息子の日記を発見したから読んでみた話

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息子の日記を読む(その1)

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 私は息子の日記の記念すべき1ページ目を開いた。

【5月7日<日> 今日から日記を書くことにした。ゴールデンウイークが終わって明日から学校。オオシロに明日会えるかな?】

 日記の最初は高校2年生の5月7日から始まっている。何とも中途半端な日記のスタートだ。新学期が始まる4月でもなく、ゴールデンウイークの最終日。きっと雑誌か何かに『日記をつけるといい』と書いてあったのだ。

 そういえば、私も高校生の時に日記を書いたことあった。交換日記だ。当時付き合っていた女の子が「交換日記をしよう!」と言ってきて、1週間くらい交換日記をした記憶がある。
 知らない人のために説明すると、交換日記は一方が日記を書いた後、もう一方に日記を渡す。受取った側は日記を書いて、次の日に日記を渡す。この繰り返しが延々と続くシステムだ。
 だから、1週間交換日記をしたものの、私が書いた交換日記は正確には3回だけ。彼女→私→彼女→私→彼女→私だったかな?
 彼女は毎回1~2ページの日記を書いていたが、私の日記は1~2行だった。その結果、「私ばっかり書いてて、不公平!」と怒られて、私たちの交換日記は終わった。
 交換日記の終わりとともに、彼女との関係も自然に消滅していったのだ。今思えば、私が交換日記をまじめに書いていれば、彼女との交際はもう少し長く続いたのではないかと思う。

 まあ、私のことはどうでもいい・・・

 まず、私は初めての日記に登場した謎の人物『オオシロ』に着目する。『くん』も『ちゃん』も付いていない。呼び捨て、ただの苗字。この書き方だったら男子も女子もありえる。
 でも、私はほぼ女子だと確信している。だって、同級生の男子に『明日会えるかな?』とは書かない。息子はゲイではないことは妻から確認したから、『オオシロ』は女だ!
 私のミステリー小説の経験値がそう言っている。

 私は息子の高校時代の交友関係を把握しているわけではないから、このヒントだけでは『オオシロ』に辿り着くことはできない。でも、息子の部屋に置いてある卒業アルバムを見れば『オオシロ』を探し出すことができる。
 私は家に帰ったら卒業アルバムで『オオシロ』を探すことにした。

 私は次のページを捲った。


【6月5日<月> ほぼ1カ月ぶりの更新です。アッちゃんがバスケ部のナオと付き合い始めた。高校二年になるとまわりが彼女持ちになっていく。俺も頑張るか】

 2回目の日記が前回から1カ月後。私の息子は根気がないタイプだ。親としてあまり感心はできないが、まあ、私が日記を毎日付けるかと聞かれると、無理だ。交換日記も1週間で終わった。3回しか書いてない。私の息子であることを考慮すると、月1更新は不自然ではない。

 日記に出てくる『アッちゃん』は男子だ。何度か家に来たことがあるから覚えている。その友人に『ナオ』という彼女ができて息子が焦っている。
 部活帰りに一緒に帰っていたのに、彼女ができると彼女と帰るようになる。友人として寂しい気持ちもあるが、応援してあげたい気持ちもある。複雑な心境だったろう。私にもそんなことがあった。

 高校時代の友人のタナカが女子から凄い人気だった。学校内の女子はもちろん、他校の女子からも告白されていた。バレンタインデーにタナカからチョコレートを分けてもらったことがある。あれは、屈辱的な思い出だ。
 そんなタナカは2~3カ月サイクルで彼女が変わっていた。前の彼女と別れて次の彼女と付き合うまでの僅かな間だけ、私はタナカと一緒に帰っていたような気がする。
 タナカの前の彼女と次の彼女が、時期的に被っていなかったかどうかは私には分からない。二股がバレるといけないから意図的に、タナカは私と一緒に帰る期間を挟んでいたような気もする。今になって思えば、私は、二股がバレないために利用するタナカの友人Aだったのかもしれない。

 私の話はどっちでもいい・・・

 ここにはヒントがなさそうだから、私は次のページを捲った。

【6月23日<金> 2週間ぶりの更新。今日はアキラから将来の夢を聞いた。建築士になりたいらしい。俺もそろそろ進路を考えた方がいいのだろう?】

 3回目の日記は進路についてだ。高校生っぽくて好感が持てる。この後、息子は大学に進学して、今は商社で働いている。この時点で真剣に進路を考えていたかは分からない。
 私も高校時代に明確に進路を考えていなかったし、息子を批判すると自分にブーメランのように戻ってきそうだ。

 次いこう、次だ。


【7月14日<金> 来週から夏休み。部活の合宿があるし、アキラたちと海にいく約束をした。それに、アッちゃんに誘われたから夏期講習に申し込んだ。遊びも勉強も忙しくなりそうだ】

 私は4回目の日記を見ながら考えている。今さらなのだが、この日記を見続ければ、本当に息子のことが分かるのだろうか? 私は自分のミステリー的な勘に自信がなくなっている。

 日記には表面的なことだけが書いてある。本人の心情は書かれてない。
 勝手に息子の日記を読んでいる私が言うのも何だが、ちょっと飽きてきた。

―― そろそろ恋バナが出てこないかな?

 私は恋バナを期待してページを捲った。
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