入れてもらって姫路城に侵入した。

猫は透明になったことに興奮しているようだ。「入館時間過ぎても入れるなー」とか「入場料いらないなー」と騒いでいる。

猫に入館時間も入場料もないのだが・・・

武たちが姫路城のお菊井戸に到着したのは午後7時30分。武と猫はお菊井戸の近くに隠れているのだが、暇だから小声で雑談している。

「この井戸は広場のど真ん中にあるんだなー。この井戸に死体を投げ入れたら『見つけて下さい!』って言ってるようなもんだろ?」と猫は言った。

「だよなー。殺人の偽装が目的だったから、わざと見つかりやすい場所にしたんじゃないか? そうじゃないと、お菊さんは誰かに発見してもらえるまで1週間でも2週間でも待ってないといけない」

「確かに・・・。早く発見してもらえなかったら悲惨だな・・・」

午後7時50分になると、時間通りに青山家の当主のおじいさんが風呂敷包みを持って井戸の側にやってきた。中には『お菊の皿』が入っているのだろう。
お菊さんは既にお菊井戸の側にいて、透明の状態で待機している。

午後8時になると、お菊さんは水蒸気の膜をとって姿を現した。幽霊に見えるように、足元をぼやかしている。
芸が細かい・・・。

お菊さんはお菊井戸の側に置かれた皿一式を確認すると、皿数えの作業に取り掛かった。

お菊さんは風呂敷に包まれた皿を取り出し丁寧に床に置く。
長年繰り返し行われてきた儀式。実に無駄のない美しい動きだ。

午後8時1分を過ぎたころ、お菊さんは数え始めた。

― いちまぁ~い・・・ にまぁ~い・・・

武と猫は少し離れたところから見ている。

「すげーなー。幽霊っぽいなー」と猫は感心している。

「そりゃそうだよ。400年も幽霊を演じ続けているんだから、芸術の域に達してる。動きもスムーズだし、『いちまぁ~い』も抑揚が効いたいい声だ」と武は猫に言った。

「いやー。まさか本当の播州皿屋敷を見れると思わなかったなー。役得だな」

「だな」

武たちが話している間も皿数えは進んでいく。

― ごまぁ~い・・・

お菊さんはそう言った瞬間、手に持った皿を水蒸気の膜を掛けて透明にし、偽物の皿とすり替えた。本物の皿はお菊さんの着物の袖に隠したようだ。

「武、見たか? すげーな。見事なテクニックだなー」猫は興奮して言った。

「ああ、すごい! あれは麻雀で使えそうだ。牌を隠せるからイカサマし放題だ」武はお菊さんのテクニックを冷静に分析する。

「そうだな。お菊さんと麻雀やるのは危険だな」猫はしみじみと言った。


― きゅうまぁ~い・・・

お菊さんが言うと、後ろから青山家の当主がやってきて「じゅう(十)」と言った。

― あらうれしや~

お菊さんは水蒸気の膜を被って視界から消えた。
青山家の当主は、地面に置かれた9枚の皿を風呂敷に包んで帰り支度をしている。

猫は笑いをこらえている。

「茶番だと分かって見るのはダメだな・・・。シュールすぎるぞ、あれ。あのじいさんが『十』って言った瞬間、俺笑いそうになった」

「しー、静かに・・・」武は猫に言った。

青山家の当主は猫の声に少し反応したものの、何もなかったようにお菊井戸から立ち去っていった。
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