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二つの作戦

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 1話目で自己紹介をしてなかったから一応しておこう。

 私の名前はマーガレット・マックスウェル・ウィリアムズ。ヘイズ王国では国王に次ぐ地位にあるウィリアムズ公爵家の長女。
 ウィリアムズ公爵家は私が夫を迎えて継ぐ予定なのだけど、公爵令嬢である私は恋をした。貧乏男爵のロベール・ル・ヴァクトに。

 ヘイズ王国の爵位は、男爵→子爵→伯爵→侯爵→公爵の順番。だから、公爵家と男爵家には身分の差がある。私がロベールと婚約するためには、今の爵位(男爵)から伯爵くらいまで引き上げないといけない。そうでないと、関係各所から苦情が来てしまう・・・

 この物語は、私が恋したロベールを、私の婚約者として外野から文句が言われないくらいまで出世させていく話。

***

 私は違法薬物を輸入してスラム街でばら撒いている貴族を捕まえるつもりだ。これは公爵家として当然の責務。それに、ロベールも協力してくれそうだから一緒にいる時間が増える。いいことだ。
 ただ、建前はともかくとして、違法薬物に関与する貴族を捕まえることには別の目的がある。これは、ロベールには伝えてない。私の本当の目的。

 さっそく私は二つの作戦を部下に伝えることにした。

「フィリップ、来なさい!」

 私の声に応じて、音もなくフィリップが私の前に跪いた。

「ビックリするじゃない。返事くらいしなさいよ・・・」
「失礼いたしました。ふっ・・・」
「いま、笑ったわよね?」
「いえ、ぜんぜん。ぜんぜん笑っていません」

 フィリップの反応はいつものことだから、私は気にしない。

「それと、ミシェルは?」

「はい、こちらに!」

 私の声に応じて、メイド服の女性がフィリップの横に並んだ。
 こっちは私の侍女のミッシェル。私の通うヘイズ王立魔法学園にも生徒として通っている。女性にしかできないことがあるから、私はフィリップとミッシェルを上手く使い分けているわけ。


「二人に重要な任務があります! 最重要です! 何を置いても対応しなさい!」

「「はぁ」」
 気乗りしないフィリップとミシェルの声が聞こえたような気がする。

 私は二つの作戦をぶち上げる。

「まず、一つ目の任務です。これはフィリップに担当してもらいます」
「どういう内容でしょうか?」
「名付けて『邪魔な子爵を潰す作戦』です」
「邪魔な子爵を潰す作戦? ネーミングセンスがゼロですね」

 相変わらずなミシェルのダメだしが聞こえる。ミシェルは私の侍女なのに面倒くさい。
 私はミシェルに問う。

「じゃあ、何だったらいいの?」
「作戦の内容が分からないと最適なネーミングは付けれませんね」

――こいつ、面倒くさい・・・

 私は話を進めることにした。

「まず、作戦を円滑に進めるために、前提条件を説明しましょう!」

 私はそういうと、部屋の壁に私のイメージする『邪魔な子爵を潰す作戦』を映写した。


※邪魔な子爵を潰す作戦のイメージ図




「まず、ヘイズ王国の貴族位はこんな感じ。それで、ロベールは今ここ!」

 私はそういうと、映写した図の『ロ』と書いてある丸印を指した。フィリップは黙って頷いている。

「私はロベールを伯爵まで出世させたい。でも、いきなり男爵から伯爵は無理よね?」
「そうですね。男爵と伯爵の間には、子爵がありますから」
「そうよ! その通り! だから、私はまずロベールを子爵に出世させようと思っている。ここまではいい?」

「はい」フィリップは静かに言った。

「貴族の数はむやみに増やせないよね?」
「はぁ、そうですね・・・」
「ロベールを子爵にするにはどうしたらいいか? 答えは簡単。邪魔な子爵家をいくつか潰して、ロベールを空いたポジションに入れればいい!」

「邪魔な子爵家ですか?」フィリップは私の案に不満なようだ。

「善良な子爵家を潰せとは言ってない。私が邪魔な子爵家と言ったのは、不正・汚職にまみれたクソ子爵のことよ。潰れて当然でしょ?」
「まぁ、それであれば・・・」
「さらに、今回の違法薬物を輸入しているのが貴族、さらに子爵であれば都合がいいわ」
「お嬢様の作戦としてはそうですね・・・」

 私はフィリップの眼を真っすぐに見据え、命令を伝える。

「フィリップ、命令します。違法薬物を輸入している貴族の証拠をすぐにつかんできなさい。できれば子爵がいいわ」
「はっ!」

 フィリップは返事とともに音もなく消えた。さっそく、違法薬物を輸入している証拠を探しにいったようだ。子爵家であればなお良いのだが・・・


***


 私は次の作戦をミシェルに伝えることにする。

「ミシェル、あなたの任務は『虫よけ大作戦』よ!」

「虫よけですか。相変わらずのネーミングセンスですね」
「うるさいわねー!」
「はいはい。どうせ私はうるさいですよ」
「『はい』は1回!」

「で、具体的に私はどのように?」ミシェルが私に尋ねた。

「あなたは私に侍女であると同時にヘイズ王立魔法学園の生徒でもある」
「はい」
「私とロベールの恋路をサポートするのはもちろんのこと…」
「他にもあるんですか?」
「あるわ! ロベールに言い寄ってくる虫(女)を追い払うのよ!」
「追い払うのですか? なぜです?」

――命令なのに・・・理由が必要なのか?

 私の侍女(ミシェル)はかなり面倒くさい。ミシェルは自分が納得しないと動かないのだ。
 しかたなく、私は昨日の生徒会室での出来事をミシェルに伝える。

「最近、ロベールに生徒会を手伝ってもらっているのは知っているわよね?」
「もちろん知っています。お嬢様が強引だからロベール様も断れないのかと・・・」
「そこはいいの。ロベールは陰の生徒会メンバーよ」
「陰ですか。中二病みたいですねー」

 いちいち私の言うことにツッこむミシェル。相手をしていると先に進まないから、私は話を進める。

「昨日、私が生徒会室に行ったときのこと。ロベールの周りに女子生徒が群がっていたの」
「まぁ、ロベール様はああ見えて人気ありますから」
「そうなの。見た目が抜群に良いでもない・・・」
「でも、ロベール様と話していると楽しいんです」
「そう! その通り! よく分かってるわね?」
「もちろん! ロベール様は他の男子生徒みたいに偉そうにしないし、女性への気遣いができています。嫌な顔一つせずに相談にのってくれますし・・・」
「ミシェル、あなた、目がハートになってない?」
「違います! ロベール様が女子生徒に人気があるのをお嬢様に伝えたかっただけです」
「本当に?」
「本当です!」
「まあ、いいわ」
「それで、続きは?」

 ミシェルは私に話を進めるように誘導した。

「私は生徒会室でロベールと群がってくる女子生徒を見ていたの」
「はぁ。それで何かあったのですか?」
「問題だらけよ!」
「ロベール様が生徒会室で女子生徒と話すのに何か問題でもあるんですか?」

「まず、距離が近い!」
「距離ですか?」
「ええ、そうよ。中にはロベールにベタベタと触っている女子生徒もいたわ!」
「スキンシップですか・・・」
「見ていて気持ちいいものではないわね」
「まぁ、そうですね」
「私は他の女子生徒にロベールをベタベタ触ってほしくないのよ!」
「はぁ・・・」
「だから、対策が必要なの!」

 ミシェルは何かを考えているようだ。私はミシェルに尋ねる。

「どうしたの?」
「いえ・・・。念のための確認なんですが・・・」
「何よ?」
「お嬢様はロベール様と付き合っているのですよね?」
「えぇ?」

 ミシェルの質問の意図を計りかねる私。でも、この質問が出るということは、ミシェルは私とロベールが付き合っているのかを疑っている。

――私はロベールと付き合っていない?

 私は急に不安になった。
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